親の不安と大学生の働き止め

働き止めの根本にあるのは、感染への不安であり、今回の感染拡大が労働市場にもたらした特異な状況であることを述べてきた。感染不安は、働く本人が感染を恐れたり、同居する高齢の親への感染を恐れたりする結果、働くのを断念せさせてきたことも指摘してきた。

また別の働き止めとして、在学中の子どもが飲食店などでのアルバイト先で感染することを恐れて、働くことを止めるよう、親が強く説得した結果でもあるかもしれない。大学生などがアルバイトできなくなったのは、バイト先の飲食店などの経営上の都合もさることながら、親が子どもに「危ないからバイトはやめて」と強く求めたため、バイトをやめざるを得なかったことも多いのではないか。

総務省統計局「労働力調査」によれば、15~24歳の在学中のパート・アルバイト数は、2020年には177万人と、前年より10万人減少した。4半期別では、20年7~9月には、前年同期より23万人と大きく減り込むかたちとなった。それらの背後には、店側の都合による雇い止めだけでなく、親の思いによる働き止めも影を落としていたのかもしれない。

孤立無業(SNEP)について

色々最近、「孤独・孤立」が話題になりかけているようなので、一応、2012年からやってきた「孤立無業者(SNEP)」について、一般に入手できる情報で、比較的正確なものを、ちょっと調べてみた。

https://www.kaonavi.jp/dictionary/snep/

https://www.ieyasu.co/media/snep/

など、思いのほか、記事があった。ただ、必ずニートとの比較に言及されているようだけど、ニートの内容の方は、あいかわず微妙。

自分で書いて話したのは、こちら。

https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/414605.html

https://www.nippon.com/ja/currents/d00109/

スネップも、以前は男性、大卒以外、そして若年が多かったが、2010年代後半には、女性、大卒、中高年にも広がっている。それを「孤立の一般化」と表現した。孤立の一般化の問題は、感染拡大前のデータにも着実に表れているが、感染によって、さらに深刻化、一般化している可能性がある。

想定外の状況の発生は、そもそも困難な状況にあった人びとを、さらに深刻な状況に追い詰める。それは、不況、震災、感染など、いずれにも残念ながら当てはまる歴史の真実だ。

スネップは、総務省統計局「社会生活基本調査」の特別集計を用いている。次回の調査は、今年の秋に予定されている。


年次レベルでみた「働き止め」

これまでは、感染拡大が刻々もたらす短期的な変化を追うため、月次レベルでの動向に注目してきた。遅ればせながら、感染が広がった2020年という年が労働市場にとって、どのような年であったかを、年次レベルで確認しておく。歴史的に主として残るのは、おそらくは年間を通じた変化の方だろう。

総務省統計局「労働力調査」によれば、2020年平均の就業者数は6676万人と、前年に比べて48万人の減少となった。前年より48万人の減少は、リーマンショック直後の2009年(95万人減)、バランスシート調整などから希望退職などが頻発した2002年(85万人減)に次ぐ、大規模なものだった。

なかでも非正規雇用は前年より75万人の減少となり、2002年以降、最多となった。2009年にも非正規雇用は前年より38万人減ったが、それを上回る減少幅となっている。一方、正規雇用は、19年から20年にかけてむしろ35万人増加した。

完全失業者数も、前年より29万人増の191万人となった。完全失業者が前年より増えたのは、2009年の71万人増以来の11年ぶりである(途中、東日本大震災より一時的に調査が途絶えた2011年を含む)。完全失業者は、1998年にも49万人増、1999年に38万人と大きく増えており、2009年、1999年、1998年に続き、1953年以来、4番目の深刻な状況になっている。

15歳以上人口に占める就業者数である就業率は、2013年以来、毎年増加してきたが、2020年には9年ぶりに減少に転じた。労働力人口に占める完全失業者数である完全失業率も、2010年から19年にかけて、年次レベルで増加することはなかったが、2020年に11年ぶりの増加となった。

あわせて注目されるのが、ここでも非労働力人口の動向である。高齢者や女性を中心とした労働参加の拡大もあり、非労働力人口は2013年以降、毎年連続して減少してきた。人口そのものの減少を労働参加の拡大が補うことで、労働力不足はある程度回避されただけでなく、むしろ労働力は全体的には拡大していた。

それに対し、2020年には非労働力人口は、8年ぶりに7万人の増加へと転じた。このうち、「通学」「家事」を除く「その他」の理由による非労働力人口は、前年に比べて32万人と大きく増加し、完全失業者の29万人増を上回るほどであった。

2020年に、家事、通学以外の非労働力人口が急増した背景にも「働き止め」の拡大の影響を見て取ることができるだろう。

2021年1月「働き止め」77万人

本日朝、総務省統計局「労働力調査」2021年1月分の結果が公表された。完全失業者は197万人。前年同月よりも38万人増と、増加は12か月連続。ただし、前年同月は4月以降、減少に転じる可能性も大きい。

労働力調査の最新公表値を用いて2021年1月の「働き止め」人口を計算すると、その結果は77万人となった。ただし毎年1月に季節調整値が前年に遡って再計算されるため、2020年12月の働き止め人口を再計算すると、同じく77万人となり(これまでの季節調整値では59万人)、2か月で同数となった。1月は緊急事態宣言がふたたび発出されたが、それ自体で働き止めが加速したとはいえないようだ。

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ただし男女別にみると、女性は57万人から67万人と増加しており、女性に限れば緊急事態宣言を受けて、働き止めを強めた可能性もある。

季節調整値の再計算により、2020年4月の働き止めは、以前の129万人から115万人へと改訂される。115万人に対して、77万人と、依然として7割弱が働き止めの状態が量的には続いているといえる。

2月末時点で、感染関連での企業による雇用調整(雇い止め)の累積数が約9万人であることと比べても(厚生労働省による集計)、労働者による就業断念(働き止め)が今回いかに多いかが、改めて見て取れる。