「前職が非正社員だった離職者の正社員への移行について」
『日本労働研究雑誌』2008年11月号
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/new/
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派遣、請負、フリーター、パートなど、非正社員にまつわる
話題は、正直、明るいものが多くない。そのなかで、
なんとか非正社員に希望がないかを考えたものだ。
きっかけは、労働力調査を見ていて、実は年間40万人近く
非正社員から正社員への転職を遂げている事実を
発見したときだ。転職だけでなく、同じ会社で正社員に
なった人もいるだろう。非正社員では正社員に絶対
なれないというのは事実ではない。
では、どうすれば可能なのか。就業構造基本調査
という転職に関する日本で最大規模の調査を用いて
分析したのが、この論文だ。正社員になるには、
フリーターなどの状態に滞留しないことが重要と
言われたりするが、逆説的ではあるが、非正社員でも
2年から5年程度地道に努力するほうが、正社員の
可能性は広がるのだ。
なぜだろう。正社員の中途採用を目論む企業が
最も意識することの一つは、せっかく雇った社員が
すぐに辞めたりしないか、という事だ。正社員の
採用には、賃金に限らず、社会保険とか、いろいろな
コストがかかる。それをすぐに辞められたらたまらない。
だとすれば、企業は辞めにくい、地道に働いてくれそうな
人をなんとか見極めたいと思う。そのヒント(シグナルと
経済学でいう)が、過去の継続して働いた実績なのだ。
反対に仕事を短期間で転々とし続けている非正社員には
長期に働いてくれそうだという見込みも持てないことになる。
この論文のタイトルは、いろいろな事情があって、固い地味
なものになった。ただ、もともとのタイトルとして考えていた
のは「1年経たずに辞めてはいけない」というものだった。
『日本労働研究雑誌』に掲載される論文は、編集委員会から
依頼されて書かれた論文と、自ら投稿し、審査を受けて採択
掲載される論文の2種類がある。この論文は後者だ。
そしてひそかに目指していたのは、雑誌史上最高齢の
単独著者による投稿論文である。本日、玄田有史44歳。
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転職による雇用形態間の移動に関する日本で最大規模のサンプルサイズを確保する、総務省統計局『就業構造基本調査』(2002年)を用いて、前職が非正規社員だった離職者について、正社員への移行を規定する要因をプロビット分析した。その結果、家事等とのバランスや年齢を理由とした労働供給上の制約が、正社員への移行を抑制している証左が、まずは得られた。同時に、失業率の低い地域ほど移行が容易となる他、医療・福祉分野、高学歴者等、専門性に基づく個別の労働需要の強さが、正社員への移行を左右することも併せて確認された。その上で、本稿の最も重要な発見として、非正規雇用としての離職前2年から5年程度の同一企業における継続就業経験は、正社員への移行を有利にすることが明らかとなった。その事実は、非正規から正規への移行には、労働需給要因に加え、一定期間の継続就業の経歴が、潜在能力や定着性向に関する指標となっているというシグナリング仮説と整合的である。正規化に関するシグナリング効果は、労働市場の需給に関与する政策と並び、非正規雇用者が短期間で離職を繰り返すのを防止する労働政策の必要性を示唆している。