背中

 井上ひさしさんの
 背中をみながら歩いた
 ことがある。
 文学的なことではなく
 本当に歩いたのだ。
 数年目に釜石で製鉄150周年
 記念のイベントがあり、井上さんが
 釜石に講演にいらっしゃった。
 そのときも、新幹線も、釜石線も
 煙草が吸えなくて困ったといった
 話をされていた。
 釜石にとっても、井上さんはご縁が
 ある方で、お母さんもここで働き、
 井上さん自身も少年時代を過ごした
 ことがある。
 イベントでは、駅前広場に
 鉄の焔のモニュメントが創られ
 その点火式のために、町中から
 駅まで、みんなで提灯行列で
 歩いた。私の目の前に井上さんの
 背中があった。
 
 もちろん声をおかけするとか、
 そんなことはできない。ただ
 すごく穏やかな雰囲気がその
 背中には漂っていた。
 希望学のキーワードの一つは
 あるときから「ユーモア」になった。
 もしかしたら、どこかで井上さんに
 影響されていたのかもしれない。
 講演で
 苦しいこともあるだろさ
 哀しいこともあるだろさ
 だけどボクらはくじけない
 
 泣くのはいやだ
 笑っちゃおう
 を歌ったことがある気がする。
 哀しみや苦しみのなかの「笑っちゃおう」は
 希望だ。
 合掌。