有期の雇い止めに関する解雇法理の類推適用

 雇用システムのこれからの方向性について
 少し意識して、さまざまな専門家の主張を
 聞いたり、読んだりしていると、そのなかには
 一定の方向に収斂しているようにみえる
 論点がある。
 その一つが、既存の正規・非正規の区分とは
 異なる、もしくはその間隙を埋めるような新しい
 雇用形態の拡大である。それを「准正規」と呼ぶ
 人もいたり、「限定型」と呼ぶ人もいたり、さらには
 「ハイブリッド型」と名付ける人もいる。
 
 ただその論点はかなり共通しており、ある程度、
 条件付きで長期雇用的な雇われ方(ただし正社員とは
 一定の明確な違いがある)が指摘される。それは以前から
 主張している「非正規の内部化・長期雇用化」と
 通じている。
 もしかしたら、案外、ポイントは、今後、多くが
 共有するネーミングかもしれない。
 実際、そのような新しい非正規、もしくは正社員に近いかたち
 での働き方は、働く現場ではすでに試行錯誤の上、広がりつつ
 あるように思う。以前に紹介したロフト社員など、その一例だ。
 解雇権の見直しについての議論がなされるあいだに、2000年前後に
 希望退職を通じて、限りなく金銭的賠償に近いかたちの雇用調整の
 ノウハウが企業と労働市場のあいだで実質的に広がったのとよく似ている。
 非正規の准正規化を進める上で、制度的な課題の一つは
 これまた以前にも指摘した原則最長3年の有期雇用期間を
 より長期に見直すことだろう。
 くわえて、最近、もう一つの重要な制度的な論点は
 有期雇用の反復更新に対する解雇法理の類推適用に関する
 問題だろう。
 有期労働契約を長期化もしくは更新しようとする場合、使用者
 側が懸念するのは、将来やむを得ない事由によって雇い止めを
 行わざるをえなくなったとき、それが訴訟になったときに雇い止めが
 認められなかったときに発生する種々のコストもしくはトラブルである。
 もし准正規的な働き方を拡大するとすれば、解雇法理の類推適用の
 範囲がより明確にすることが望ましいだろう。適用のルールが不透明
 なときに、過度に非正規の契約更新や長期化を企業が消極化すると
 いった行動経済的特性が存在するとすれば、なおさらである。
 有期労働契約の雇い止めが認められるかどうかは、契約関係の状況
 によって区分される。「期間の定めのない契約と実施的に異ならない 
 状態に至っている契約であると認められた」<実質無期契約タイプ>
 の場合、ほどんどの事案で雇い止めは認められていない。
 一方「雇用継続への合理的な期待が認められる契約であるとされ、その
 理由として相当程度の反復更新の実態が挙げられている」<期待保護
 (反復更新)タイプ>の場合、経済的事情による雇い止めについて、正社員
 の整理解雇とは判断基準が異なるとの理由で、雇い止めを認めた事案も
 かなりあるようだ。その際のポイントは、業務内容が恒常的で反復更新が
 多い一方、業務内容が正社員と同一でない、もしくは同様の地位にある
 労働者について、過去に雇い止めの例があるかどうかのようである。
 さらには「雇用継続への合理的期待が、当初の契約締結時から生じている
 と認められる」<期待保護(継続特約)タイプ>である。更新回数が少なく、
 契約締結の経緯に何らかの特殊性がある場合で、こちらについては雇い止め
 を認めない事案が多いようである。
 このようにタイプ別に整理される反面、実際の適用については事案ごとに
 「その実態から期間の定めについて当事者の意思を探り、必要に応じて
 解雇法理を類推適用する」というのが、判例法理の特徴であるようだ
 (浅倉・島田・盛「労働法」第3版、有斐閣、205ページ)など。
 個人的には何でもかんでもルール化すればよいというほど雇用
 の問題は単純ではないと思うけれども、そうはいっても、あまりに
 裁量の余地が大きく、結果的にみんなが望んでいる非正規の長期化
 を阻害しているとすれば、やはりより明確化の検討が必要だろう。
 
 さらに類推適用の制限問題は、慎重に議論しないと、ただでさえ立場の 
 弱い非正規の雇用をさらに不安定化するという社会的批判を受けやすい。
 議論の中身はもちろん、その進め方こそが問われている。それはもちろん
 正規雇用に関する解雇法理の検討も同じである。