快晴の空に
今朝は富士の
初冠雪
カテゴリー : 玄田日記
思入
昨日、
散歩をしている最中、
2010年代に書いたもののなかで
一番思い入れが深い論文は
どれかともし訊かれた場合、
(実際には訊かれることはないのだけれど)
どのように答えるのだろうと
ふと勝手に考えてみた。
思い入れというのは、
その時々で違うので
一概にこれと決めるのは
むずかしいなと
まず思った。
一つひとつの論文、本、エッセイでも
もし訊かれたならば、それを書いた
背景とか、なぜ書いたかなど、それなりに
話せるだろうなとも同時に思った。
その上で時代状況のなかで
なんとしても
書かなければいけない
と思って当時自分なりに
緊張感をもって
最も取り組んでいたのは
多分これかもしれない。
「東日本大震災が仕事に与えた影響について」
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2014/12/pdf/100-120.pdf
ちょうど書いていたのは
50歳になる直前だった。
被災地で突然のことで働けなくなった人々が
置かれた状況について、統計を使って
できるだけ正確に記録して将来に残したい
と思って書いたもの。
それまで愛着を持って
当たり前のように
暮らしたり働いていた場所を
突如奪われることが、その後の
生活や仕事にも深刻に影響を残すことを
述べたものだ。
それは今も毎年のように続く
地震、台風、洪水などの被害にも
当てはまるものかもしれない。
個人的には被災地でも
釜石など三陸沿岸の地域とかかわらせて
いただくことが今も多いが、
この論文を書いていた当時は、
特に福島の原発事故で避難を
強いられた人たちのことを
イメージしながら書いていた記憶がある。
その後は、別途実施したアンケートの分析等も含め
『危機と雇用』(岩波書店)
という本を2015年に出したりした。
「コロナ後」という文脈で
いろいろなことが語られようようとしている。
東日本震災の後も「震災後」ということで
生活や働き方が変わるといわれていた。
いったい何が変わり、
何が変わらなかったのか。
そのことを考え直してみることは
コロナ後に思いをめぐらす上でも
もしかしたら意味があるのかもしれない。
2020年7月の労働市場(5)
昨日は
第二次安倍政権の期間に
ほぼ相当する2013年から
2019年の過去平均と比較により
感染症拡大前後の労働市場の特徴を見た。
アイデアは、天気予報の「平年」との比較だ。
平年は過去30年くらいとの比較とのことなので
せっかくなので、こちらでも過去30年と比較
してみることにした。具体的には1990年から
2019年の月次平均ということになり、
ほぼ平成との時代と比較という意味にもなる。
結果が、こちら。
https://app.box.com/s/j2q09r8buuwv025qw5pn7l4y9d2xh1ph
ちなみに前回みた正規雇用、非正規雇用の月次データは
過去30年分は得られないため、
ここでは男女別の就業者数を見ることにした。
そこからは、なかなかに印象深い結果が表れた。
バブル経済の崩壊後、
「失われた20年」という言葉に象徴されるような
持続的な不況が平成の時代の長きを覆った。
その時代の平均と比べると、
感染症拡大前の2020年1月の就業者数は
369万人も多くなっていた。令和は
就業面に限れば好スタートを切っていた。
就業者の拡大を支えたのは、なんといっても女性だ。
男性雇用者も、過去30年平均に比べて121万人増えたが、
女性雇用者は、実に505万人も増えていたのである。
失業率が5%台に達することもあった平成の頃の
平均に比べると、完全失業者数は87万人も少ない。
労働力参加の進展もあって、非労働力人口も
29万人減っていた。
ところが感染が拡大した2020年4月では、
就業者数や雇用者数(特に女性)の過去30年
との差は一気に圧縮される。30年の蓄積の多くが
一瞬のうちに吹き飛んだかたちだ。
非労働力人口に至っては、
「働き止め」の広がりの影響もあって
過去の平均よりも111万人も多くなり、労働参加に
急ブレーキがかかっていたことは、このような比較
からも明確に確認できる。
最新の2020年7月でも、
就業者数や雇用者数は過去30年の差は
4月時点と大きく変わっておらず、その意味で
就業動向は概ね横ばいを続けている。
一方で、完全失業者数は30年の差が縮小を続け、
平成の厳しい就職難の再来が忍び寄っている
ようにも見え、不気味ではある。
非労働力人口も、依然として過去30年の平均を
上回っており、全般的な労働参加の再開とまでは
いえない状況にある。
労働市場の動向も
常に多面的に確認する必要があること、
さらには短期的な比較だけではなく、
長期的な比較の観点も持たなければならないことを
今回改めて確認した。
2020年7月の労働市場(4)
すっかり暑さも遠のき、
朝昼晩と涼しくなった。
猛暑のニュースもすっかり
過去のようだ。
気温がグングン上がっていたときには
それを示すために「前日に比べて」
という比較がよくされていた。
またそれと並んで、
今年の猛暑がいかに特別なものかを
表すために
「過去何年かの同じ日と比べて」
とか
「平年の同じ日の平均気温は」
などのような情報も流れていた。
今年の感染拡大後の労働市場の状況についても
対前年同月というのがよく指標として
取り上げられているが、
もしその前年自体が特殊な一年だと
そちらの影響を強く受けることにもなる。
実際、2019年は就業状況がかつてないほど
高水準で推移した特殊な年でもあった。
そこで労働市場についても
過去数年との平均状況と比較してみることにした。
具体的には、第2次安倍内閣の期間にほぼ重なり、
かつ労働力調査の調査内容が一部で変更された
2013年から2019年の過去7年間の
各月の平均水準との比較を
主要指標に関して行ってみた。
(※ ちなみに天気予報の「平年」は過去30年くらいの
平均なのだそう)
その結果が、こちら。
https://app.box.com/s/ygkytnhygfbj0hcv2ohm60kiq3muq3tp
まず就業者については
感染拡大前の2020年1月は
2013年から19年の1月平均に比べて
267万人も多い6687万人の水準にあった
(原数値、以下同様)。
それが緊急事態宣言が発出された
2020年4月になると就業者数は
6628万人となり、過去平均との差も
150万人まで縮小する。
直近の2020年7月には平均より145万人増の
6655万人と、感染拡大後は今のところ
ほぼ横ばいを保っている。
このように感染拡大後も就業者数が
思いのほか安定的に推移しているのは、
正規雇用に主な原因がある。
感染拡大前後を通じて正規雇用者数に
目に見える減少はみられず、さらに
実数のみならず、過去平均との差も
感染前よりもむしろ拡大している。
正社員は感染にもかかわらず
今のところ全体的には
ほぼ盤石なのである。
それに対し、非正規雇用には明らかな
翳りが見られ始めている。第2次安倍内閣では
就業増大は非正規雇用に集中したという批判がある。
実際、2020年1月に非正規雇用は2149万人と
過去7年の1月の平均に比べて
128万人も増加していたのは事実である。
ところが2020年4月になると非正規雇用は
2019万人まで減少、過去平均との差も
32万人と、100万人近く急速に減少する。
それが7月には平均との差がさらに
19万人まで縮小している。7年にわたる
非正規雇用拡大のボーナス(特典)は、
感染拡大により、ほぼ消失しつつある。
同様に完全失業者も
今年1月は過去7年に比べて
52万人少ない159万人になるなど
アベノミクスの産物として
明らかに失業は抑制されていた。
ところが直近の7月には197万人となり、
平均との差10万人と、ほぼ消失しかけている。
感染拡大後も現時点では
正社員の就業機会は保たれている反面、
非正規や失業者の不安は高まっており、
格差が深刻になり始めたところで
新内閣はスタートしたことになる。
これは早晩大きな課題になるだろう。
また人口減少による
労働力不足という長期的な課題に対しては、
非労働力人口がすう勢的に減少することで
労働参加の拡大による対応が着実に進んできた。
今年1月には、非労働力人口は
過去7年に比べて236万人も少ない4233万人まで
縮減していた。
それが4月になると過去との差が139万人まで
圧縮される。その背景には、これまで再三
してきた高齢者や幼い子どもを持つ母親などが
働くことを断念する「働き止め」が働いていた。
7月にも過去7年との差は160万人にとどまっており、
働き止めの影響は完全には解消されていない。
その意味では「一億総活躍」というキャッチフレーズ
にもブレーキがかかり、全体的な労働参加には
足踏みがなお続いたままの状態でもある。
来週10月2日は、8月の労働市場の結果が公表される。
発表後は、過去の平均との比較も行ってみたい。
締切
今月は
いろいろと
締切で一杯だ。
これも
社会経済活動の
再開・本格化ということと
多少なりとも
関係しているのだろうか。
いずれにせよ、
ありがたいことではある。
ちなみに
締切原稿などで
たとえば1300字程度
と指定されると
なぜか1300字ぴったりに
原稿を書きたくなるのは私
だけだろうか。
だからどうということでも
ないのだが、最近どうも
そんなところがある。
ただ
依頼元から
「ピッタリですね!」
と言われたことは
一回ぐらいしかないけれど。
どんなもんだろうか。