労働研究雑誌2010年9月号より

 『日本労働研究雑誌』2010年9月号の
 小杉礼子さんの論文「非正規雇用からの
 キャリア形成」を読む。
 
 『格なし本』のキーワードの一つが「非正規」
 で、なかでも「正規への移行」が重要テーマ
 だったので、問題意識も重なり、とても興味
 深く読んだ。
 非正規から正規への移行を規定する要因を
 独自の調査から計量分析している。多くの結果が
 納得のいくものであるが、一点、『格なし本』の
 結果と大きく食い違うものがある。それは非正規
 を辞めるまでの、非正規として働いた経験年数の
 影響だ。
 『格なし本』第4章の重要な結論は、非正規を辞める
 以前に、2年から5年程度継続して働いた経験のある
 人ほど、正社員になりやすいということだった。反対に
 1年未満で転職を繰り返すような場合には、非正規を
 ずっと続けることになるというものだった。
 それに対して、小杉論文では、必ずしも統計的に
 有意なかたちで、非正規としての前職勤続年数の
 影響は表れていない。
 その違いを生んだ背景には、いくつかの可能性がある。
 非正規を辞めた後に無業となった人々、および10代や
 20代前半の若者の扱いなどに、小杉さんの論文と私の
 論文では違いがある。その他、調査時点も違うし、
 離職や入職の時期をどう区分するかで、結果も異なる
 可能性がある。
 
 小杉さんも書かれているように、ひとくちに非正規から
 の移行といっても、その経路は複雑かつ混沌としており
 それを正確に捉えることは、きわめてむずかしいのだ。
 ただ、そうではあるものの、非正規は一刻も早く抜け出す
 ほうがいいのか、3年くらいは非正規でも経験を積み重ねた
 ほうが、次のチャンスがあるのか等は、今後の働き方を
 考える上で、きわめて重要な論点となるはずだ。
 ぜひ、非正規の定着と移行の問題について、生産的な論争
 が生まれるよう、新しい研究が続くことを期待したい。