首相が本日の衆議院の予算委員会で
被災地の買い上げを前向きに検討する
ことを表明したようだ。
しかし復興構想会議検討部会のなかで
行われたワーキンググループで、私は
下記の意見を提出した。そこでは参加者
の多くが同意された記憶がある。
特に重要なのは、4番目の論点だと
思っている。
復興構想会議が6月25日に行った提言でも
「必要な公的事業として土地を買収する
場合を除き、公的主体が被災地の土地を
買い上げることには、公的負担で利用価値
の乏しくなった土地を取得するという難点と、
被災地が他の地域に移転した場合、地域の再生
や復興には直接つながらないという難点がある
ことに留意したい」(提言13頁)と明記されている。
http://www.cas.go.jp/jp/fukkou/pdf/fukkouhenoteigen.pdf
首相の発言は、提言の内容を蔑ろに
している。
被災地の復興を願うものの一人として
買取りという甘い罠を安易に口にする
ことに私は賛成できない。
○
復興に関する様々な提言がなされるなかで、被災地を防災上の観点から国が買い取る(もしくは借り上げる)ことによって、復興を促すべきといった意見が提出されている。しかし、被災地を国が買収することについては、以下の点で疑問が残る。
1. 仮に被災地を国(もしくは県)が買い取ったとしても、埋没した土地などの時価は限りなくゼロに近く、被災者への補償にはならない。
2. かわりに、危険度が高く公共的な利用価値が低い土地を簿価などで買い取ることは、無駄な公共投資を行うことと同じであり、財政上問題が大きい。
3. 仮に国が買い取った土地の地価が復興過程で上昇したとしても、それを売ることで利益を得るならば、それは国による「土地ころがし」である。復興に国民負担を求めるなか、被災をきっかけに国が利益を得ることに、国民的理解は得られない。
4. 土地を国が買い取ってくれるかもしれないという安易な期待を被災者に抱かせることは、農地の「耕作放棄地」と同様、復興に向けた土地利用の進まない「復興放棄地」を被災地に生み出すことになり、自立的な復興の妨げになる。
5. 津波のリスクを認識した上で、愛着のある土地、先祖から託された土地にこれまで住み続け、かつ今後もそこに住むことを希望する人たちの意思は、最大限尊重されるべきである。
6. 重要なのは、将来再び被災するリスクを最小限にするべく、避難訓練・教育や連絡システムの整備などの、ソフト・ハード両面での防災対策の充実をはかることである。
7. 実際に被災地の一部を国が買い取るとしても、買い取る土地とそうでない土地の線引きをどこに置くのか、判断が困難である(国立公園指定や国道などの場合は例外)。
8. 被災地を膨大な金額で買い取る財政的な余裕は国にない。さらに国が買い取り、土地の利用を直接コントロールすることは、地域・コミュニティ主体の復興を基本にするという、復興構想会議が5月10日に示した復興構想七原則(原則2)に合致しない。
そのため「国が被災地を買い取ることは原則として行わない」ことを明確に示すことが重要ではないか。被災地域の買い取りを行うよりは、今後の防災対策と地域振興の両面から考えても、道路などの交通インフラ整備の方が、遙かに優先度が高い。
復興構想七原則(原則2)
「被災地の広域性・多様性を踏まえつつ、地域・コミュニティ主体の復興を基本とする。国は、復興の全体方針と制度設計によってそれを支える。」