保険と再分配

 雇用危機に際して、
 雇用保険の加入範囲を拡張することが
 検討されていると新聞報道があった。
 その方向には基本的に賛成だ。
 
 同時に財源確保のためには、保険料の
 引き下げどころか、引き上げ、特に不況期に
 手厚くするシステムをつくることも重要に思う。
 その上で、有期雇用者や学卒無業者等を含む
 より多くに加入・給付対象を拡張する制度に
 した場合の、課題は2つある。
 
 第一に、単純に制度を導入したときに予想される
 使用者および労働者の一部から生じる可能性の
 あるモラルハザードを防止するシステムや体制を
 いかに整備するか。
 第二に、対象を拡大した場合、保険制度が
 ほぼ共通した外生的リスクに直面する加入者同士の
 相互扶助という保険原理から、リスクの低い加入者
 からリスクの高い加入者への給付を通じた再分配
 という制度という側面が事実上強まることになる。
 それに対して、失業リスクの相対的に小さい
 正社員などの加入者の合意・納得が得られるか。
 より重要なのは、第二の論点だろう。
 セーフティネットは、誰かが負担をしなければ手厚く
 できない。正社員と非正社員との処遇格差を解消する
 ために、正社員の賃金を下げることに合意を形成する
 のは難しいだろう。だとすれば、あえて保険という原則
 よりも再分配制度として保険制度を解釈・運用することも
 一案だと思うのだが、どうだろうか。
 ただ、その場合も、正社員全体の合意が得られるかどうか
 である。
 注):
 現状でも、週30時間以上勤務している人であれば
 雇用保険の加入資格はある。さらに週20時間以上30時間
 未満でも1年以上の働く見込みがあれば、同じく加入資格は
 ある。
  それは有期雇用者であっても同じであって、派遣労働者
 は、すべて雇用保険に加入できないかのような誤解を与える
 報道には注意を要すると思う。
  ただし、法律があることと、そのような法律が守られているか
 どうかは別問題である。派遣会社によって厳格に法が遵守されている
 かどうかは、監督すべきだろう。そこに行政の関与する余地は大きい。