最近は終電の電車に乗ることが
滅多にない。つい数年前までは
ほとんど毎晩のように、という感じも
あったのだけれど。理由はいろいろ
あるのだけれど、飲み続ける体力が
なくて「しんどい」というのが一番かも
しれない。
それでもたまには乗ることがある。
それでちょっと前から感じていたことだけれど
なんか、むかしに比べて終電が空いている
ような気がしていた。
ただ、自分の感覚が常識にあっているとは
まったく思っていないので、終電マニア(?)
の友人Wに聞いてみる。Wは、平日ほぼ毎日
終電もしくはそれを過ぎてタクシー(もちろん自腹)
という生活をここ数年続けている。その日も
朝4時半にメール、これから新宿から江東区(大島)まで
帰って、また午前中に出てくるという。
そんなWも、いわれてみると、たしかに空いてきた
気がすると、いう。不況のせいかな、と思ってた、と。
Wの感覚を裏付けるのが、昨日発表された、厚生
労働省毎月勤労統計(平成20年)速報だ。総実労働
時間が2年連続減少、所定外労働時間は7年ぶりに
減少という。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/20/20fr/mk20p.html
報道によれば、年間労働時間は90年に調査開始以来
初の1800時間割という。経済状況の悪化による残業削減や
一時帰休がその原因といわれている。
不況の影響による労働時間の短縮はそのとおりだろう。
ただ、一方で、いわゆるサービス残業や過労死などの頻発が
懸念されてきた20代から40代を中心とする男性の週間労働時間は、
2004年頃を境に、長時間労働の傾向がゆっくりと減少しつつある。
労働力調査によると、週60時間以上の就業割合は、20代から
40代の、いずれの男性従業者についても、ここ2007年までの
3、4年おしなべて低下している。無論、割合だから、年長フリーター
などの短時間就業者の増加を反映したにすぎないかもしれない。
だが、60時間以上就業者「数」という絶対数でみても、ほぼ減少
しているのだ。
07年までの数年ということであれば、それは不況というよりは
むしろ景気は一時的にせよ、回復していた時期である。不況の
影響とは考えにくい。だとすれば、新規採用や非正規増加により
正社員の業務負担の減少などもあったのかもしれない。その原因
は、私の知るかぎり、労働経済学の実証研究でもまだ明らかにされて
いない。第一に、どうして2000年代にあれほど、不況にもかかわらず
長時間労働が跋扈したのかは、残された大きな研究課題だ。
一つ気になるのは、経済的要因に加えて、たしか2004年頃、会社の
人事労務関係と呑んでいると、「おタクは、カントクショ、大丈夫?」
といった話題が、まことしやかに言われていたことを思い出す。監督署
とはもちろん労働基準監督署のことで、監督権さらには、逮捕権もある
労働行政のいわば番人である。その頃は、サービス残業の摘発などに
監督署が本腰を入れ始めた、という意識が会社に強まっていた。
そのような不正な就業は認められない、そのための公的な監督強化という
行政の姿勢は、実際に監督に入らなかったとしても、重要なアナウンスメント
効果があったのかもしれない。
無論、自分の常識を常識と思わないことを考えれば、それはあくまで推論に
すぎない。だが、雇用危機は、労働時間にも今後影響を及ぼすかもしれず、
2000年頃のことを考えると、一部の労働者に業務量が偏り、全体で減っても
労働時間が孤独に集中するWのような人たちも、これから増える可能性は
少なくない。
今こそ、最近までの長時間労働とはなんだったのか、あらためて
考えてみる必要があると思う。