学術本

  『人間に格はない』をアマゾンでみたら、
 購入に2週間以上と出ていました。つまりは、
 アマゾンには在庫がないということ。自分だったら、
 2週間以上というのは、少し買う意欲をそがれるかな。
 ご注文いただき、お待ちいただいている方には、
 心から感謝申し上げます。
 でも世の中に『格なし本』がないかというと
 そういうわけではありません。紀伊国屋さん
 とか、丸善さんとか、大きな本屋さんの本店で
 あれば、在庫はあるようです。地方の方には
 たいへん申し訳ないのですが、どうか足を運んで
 いただき、お買い上げのご検討いただきたく
 お願い申し上げます。
 今、学術本が売れません。そんなこともあってか
 研究者(特に経済学)では、本を書くことよりも
 学術雑誌に論文を投稿するに注力するのが
 若手を中心に多くなっています。投稿は、厳しい
 レフェリー審査を受けながら、採択を目指すものです。
 今回の本にも、この何年かかで投稿した論文を
 ベースにした内容が多く含まれています。
 私は投稿論文は投稿論文でとてもすばらしいと思う
 のですがわずかな経験から思うのは、本と論文では、
 主張のかたちがかなり違うということです。論文は、
 細かい論点についての厳密性を徹底的に追求
 することに向いていますし、そうでなければ
 採択はなかなかされません。
 また投稿論文は、採択までの過程で、レフェリーの 
 影響を少なからず受けることが多いように思います。
 感覚的には、投稿論文は、投稿者とレフェリーの共作
 と事実上なっている場合も少なくないように思います。
 それに対して、本はより大きな観点から、多少なり
 とも大胆なメッセージを自分の責任で提案することに
 長けていると思います。サッカーでいえば、論文は
 あらゆる批判に対するディフェンスの力が問われている
 感じがしますが、本はむしろフォワード、広く訴えかけて
 いこうとする攻めの姿勢が重要に思います。
 今回の本も、2000年代を舞台に、師匠の石川先生の
 思いを踏まえつつ「定着」をキーワードに、自分なりに
 思い切った提案を書いてみました。今は望むべくもなく
 「転々」とせざるを得ない人、働くことに希望を失った
 人が自尊の念を保てるように、もっと目を向けていく、
 共感が広がっていくことが大切というのが、その主張です。
 最近は、ブログやツィッターなどがメッセージ発信の
 中心になりつつあるようです。まずは、なんといっても
 タダというのは大きい。本であれば、1000円を切った
 新書でないとなかなか買ってもらえません。
 それらも重要なメディアだと思いますが、私は学術本でしか、
 表現できないものが、やはりあるよう思いますし、そう
 信じています。感覚的には、これらのメディアでは
 「わかりやすさ」がきわめて重要な評価基準になりますが、
 学術本には「わかりやすさ」よりも大切なものがあるように
 思います。
 むしろ、どこまでわかって、どこからはまだわかって
 いないかを、その境界領域を自分の責任で明らかにしよう
 とすることが大切で、わかりやすさとか、啓蒙ということとは
 違うものです。
 値段も高く誠に恐縮ですが、一度、本屋で手にとってみて
 もらえれば、とてもうれしいです。