● どうしてスネップの研究を
しようと思ったのでしょうか。
実をいうと、最初からスネップの
研究をしようと思ったのでは
ありません。ある意味では
たまたま、ということになります。
私は、統計を漠然と眺めていたり
するのが好きです。それに何か
気になることがあって、どうなって
いるのかを調べたりするのも好き
です。
学生のときは、図書館に
行って統計書を借りてきてみたり
しました。今は、インターネットで
すぐに調べられるので、本当に
便利です。学生には、今でも図書館
に行くといいよ、といいますが。
あるとき、社会生活基本調査を
ながめていて、生活時間の状況を
調べるなかに「誰と一緒にいたのか」
を調査2日間、48時間についてたずねて
いることを知りました。その瞬間、
「これを使えば、ひきこもり的な生活、
もしくはひきこもり気味の生活をしている
人が、どんな暮らしをしているのかが、
わかるかもしれない」と直感的に
思いました。それが大きなきっかけでした。
その結果、たまたま調査に割り当てられた
連続2日間に、家族以外に誰とも一緒にいる
人がいない20~59歳の未婚の無業者が
100万人以上いることが、はじめてわかったのです。
そのなかには半年以上、ひきこもり生活をしている
人も含まれています。
それに社会生活基本調査は、もともと
余暇などの生活状況を調べるのが中心
のもので、働く実態については、それほど
調査が詳しくありませんでした。それが
2006年調査から、仕事を探しているのか、
そして仕事に就きたいと思っているのか、
という新しい調査項目も加わりました。
求職活動の有無と、就業希望の有無は、
無業者がニート状態にあるかどうかを
判断する最も重要な基準です。そのため
「社会生活基本調査を使えば、ニート
の人たちの生活状況もわかるな、ニート
の背景にはどんな生活があるか
わかるかもしれない」と思いました。
実際スネップの研究を通じて、ニートの背景には
社会からの孤立があるということがはっきり
わかりました。
これまで、自分の研究のなかで、
若者の雇用が厳しいのは中高年の雇用が
既得権として守られているからだということを
厚生労働省「雇用動向調査」から明らかに
しました。
ニートについては総務省「就業構造基本調査」
を使って、経済的に厳しい状況にある家庭の
若者がニートになりやすくなっていることを
発見しました。
学校を卒業した直後に正社員になれなかった
若者が、その後も正社員になりにくく、収入も
伸び悩む傾向が、米国の若者以上に強いという
ことは総務省「労働力調査」を分析することで
知りました。
これらの政府統計は、多くの税金と、調査に協力
してくださった方々、調査を実施するために尽力
された多くの人たちによって、調べることができた
ものです。そのおかげで、研究はすべて可能と
なったことは、忘れてはいけないと思っています。