非正規雇用の安定性を増し、
正規雇用との間隙を埋める。
その上で、新たな就業機会の
拡大をもたらす。そんな都合の
良い(?)環境整備はないもの
だろうか。
一つ検討に値すると思われるのが
期間の定めのある労働契約についての
上限の再見直しだろう。2003年の労働基準法
改正(2004年施行)により、上限は3年
(正確には3年を超えてはならない)と
されている(第14条)。
その上で例外措置として、3年を超えて
契約することが認められるものとして
①一定の事業の完了に必要な期間を
定めるもの(土木事業などの有期事業
で、その事業の終期までの期間を定める
契約
②労働基準法第70条による職業訓練の
ための長期の訓練期間を要するもの
が特例として認められている。
さらに5年以内まで可能なケースとして
①高度で専門的な知識を有する者
(厚生労働大臣が定めるもので、現在は
博士の学位を有したり、公認会計士、医師、弁護士
税理士、社会保険労務士などの資格を有する者、
システムアナリスト、アクチュアリーなどの試験合格者、
特許発明者、そして一定の学歴・実務を有するもので
年収1,075万円以上の者)
②満60歳以上の者
とされている。
平成15年の改正までは上限は1年であり、それを
撤廃・緩和することには、一定の反対があった。その
理由としては、期間雇用者の増加による期間の定め
のない労働者の代替化への懸念が大きかったという
(菅野『労働法』第8版、174頁)。
ただ、以前、パートとフルタイムの雇用変動の関係を
厚生労働省『雇用動向調査』を用いて実証分析した
ことがある。その結論はこうだ。
「経済全体でみると、パートタイムが増えてフルタイム
労働者が減ったことから「パートがフルタイムの仕事を
奪っているといわれる。しかし実際には、1年のあいだに
パートが増え、同時にフルタイムが減ったという事業所は
事業所全体の1割にも満たない」。
「消えたフルタイムの雇用機会のうち、パートが増えた
事業所から発生したのは、多くて2割程度である。
フルタイムの雇用がパートによって奪われたという表現は、
個別事業所レベルでみたとき、多くの場合、正確ではない」。
(以上、拙著『ジョブ・クリエイション』第6章、123頁、2004年)
これらの結果は、1990年代のデータを分析した結果であり、
派遣や請負などの非正規と、正社員との代替可能性を検証
したものではないため、その解釈が現在でも妥当であると
考えるべきかは、慎重であるべきだろう。しかし、非正規に
よって正規の雇用が代替されているということを厳密に
指摘した実証研究を、寡聞にして筆者は知らない。
少なくとも代替的な関係が個別の企業や事業所でみられたとしても
それは複数年をわたってある程度時間をかけて実施されている
のが通常ではないか。現在雇用されている正社員を削減し、その分
を非正規で補完するということは、解雇権濫用法理に照らしても
考えにくいだろう。
個人的には正社員と非正社員の代替性について慎重に検討を進めながら
も、有期の非正社員の雇用期間は、雇い止めなどに関する確かな法的制約の下、
最終的には、個別の有期雇用者と使用者のあいだの合意によって柔軟化
すべきことを検討する必要があるように思う。
その結果として、3年、5年どころか10年もしくはそれ以上の長期の有期雇用が
拡大することはあってもよいように思う。ただ、導入の段階では、現在の上限3年、
高度の専門性および60歳以上のみ5年を、まずはより広い範囲で5年程度まで
拡大することも検討に値するのではないか。
非正規雇用の雇用期間の長期化は、様々な社会的なメリットがある。以前にも
紹介した拙文でも、非正規からの転職に際しては、2年から5年程度の継続就業の
実績が、採用を意図する企業から高く評価され、結果的に正社員就業の機会を
広げることを指摘した。
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2008/11/rb02.htm
また別の論文でも、実際に非正規雇用の一部には「内部化」とでもいうべき
動きが進んでおり、企業にとって中長期的な就業を期待され、相応の処遇を
得ている場合も見られている。不安定性が強調される非正規だが、一方で
「優秀な非正社員に長く働き続けてほしい」「非正規に辞められたら困る」という
企業も少なからず存在する。
http://www.ier.hit-u.ac.jp/Japanese/publication/backnumbers/ERabst59.html#4-5
だとすれば、増加する非正規の処遇を改善するためには、2003年の労働基準法
改正にとどまることなく、まずは広く有期雇用の上限を5年まで拡大すべく改めて
検討を要する状況に来ているのではないだろうか。