SNEP (39)

玄田)
この10年くらいで若者自立支援の業界も
大きく変わってきているように思います。
一方で、変わらずやり続けていることも
あると思います。
最近の若者自立支援の世界について、
井村さんはどのように感じていますか。
井村)
玄田先生、ご質問いただきましてありがとうございます。
まだ13年しかこの仕事をしていない私が先生のご質問に
お答えできるのか甚(はなは)だ心もとないのですが
頑張ってみます(笑)。
10年前の2002年から若者自立支援の世界で一番変わったと
現場の人間として実感できることは、若者の自立に関わる人が
急増したことだと思います。
「若者支援の話ができる人が急増した」と支援者の立場から
言えると思いますし、「支援を選択できるようになった」と
若者の立場からも言えると思います。これは本当に大きい
ことです。
13年前の1999年、日本全国で若者支援をされている方を調べ、
訪問して回ったことがあるのですが、当時は20団体あるかないか
くらいでした。
1999年はNPO法が設立された年でしたので
NPO法人として活動しているところもなく、
団体のかたちは任意団体とか、有限会社とか、個人事業主とか様々で、
世間的にも、正直マイナーな活動だったと思います。
誤解を恐れずに言わしていただくと、
世間的には全く注目されていなかったか、
一部の(心ある)変わった方々がされているよくわからない活動、
とみなされていたと思います。
実際、私も情報を求めるのにはずいぶん苦労しました。
当時、若者支援をしている団体の情報が載った書籍は
「個性的な人生を歩んでいる人」として取り上げられ、
書店では「オルタナティブライフコーナー」にあった
ことを今でもおぼえています。
今は、インターネットなどで「若者支援」と情報検索をすると
0.22秒で250万件以上ヒットをします(笑)。
10年前の若者は就職や自立ができないのは
本人の努力不足だ、
と思われていた節はありましたし、
若者が就職できないのは努力不足だから
自衛隊に行かせて鍛え上げろ、
という発言が社会的な立場のある方々から公言されていたような
時代でもありました。
今は、そういう発言をされておられた方が
若者支援に関する予算を執行されたり、
シンポジウムに出られたりして、
少子高齢化を迎える日本社会で
若者は次世代を担う大切な存在であるとして、
社会的に包摂していくための活動や発言を行われています。
また12,3年前には、
ひきこもりの方が起こした事件が大きく報道され、
「ひきこもりの人は犯罪者予備軍なのではないか」
と訝(いぶか)しがられていました。
実は犯罪者予備軍でないひきこもりや今でいうニート
の若者などがほとんどであることは、
保健師さんやケースワーカーさん、児童相談所の職員さん
の方々などや、そのご家族の方々といった一部の方々には
よく知られている状況でしたが、
自立を望む若者にどのように支援をしたらいいのか
誰もわかっていなかった時代であったともいえると思います。
今は『地域若者サポートステーション』
(15歳~39歳までの若者の職業的自立を支える厚生労働省
 委託事業。各地の若者支援を行うNPOなどが受託している)が
全国115か所に設置され、ハローワーク一歩手前の方に対する
相談援助が地域でできるようになったり、
また国だけでなく、市町村単位の一部の自治体でも
独自に若者支援を行われるようになったりと、
社会全体の問題として、若者の自立に関わる方々が
増えていることが大きく変わったことだと思います。
変わらずやり続けていること。
目の前にいらっしゃる方々に
一生懸命知恵を絞りながら関わるということは、
現場にいらっしゃるみなさん、私も
変わらずやり続けていると思います。
支援のテクニカルなところで
変わったところと言えば、
「ネットワークを活用した支援」
が成り立ち始めた
ということです。
若者の自立支援で一つだけはっきりしていること
があります。それは、
「自立支援は一か所では完結しない」
ということです。
これは変わりません。
10年前は他に若者支援をする機関がありませんでしたので
ネットワークを活用した支援が成り立たなかった
のですが、今は成り立ち始めています。
若者以外でも社会に暮らすものにとって、
支え手は多ければ多いほどいいと思います。
井村良英