いよいよ新刊の刊行となります。
『人間に格はない-石川経夫と2000年代の労働市場』
玄田有史、ミネルヴァ書房、2月24日発売、3500円
です。 ご愛顧のほど、よろしくお願いします。
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石川経夫先生が1998年に亡くなって以来、
私は何冊かの著書といくつかの論文を発表する機会に
恵まれた。それらの研究について、構想、実証、執筆といった、
あらゆる段階で「石川先生ならば、どのように考えるのだろうか」と、
自問することが半ば習慣となっていた。
自問とは第一に、学術研究に必要となる正確な知識と手法とは何か、
ということである。そしてそれにもまして重要に思えたのは、研究の問題意識、
把握方法、さらには表現手段が、はたして適切なものであるか、ということ
だった。大切なのは、根拠なく格下であるかのように見なされそうな人々の
働く実像、働けない実像を、少しでも正確に知ろうとすることである。
それが、石川先生からの教えだと、思っている。
本を執筆したときには、担当の編集者の方から丁寧なご意見をいただいたし、
学術論文を専門雑誌に投稿すれば、匿名のレフェリー(査読者)から厳しくも
的確な批判をいただいたりした。だが、正直にいえば、本でも論文でも、
最も手強いレフェリーとは、いつでも私のなかに生き続ける石川経夫だった。