「内部労働市場下位層としての非正規」
『経済研究』2008年10月、第59巻第4号
企業にとって、あえて理想的な人材といえば、
必ずしも正社員でなくても、仕事がよく出来て
しかも将来にわたって働き続けてくれることが
期待できる人たちである。賃金も高すぎず
また将来、会社に万一のことがあったら、。。。
なんて都合の良いことをと、思われるだろう。
でも、そんな人材がいたら、会社は手放したく
ないはずで、そのためにはいろいろな工夫や
知恵を絞るはずだ。
これまで非正社員は「使い捨て」「単純作業」といった
言葉で象徴されることが多かった。そういう側面が
多くあることも、事実だ。ただ一方で、非正社員の内部にも
着実に変化もみられつつある。かつてパートタイムの賃金は
何年働いても一緒だった。それが厚生労働省『賃金センサス』
などをよくみると、最近では卸小売業などで、長く努めている人
ほど賃金も高くなるという傾向が生まれつつある。それは
実績や経験が非正社員であっても評価される傾向が
少しずつではあるが、社会に広がり始めていることを示唆
している。
非正社員から正社員への転職だけでなく、非正社員に
とって、できるだけ継続して働ける環境こそが重要に思う。
賃金も問題だろうが、なんといっても、非正社員こそ
安定が必要なのだ。事実、非正社員のなかでも
期待され、会社の「内部」の貴重な人材に位置づけられる
人たちも少なからずいるのだ。
その含意として、不本意ながら転職を繰り返さざる
を得ない非正規を、できるだけ生み出さないことが
課題になる。雇用形態にかかわらず職場の内外で
広く交流やコミュニケーションが行われているような
職場が、もっと増えていくような状況が目指される
べきだろう。
そのための具体的な政策や制度づくりの検討はこれからだ。
だが、非正社員は単純労働で実績も評価されず、袋小路な
仕事ばかりという先入観から一歩距離をおいて考えてみる
ことも大切ではないか。いろいろ賛否はあるだろうが、問題
提起を含めて論文を書いてみた。この論文の最初に想定して
いたタイトルは「二重労働市場論へのオマージュ」である。
〇
本稿は配偶者を持たない非正規就業3千名以上の独自調査から、非正規の内部労働市場化仮説を検証した。従来の二重労働市場論によれば、非正規就業は外部労働市場に属し、仕事上の学習機会は乏しく、処遇も経験や個人の能力とは無関係に一律と理解されてきた。しかし分析からは、非正規就業にも職場における継続就業年数と年収に正の連関があり、過去の正社員経験も評価されている証左が得られた。それらは企業内訓練を通じて経験に応じた収入が支払われる年功的処遇もしくは能力に応じた選抜的処遇が行われている事実を意味し、むしろ内部労働市場の下位層と合致する。加えて職場に相談相手がいたり、終業後に飲食を共にする等、正規雇用者と親密な交流がある程、非正規処遇は改善される傾向も見られた。以上から、短期転職を繰り返す非正規への集中支援及び正規・非正規間交流環境の整備等、正規・非正規間問題を内包する世代間雇用問題の解決方向性が示唆される。