ゾンビと日本経済

 ”Zombie Lending and Depressed Restructuring in Japan”
Caballero, Hoshi, and Kashyap (2006), NBER WP No.12129
http://papers.nber.org/papers/w12129
 90年代から2000年代の日本経済とその労働市場に
何が起こったかを記録していくことが、これからの大事な
仕事の一つと思ってる。
 そのなかで、面白い論文に出会った。私も含めて
 経済学者は、あまりキャッチフレーズとかを付ける
 ことを得意としていないのだけれど、「ゾンビ」を
 キーワードに日本経済の停滞を考える良質な
 実証研究だ。
 ゾンビというのは、ホラー映画に出てくる「生きる屍」
 のことなのだけれど、不況期において、本来ならば
 倒産や事業閉鎖に追い込まれ、事業としては死んだ
 はずの企業のうち、銀行などの判断により、延命措置
 が行われた企業に、ここでは着目する。
 
 財務データから、実際にその企業支払っている
 利払いと存続のために本来支払うべき利払いのギャップ
 を求めて、ゾンビ企業を特定化する。すごい作業だ。
 それによって、企業毎の投資率や雇用増加率の決定
 要因を分析、ゾンビ企業をより高い割合で含む業種に
 属する企業ほど、投資も雇用も停滞していたことを
 実証している。その企業自体が健全経営であったとして
 もゾンビが多く周辺にある場合には資金調達が困難化し
 経営にマイナスの影響を与えられていたことを指摘している。
 日本の企業の雇用創出や喪失にはまだ未解明な部分も
 多く、たいへん勉強になった。次に続くとすれば、上場企業
 だけでなく、日本の企業の大部分を占める中小企業に分析
 を拡大できれば(そのためのデータが整備できれば)、もっと
 多くの事実が分かるのではないだろうか。