雇用創出のために

 雇用対策のうち、最も期待が高いのは 
 なんといっても新しい雇用機会の創出
 だろう。
 オバマ次期米国大統領の公約は
 たしか250万人の雇用創出だ。もし
 実現がまったくもって不可能だったとき、
 待っているのは、すさまじい失望感と反感
 だ。ただ、オバマさん、なんとなく「運」を
 持っているような気がするのだけれど、
 どうなのだろう。
 日本でも100万人規模の雇用創出など 
 打ち上げられれば、それは素晴らしいだろう。
 なかでも今後の持続的成長と国民生活のために、
 分野として、環境、自然、介護、医療、福祉、観光
 農業あたりで、雇用創出に期待したいといった
 識者のコメントが多いように思う。
 「そのためにみんなで知恵を出し合うべきだ」とも。
 誰が知恵を出すのかな。私も、それらの分野で雇用が
 今回の危機を契機に自然に拡大していく道筋が
 できれば、それはそれで素晴らしいと思う。
 たとえば、先日、いつもお世話になっている歯医者
 さんの待合室で見かけた『山と渓谷』(通称やまけい)に
 荒廃する森林保全の就業を広げる
 「緑の雇用プロジェクト」の広告が出ていた。
 http://www.ringyou.net/
 
 このプロジェクトについて、私はまったく存じ上げない
 し、労働条件などわからないけれど、この際、とにかく
 チャレンジしてみるのも一つかもしれない。そこでみんなで
 取り組んでみて、運用などに問題があれば、地道に改善していくしかない
 のではないか。多分、農業や介護など、人材不足がずっと指摘されて
 きた分野では、同様な公的支援は、調べてみれば多分あると思う。
 これらの重要分野に、まったく対策がなされていなかった
 わけではなく、景気も一時的によかったことなどで、
 あまり注目されてこなかったという面もあるのだ
 (ただしそれらをすべて足し合わせてもすぐに100万人には
 ならないだろうが)。
 ただ、一方で、私自身、雇用創出にどのような分野が
 決め手になるかと、仮に誰かに訊かれれば、
 あまり景気や調子の良い話ができないのが、
 正直なところだ。
 京都大学の照山博司さんや慶應義塾大学の太田聰一さん
 などと、長年続けている「雇用創出研究」からは、1997年頃
 までは、バブル崩壊後の不況期でも、中小企業や建設業の
 なかに(無論すべてではないが)、雇用を新たに創り出す一群が
 みられていた。それが、1998年の日本の金融不況以後
 雇用をひっぱる部門がまったく見えなくなってしまっている。
 ではなぜ2002年以降、雇用が回復したのか。雇用の回復には
 雇用の新たな拡大が強まるか、雇用の減少に歯止めがかかる
 かのどちらかしかない。2002年頃に不良債権処理の迅速化など
 の影響を受けて、希望退職が大企業などで集中した。その際に
 雇用のマイナス調整が大規模かつ集中し、その後調整は収束
 していった。そのプロセスが、統計的に雇用の回復につながった。
 プラスの絶対値が増えなくても、マイナスの絶対値が小さくなれば、
 全体として雇用機会は純増ということになる。一種の統計による
 マジックである。
 それらの雇用創出研究のなかで、我々にとっても新しい
 発見だったのは、日本では存続を続けている事業所での
 雇用の拡大や縮小以外に、事業所そのものの開業や廃業に
 よる雇用の創出や消失が、雇用全体の変化を大きく左右している
 可能性だった。事業所の開業や廃業には、当然、会社の新設
 や倒産もあるし、企業内の不採算部門の閉鎖や新規事業による
 開設などもある。1998年と2002年は、「失われた10年」のなかでも
 雇用の削減が特に著しかった特筆すべき年だが、それらの年には
 事業所の開廃の影響が、特に大きかったという我々の試算もある。
 9月の米国発の金融不況以前から、企業の倒産ペースが強まって
 おり、2000年代半ばからの景気回復期でさえ、新規の事業所開設
 による雇用創出力は必ずしも強まっていなかったのかもしれない。
 だとすれば、持続性や成長性のある健全な事業所が
 資金調達の困難から廃業となったり、同じく潜在的に発展性の
 期待される事業所の開業が資金が工面できず創業が困難となる 
 状況が続けば、雇用面で影響の大きい開廃効果は深刻さを
 増すことになる。
 直接的な創業支援策は、これまでもあまり十分な成果を挙げて
 こなかったというのが、個人的な印象ではあるのだけれど、資金調達の
 困難による開廃業の影響が甚大とすれば、今回の雇用危機にとって 
 健全な企業や事業所をつぶさないで済むための金融政策がきわめて 
 重要ということになると、私は思う。