正規の職員・従業員

小倉一哉さんの
『「正社員」の研究』
によれば、
政府の統計に
「正規の職員・従業員」
という言葉がはじめて登場
したのは、
1982年の総務省統計局
「就業構造基本調査」
のようです。

その翌年から統計局は
当時1年に1度、2月に行われていた
「労働力調査特別調査」でも
正規の職員・従業員
という区分を用い始めます。

ちなみに正規の職員・従業員以外は
「パート・アルバイト」
「嘱託など」
「その他」
から一つを選ぶことになっていました。

1980年代から
いよいよ正規雇用、正社員が登場し始めます。

 

 

「一般労働者」

政府の資料や統計などに
「パートタイマー」という用語が
1970年代に広く使われるようになりました。

ではパートタイマーではない
労働者をなんと呼んでいたかというと、
労働省(当時)の『賃金構造基本統計調査』では
「一般労働者」としていました。

一般労働者とは、就業規則に定められた
一般的な所定内労働時間が適用されている労働者を言います。

この頃は、あくまで(所定内)労働時間の適用
の有無という客観的区分けが重視されていました。

ここでもまだ「正社員」は登場しません。

「パートタイマー」の登場

では1960年代になると
どうでしょう。そこでもまだ
「正社員」「非正社員」
は登場しません。

むしろ60年代に広まった
新しい働き方といえば
なんといっても
「パートタイマー」
です。

昭和39年(1964年)の
労働省(当時)による
『労働白書』(当時)には
こんな記述があります。

「これはさきにも述べたように
求人難の進展に伴い
家庭婦人が労働市場に進出し、
さらには既婚者で臨時的な仕事
あるいはパートタイマーなどの型で
就業する者が増大していることを
示すものであろう。」(113ページ)

家庭婦人という表現もなつかしいですが、
おそらく労働白書にパートタイマーの
言葉が登場したのは、この年が最初のようです。

翌年の白書にも、

「このような求人難の進展に対処して、(略)
新しい対応として季節工を採用したり、
大都市の食料品、電気機器などの産業で
家庭の主婦層を中心とするパートタイマー
を活動する動きが目立ってきた。」(120ページ)

とあり、新しい動きとしてのパートタイマーへの
注目が、その後本格化していきます。

ちなみに日本の代表的な賃金に関する統計である
『賃金構造基本統計調査』(旧労働省・現厚生労働省)に
「パートタイマー」による区分が始まるのは
昭和44年(1969年)からです。

このようにして1970年代になると
「パートタイマー」への関心が広がっていく
ことになるのです。

「正社員」の歴史

正社員にせよ、
非正社員にせよ、
実は中身はかなり
曖昧という話を
してきました。

でも、じゃあなんで
ずっと話題になっているの?
と思う人もいるかもしれません。

2013年に
小倉一哉さんという早稲田大学の先生が
『「正社員」の研究』
(日本経済新聞出版社)
という、とてもユニークな本を
書かれています。

その第一章には、
正社員という言葉の歴史が
詳しく調べられています。

古いところでは
まだ明治時代だった1901年に
操業が開始された八幡製鉄所
には、当初から
「職員」と「職工」という区分が
あったそうです。

1930年代になると、
日立製作所などでは
「社員」と「職工」という区分があって、
異なる就業規則が適用されていたそうです。

戦後1940年代後半になると
「社員」と「工員」という身分差の
解消に労働組合などは努力します。

年功賃金や長期雇用などの
いわゆる日本的雇用システムが
広く普及したのは、1950年代以降
というのが、多くの研究者の定説です。
ただ、その頃の文献には、まだ
「正社員」「非正社員」という区分や
その差を解消しようといった表現は
登場していません。

「正社員」ってナンだろう?

みなさんの
お手元に
国語辞典がある方。

よろしければ
「正規雇用」
「正社員」
を引いてみてください。

たぶん、
ほとんどの辞書には
載っていないはずです。

有名な岩波書店『広辞苑』にも
1998年刊行の第五版には
登場しませんでした。

2008年に刊行された『広辞苑』第六版に
はじめて「正規雇用」は出てきます。

「非正社員」「非正規雇用」が出ている
辞書は今のところ、見たことがありません。

当たり前のように
使われる
「正社員」
ですが、実はその内実は
よくわからないのです。

非正規雇用は有期雇用?

ウィキペディアで
「非正規雇用」を調べると
非正規雇用(ひせいきこよう)は、いわゆる「正規雇用」以外の有期雇用をいう。
と出てきます。

事実はそうでしょうか。

総務省統計局の
「労働力調査」(2015年)の
調査結果を見てみます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001143324

Ⅱ-7表の一枚目のシートを
みると、「非正規の職員・従業員」は
2015年平均で1980万人です。

その上で3枚目のシートには
「無期の契約」が出ていて、
非正規の職員・従業員のうち
無期の契約は602万人となっているのです。

非正規がすべて有期雇用というのは
事実と異なります。3割は無期の契約なのです。

一方でシートの4枚目をみると、
有期の契約の正社員が123万人存在しています。

正社員=無期雇用、非正社員=有期雇用
というイメージは、実態とは大きくかけ離れています。

正社員って、なにが正しいの?

今月の雑誌『中央公論』に
「正規」と「非正規」の線引きをやめよう
という文章を書いてみました。
http://www.chuokoron.jp/newest_issue/index.html

前々から感じていた
「非正規雇用」問題について
書いてみたものです。

これからは
正規・非正規よりも
無期・有期雇用に
注目していったほうが
よいこと、

その上で、できるだけ
無期か長期の有期雇用が
増えるよう
目標を明確にしたほうが
よいこと、

さらには現在450万人近く
存在する自分の雇用契約期間が
「わからない」
という人を少しでも減らしていく
よう対策を進めるべきこと、

などを書いています。

すでにいろいろとご意見やご批判も
いただいていますが、
みなさんとこの問題を共有
できればと思っています。

誤解

今朝、
雇用問題にまつわる
とある研究会に参加した。

そして実は自分が
完全に誤解していたと
思ったことがあった。

私は最近の労働問題のうち
最も重要なことは、
人手不足が続いているにも
かかわらず、なぜ実質賃金
(消費者物価に対する名目給料)
がいつまでも増えないのか
だと思っていた。

労働経済学の教科書を
みると、
失業が多く、
人手余剰のときでも
賃金は下がらないことがある
ということがよく書かれている。
ケインズの指摘した
「不況期における賃金の下方硬直性」
の問題だ。

今、起こっているのは
「好況期における賃金の上方硬直性」
なのだ。

人手が足りないのならば、
人を雇うことで利潤の拡大を目論む
企業は、賃金を上げてでも人手を
確保しようとするはず。
なぜそうならないのか。

問題は「人手不足」ではなかった。
重要なのは「人材不足」の深刻化
だったのだ。

どこか別のところや、別の会社に
会社が必要とする人がいるのであれば、
その人たちを惹き付けるためにより高い
求人賃金を提示する。また会社のなかに
必要とする人がいるが、人手不足で
引き抜きのおそれがあるときには、
賃金を上げることで、なんとか会社に
とどまってもらおうとする。

いずれも人手不足の前提は、会社に
必要な人材は「必ず存在」するという
ことだ。そのときには、いずれ賃金は
増えていくだろう。

しかし「人材不足」はそれとはまったく
事情が異なる。会社は特定の仕事を
やってくれる人を必要としているのだが、
そんな人材が社内外のどこを探してもいない。
それが人材不足、もっといえば人材枯渇、
さらには人材消失とでもいえる。

人材枯渇であれば、どんなに賃金を上げようにも
そもそも人がいないのだから、人が集まるはずが
ない。また社内にも人材やその候補者はいないと
会社が思えば、その人たちのために高い賃金を
払うことはない。だから賃金が上がることはないのだ。

そこには人を雇おうと思っても人材は求職してこない、
人を育てようとしても人材は育っていかないという、
一種の諦めが、企業にはある。
労働者の側にも、努力して然るべき人材になっても
採用されない、人材になるための育成機会も
得られないという諦めがある。

だとすれば
人材枯渇にもかかわらず
賃金が上がるとすれば
それはどのような状況なのだろうか。
働く人が独立・上昇志向を持って、人生の
ステップアップを繰り返しながら、転職や独立を
続けることで得られる熟練(skill)を磨き
それによって賃金を上げていく。また
会社も人材がいないとなれば、自分たちの手で
熟練を身につけた人材を丁寧に育てていく。
これらはともに高度成長期の時代に実際に
日本のなかで起こったことだった。

しかしそれらはいずれも同時に、21世紀以降、
急速に日本社会のなかで弱くなっていったことでもある。
そしてそれを取り戻すには、まちがいなく
とてつもない時間がかかる。だからすぐには
賃金は上がらない。目先で若干上がることはあっても
賃金の順調な上昇基調は簡単には取り戻せない。

賃金が上がらないのは、一時的な人手不足のせいではない。
賃金が上がらないのは、持続的な人材不足のせいなのだ。
その問題は、きわめて深刻だ。

No Music, No Life.

というコピーがあったが、
今本当に大事なことは

No Skill, No Wage.

なのだ。

 

七五三

学校を卒業して
就職した若者が
その仕事を3年以内に
離職するのが
中学卒で7割
高校卒で5割
大学卒で3割
といわれてきた。

いわゆる若年の
「7・5・3転職」
だ。
ところが
厚生労働省による
最近の調査では
そこに変化がみられるようだ。

大学卒の3割
こそ変わらないが
中学卒では6割、
高校卒では4割まで
下がっている。

くわしくは
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000058034.pdf
の16ページにある。

変化の背景として
好景気の人手不足
によって
当初から納得のゆく
仕事先に出会える確率が
中学・高校卒で上がったのだろうか。

一方で同じような
改善が大学卒でみられないのは
なぜなのだろうか。

今後も研究が必要なところだろう。

 

 

介護雇用改善法へ

ある研究会に参加、
介護の現状について
いろいろと学ぶ。

介護といえば
離職率の高さが
有名だ。

しかし介護労働安定センターが
実施した調査によれば
介護職員の離職率は着実に低下
しているのも事実だ。
2007年度には21.6%だった離職率は
2013年度では16.6%まで低下している。

厚生労働省の実施している雇用動向調査による
産業計での離職率は13年度が15.6%であり、
実のところ1%ポイントの違いしかない。

もっといえば雇用動向調査は
常用労働者5人以上の事業所が調査対象で
大規模事業書も少なからず含まれているのに対し、
介護事業所は1割弱が4人以下で、ほとんどが
100人未満の小規模事業だ。

そうなると、事業の規模を同じにして
(たとえば5人以上99人の事業所だけに限定)
比較すると、案外、介護職員だけが抜きん出て
離職しやすいということもないのかもしれず、
イメージの「刷り込み」や思い込みにすぎない
可能性もあるのだ。

それはいいかえれば
介護の雇用問題というのは
小規模事業所に特有の問題かもしれないと
いうことだ。

介護事業は
介護サービスに対するニーズの大きさと
設備投資などの負担が比較的小さいことから
介護事業には多くの小規模事業者が参入しやすい
産業構造が特徴だ。

そのために介護職員を適切に処遇するための知識や
経験を持たないまま、事業を続けている場合も少なくない
かもしれない。介護は賃金の低さが指摘されるが、
昇給や昇進などの仕組みも持たないことも考えられる。
実際、介護労働安定センターが実施した
「介護労働実態調査」によれば、
介護事業所で雇用管理責任者を選任している事業所は
せいぜい半分程度にしかすぎない。

推論の域にすぎないが、
同じ介護でも
雇用管理責任者がいる事業所と
そうでない事業所では
離職率、平均賃金、昇給の有無、仕事満足度など
は異なっているのではないか。

建設業では昭和51年(1976年)に
建設雇用改善法が施行され、
第5条で「事業主は、 建設事業を行う事業所ごとに(中略)、
雇用管理責任者を選任しなければならない」と 定められている。

高齢社会のなかで
介護産業はこれからも成長産業として
着実に発展していく必要がある。

そのためには
建設業に学びつつ
「介護雇用健全法」(仮称)により、
雇用管理に適切な知識を持つ
雇用管理責任者の選任を義務付ける
法的措置は必要なのではないか。

それがなければ、
介護職員の賃上げも
スムーズに進まないおそれもある。

雇用管理責任者の義務化は
介護事業者の負担を増し、
介護サービスの不足に拍車をかける
という反対意見もあるだろう。
しかし中長期的にみると
介護に有為な人材が集まるためには
介護事業の雇用管理の整備は
不可欠な課題であることは間違いない。

十分検討に値すると思うのだが
関係者の方々はいかがお考えだろうか。