SNEP (44)

● スネップが、また新しい
「レッテル」貼りにならないかと
心配です。スネップは職探しを
していないことも多いそうですが
そのために「怠けている」とみなされたり
しないのでしょうか。
スネップはたしかに職探しをしない傾向が
ありますが、それは怠惰をむさぼっている
からではありません。社会から孤立している
ことで、就職活動に必要な「情報」が入手
できなくなっていることが、職探しをむずかしく
しています。
情報社会といいますが、スネップは理由は
明確ではないものの、インターネットをあまり
使っていません。電子メールや検索を通じて
就職に必要な情報を得たり、活用するということも
少ないのです。
別の私たちの研究では、就職活動には特に
電子メールの活用が重要だという結果が得られました。
しかし、孤立していれば、電子メールをやりたく
ても、やりとりする相手がか限られていて、そのために
パーソナルな情報も入手しにくくなります。これも
「怠け」の問題とは違います。
スネップのうち、特に家族と一緒にいる家族型
は、就職を希望していない傾向も強いのですが、
それも家族から守られていることが、当面、就職
を焦らなくてもよい状況を生んでいるという「構造上」
の問題なのです。こちらも意識や性格ではありません。
ずっと一人型のスネップは、テレビを視ていたり、睡眠
時間が長い傾向はあるのですが、それも怠けてテレビ
ばかりみていたり、たくさん寝ているうちに、友だちと
会わなくなったということは考えにくいように思います。
因果関係はむしろ逆で、なんらかの理由で誰とも会わなく
なった結果、時間つぶしにもなるし、おカネもあまりかからない
テレビや睡眠が多くなってしまっている、元々好きこのんで
やっているわけではないというのが、多くの状況だろうと
解釈しています。
経済学を含む社会科学は、社会病理と戦うための学問です。
無業者の孤立が広がる現状は、食い止めるべき社会病理だと
思います。しかし、医学の病理と同様、解決すべきは、病理その
ものであり、病理を煩っている人ではないのです。病人を怠けている
から病気になったのだという責めは、多くの場合、適切ではありません。
スネップの存在が、今後、もし多くの人に知られることになって
そこに怠け者であるというレッテルが誤って広まることがあれば
それは違うのだと説明を続けることは、研究をしてきた者としての
責任だと思います。
では、レッテル貼りや誤解のおそれがiあるために、問題を指摘
することをやめるべきなのでしょうか。
私はそうは思いません。あらゆる病理の解明は、その病理の適切な
発見から始まります。多くの深刻な病理は、未だ発見すらされていない
のです。発見されて初めて、時間がかかるとしても、処方の模索が
始まるのです。
ニートのときにも、たしかに最初はいろいろな誤解や混乱もありましたが
それでもこの問題を正確に理解していた研究者や支援現場の人たちで、
ニートを怠惰の問題であると考えていた人は誰もいなかったと思います。
少なくとも私の知る限りはそうです。楽観的かもしれませんが今も
ニートを怠け者の問題と考えている人は、以前に比べると本当に少数に
なっていると考えています。
誤解や偏見は、努力と時間を通じて、解消に向かうことは可能だと信じます。
むしろ存在するにもかかわらず、あたかも存在しないかのように扱われる
「無視」ほど悲しいことはありません。
このように考えて、ニートやスネップの問題に取り組んできました。