有期解雇と助成金

 福井からの希望学フォーラムの帰り道、
 飛行機のなかで福井新聞を
 読んでいたら、一つの記事が
 目についた。
 見出しには
 
  派遣社会の解雇無効
  -福井地裁仮処分決定
  -賃金支払い命じる
 とあった。
 
 記事によれば、福井市と越前市の
 40代から50代の男性4人は、人材派遣
 会社と契約し、今年の11月まで坂井市にある
 化学工場で働いていた。それがこの2月に解雇
 されたことを不服とし、労働者としての地位保全を
 求めて、派遣会社を相手に福井地裁に申し立てを
 していた。
 訴えられた派遣会社は、「派遣先に契約を打ち切られ、
 会社を存続するためやむを得ず解雇した」と主張して
 いたという。
 それに対し、地裁裁判官は、派遣元は労働者の派遣先
 を確保する努めがあるとし、労働契約法で契約期間中の
 解雇を認める「やむを得ない事由」(17条)にあたらないとし、
 解雇を無効とした。労働者の地位保全と、既に支払いを
 過ぎている3月から6月分の賃金の仮支払いと、7月から
 11月分の支払いを命じた。
 〇
 以前にゲンダラヂオでも書いたけれど、今回の雇用に関する
 騒動のなかで、もっとも重要な論点の一つは、契約期間に
 定めのある労働者(有期雇用)について、労働契約法17条に
 ある、契約期間途中の解雇を認める「やむを得ない事由」を
 いかに解釈するかにあった、と私は思っている。
 有期雇用の解雇について、定めのない雇用者のような解雇権
 の濫用法理が確立されないままに、雇い止めが派遣労働者を
 中心に頻発したことが大きな混乱となった。
 上記の記事で、なぜ「やむを得ない事由」にあたらないと裁判官が
 判断したのか、記事には詳しくは書かれていない。派遣会社側は
 経営の存続の難しさを主張したが、実際にはそれだけの状況に
 至っていないという、なんらかの状況証拠があったのかもしれない。
 さらには、40代から50代男性ということで、世帯主として家計の中心
 にあり、そのことが解雇の与える影響の深刻さとして、配慮されたこと
 も場合によっては、あったのかもしれない。
 いずれにせよ、今後、このような判例が蓄積されることによって
 有期雇用の解雇に関する法理が、ある程度時間をかけて形成
 されていくのだろう。もちろん、その背後には、法学者の役割も
 大きい。
 〇
 もうひとつ、今回、改めて感じたのは、雇用調整助成金の役割だ。
 派遣先との契約を突然打ち切られた結果、派遣元が経営の存続が
 本当に危うい状況にあったとすれば、当然、11月まで契約していた
 労働者を休業とした上、雇用調整助成金の申請を行うことも考えられる。
 急いで助成金への派遣・請負会社の申請実績を、厚生労働省の
 ホームページで調べてみたが、支給の業種別状況の数値は見当たらなかった
 (見落としもあったかもしれないが)。ただ、支給条件の活用事例のなかに
 2 派遣・請負関係事業所
(1)D社
・社員数200名中190名について休業を実施予定。
・12月中に4日間休業を実施予定。
(2)E社
・社員数20名 全員について休業を実施予定。
・12月中に11日間の休業を実施予定。
 のような指摘があることからすれば、当然、支給対象として
 排除されているわけではないのだろう。
 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/h1226-6b.html
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 だとすれば、今回の教訓として、突然の深刻な雇用危機に
 よる不安定な状況におかれることの多い派遣・請負労働者が
 契約打ち切りにより解雇のおそれがある場合には、派遣元
 会社に対して、雇用調整助成金を積極的に活用し、当初の
 契約期間満了まで、休業の措置とさらには教育訓練の義務を
 派遣元会社に課すことを促すのも一案に思う。無論、その場合
 にも、支給対象としての適性(経営危機の状況、休業や訓練
 の計画や実施の妥当性など)のチェックは重要になる。
 〇
 
 現在、政府の経済危機対策を受けて、雇用調整助成金の制度は
 見直され、より利用しやすい状況となっている。以前は雇用保険の
 加入が6ヵ月以上の労働者のみが対象とされていたが、現在は契約
 期間は不問とされ、新規学卒者も対象に含まれている。事業の縮小
 の判断も、以前は生産量が基準だったが、現在は売上高もしくは生産量
 とされた。これは実質製造業から、派遣などを含むサービス業への対象
 事業所の拡充を意味する。
 その他、教育訓練の要件緩和や、出向者への休日の対象追加、
 助成率アップがなされ、申請についても様式の規定が緩和、計画変更
 もいちいちハローワークにいかなくても、郵送、ファックス、メールで
 可能になった。
 詳しくは
 www.mhlw.go.jp/houdou/2009/06/dl/h0608-2b.pdf
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 このような調整助成金の要件緩和の影響もあってか、利用事業所や対象労働者
 数、支給額は、2009年3月より、飛躍的に増加している(速報値)。 
 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/06/h0629-1.html
 今後は、どのような助成金の活用のあり方が、もっとも効果的であるのか
 実績に関する統計分析、さらに重要なことにハローワークを通じた利用
 状況に関する聞き取り調査が重要となるだろう。
 それらが結果的に、有期雇用の解雇に関する「やむを得ない事由」についての
 社会的合意形成に、研究者が貢献できるもう一つの道なのかもしれない。