なにもない一日

 地下鉄で
 眠たげに腰かけていたら
 目の前で突然よろけた
 50代の男性に
 思いきり
 足を踏まれた。
 男は
 すみません
 とつぶやき
 隣の席に座った。
 
 マスクを取り出し
 顔に当てると
 ケータイ電話
 をはじめた。
 
 スマートホンという 
 やつだろうか、
 さかんに画面の上を
 なぞっている。
 この際と思ってのぞいて
 みたら、
 英語の手紙のような
 ものだった。
 電車を降りるとき、
 男性は
 すみませんでした
 と小さくつぶやくように
 降りていった。
 足はしばらく痛かった。