希望学 あしたの向こうに

福井県は、日本人にとっての
心の原風景ともいうべき場所である。
豊かな自然に恵まれ、
家族や伝統を大切にする文化が
地域のいたるところに残っている。
日本人の美徳とされてきた慎み深さや真面目さは、
そのまま福井人の気質にあてはまる。
教育や勤労にも熱心であり、
経済状況のみならず、
生活満足度や幸福感などの全国調査をすると、
つねに上位に位置づけられるなど、
ある意味では他の地域にとっては
羨望の的でもあるのが福井である。
しかし、そんな福井も今、
大きな岐路に立たされている。
その最も象徴的なのが、
原子力活用の行方である。
多くの原子力発電所が存在する
福井の対応と選択は、
震災後のエネルギー政策に
決定的な影響を与える立場にある。
日本の将来の命運を、
今や福井県が握っていると述べたとしても、
あながち誇張とは言えない現実がある。
大切に守られてきた家族のあり方にも、
確実に変化が生じている。
大きな家屋に三世代が同居するという
福井の伝統的な家族のスタイルも、
大きく様変わりしつつある。
地域の人口減少についても、
他の地域と同じように明快な解決策が
見いだせないまま、福井でも日々苦悩が続いている。
希望学の福井調査は、文字通りでいえば
「福のある井(集落・郷里)」であるはずの福井に、
これから希望はあるのか、
そして福井の取り組みが
日本社会にどのような希望を示すことができるかを、
考えようと始められたものである。
東大社研・玄田有史編
『希望学 あしたの向こうに -希望の福井、福井の希望』
東京大学出版会
7月25日発売
「はしがき」より
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-033070-1.html