調査の危機

 総務大臣殿
 国勢調査が事業仕分けによる予算縮減の対象と
 なっているとうかいがいました。私は東京大学
 社会科学研究所の教授をしております玄田有史と申します。
 経済学を専門に研究しております。
 日ごろより、国勢調査をはじめすとする政府実施の
 統計調査の重要性を強く認識する一人として、
 ぜひとも、十分な予算を確保した上で
 今後とも国勢調査の継続的な実施を強く要望します。
 その理由を箇条書きで述べさせていただきます。
 1、国勢調査は、日本のすべての統計の基幹
 (ベンチマーク)となっており、その全数調査が
 5年おきに定期的に実施されない場合、各種
 人口推計(完全失業者数など)やマクロ経済指標の
 作成など、あらゆる統計の信頼性が低下し、
 政策立案に重要な支障を来たすおそれが大きいこと。
 2、現在、就業や家族形成の多様化、プライバシー
 意識の変化、地域コミュニティの変容などが進んでいる
 ことから、国勢調査をはじめとする調査そのものの
 実査がきわめて困難になっていること。統計実施の
 予算削減は、ますます調査を困難にし、調査そのものの
 世界的信頼性が著しく低下する懸念があること。
 3.国勢調査は、調査時点での状況の把握と同時に、
 調査5年間の変化が大きな意味を持つこと。それを調査
 そのものを先送りなどにした場合には、5年という共通の
 枠組みでの比較ができなくなるため、調査の有用性が
 薄れること。
 国の現状を正確に把握することは、中長期的によりよい
 ものにするために、不可欠な情報です。それは、健康対策
 として、ダイエットを行う際に、一切、体重計に乗らないことと
 同じことを意味します。定期的に実態を把握することの意義は
 あらゆるダイエットのなかで、「毎日体重計に乗り続けること」
 がもっとも有効という比喩にも通じるところがあります。
 先進国のなかには、日本と同様なかたちでの国勢調査を
 行っていない国々もあるようですが、その結果として、統計
 そのものの世界的信頼性が大きく低下し、政策の立案や
 評価に重大な問題を生んでいるとききます。その調査の
 実態については、総務省統計局の専門的な知見をお持ちの
 方や、OECDなどの国際的な機関の担当者などにお聞き
 いただければ、ご理解いただけると思います。
 これまでの日本の政府統計に担ってきた、
 困難な状況にある人々の実情を正確に描き出し
 続けててきた営みに、高く敬意を抱く一人として、
 今後とも国勢調査をはじめとする政府統計の
 円滑な実施を強く希望します。
 東京大学社会科学研究所
 教授・玄田有史