ジョブ(仕事)は、個人が就業機会に出会うこと
によって生じるマッチングの産物である。この
マッチングを経済全体について高めるために
期待されたのは、専門的能力を本人の自助努力
によって形成することだった。
高度な専門的技能を保有することの重要性は
否定されるものではないが、むしろ実際には
「やる気」や「人柄」に象徴される勤務への
意欲や姿勢といった人的要素が、
転職の成否を決めるカギとなっている。
その上で就職活動に際しては、
自身がそれらの要素を保有することを
どのように他者に伝えるかという自己表現力が、
個人に求められている。
この自己表現力の形成は、ジョブを求める
すべての人々にあてはまる、世代を超えた
共通課題である。早期退職によって会社を去った人々は、
「今までの会社生活は自分にとって何だったのか」
「一体、自分とは何なのか」というアイデンティティの喪失感とも
呼べる状況を、多かれ少なかれ、経験するという。
そのような状況のなかで、自分と向かいあうことに
ケリをつけなければ、再就職の途は開かれない。
ある再就職支援会社では、求職者に
「これまであなたがどういう仕事をしてきたのかを、A4用紙に4行から
5行でいいから自分の言葉で書いてみてください」とたずねるという。
この一見すると簡単そうなことが出来ない。履歴書に書いてある
ような職務経歴ではなく、その背後にある仕事に対して個人が
どういう意思を持って行動してきたかを、自分の言葉で表現するのは
容易なことではない。そのことに本気で格闘し、自分なりにケリをつける
ことができた中高年から再就職は決まっていく。
(『ジョブ・クリエイション』329ページ)