労働者派遣制度見直し

今朝の日本経済新聞朝刊一面に
掲載されたように、厚生労働省に
設置された部会から、労働者派遣
制度の見直し案が報告され、
厚生労働大臣に建議されることに
なった。
その提案を諮る労働政策審議会
職業安定分科会が、本日午後に
開催された。そこで先ほど、発言
した内容を、以下に記しておく。

 今回の労働者派遣制度の見直し提案を含む部会報告につきまして、分科会公益委員ならびに経済学研究者の立場から、ひとことだけ申し上げます。結論から申しますと、広く雇用契約期間の長期化につながる可能性を有する今回の見直しを、私自身、高く評価いたします。
 
 雇用形態にかかわらず、あらゆる労働者が豊かで安定した勤労生活を送ることは、立場を超えて、すべての国民の合意する目標といえます。その際、克服すべき喫緊の課題とは、およそ100万人にのぼる派遣労働者を含む、いわゆる正社員以外の処遇改善にあることも、多くの認めるところです。
 正社員以外の処遇改善には、技能形成の機会の見直しが不可欠です。ひるがえって正社員以外の労働者にとって、技能形成の機会が損なわれている背景には、業務内容の問題もさることながら、一つの職場で働き続けることのできる期間の短さがあります。
 どのような業務でも、短期間での習得は困難であり、一定期間継続して働いてこそ、その仕事を理解し、より深く掘り下げていくことを可能とする技能は形成されます。それは正社員、パート、アルバイト、派遣、契約、嘱託を超えて、すべてに共通する事実と思われます。
 その事実は、正社員以外から正社員への転職を実現した労働者について詳細に観察することからも証明できます。一般に非正社員の正社員への転職は困難といわれますが、総務省統計局「労働力調査」によると、離職した非正社員のうち、一年以内に正社員へと転職した人々が年間30万人程度存在します。
 そして、正社員への転職に成功した非正社員の人々の特徴として、多くが2年から5年程度、同一の職場で続けて働いた経験を持つという事実が、統計分析からは発見されます(注)。「石の上にも3年」という言葉があります。正社員でなくても、粘り強く一つの職場で3年程度地道に努力して働くことで、技能も形成され、より安定した仕事に移行可能となることを、その事実は示しています。
 一方、2012年に実施された総務省統計局「就業構造基本調査」をみますと、雇用契約期間が1年以下の非正社員の人々は774万人と、非正社員全体の38%を占める現実があります。派遣労働者に限っても、契約期間が1年以下は66.9万人と、派遣労働者全体の56%を占めているのが現状です。
 今回の制度見直しにより、派遣労働者に、まず3年及び期間の定めなく働く機会が拡充していくことは、正社員以外の人々全般に、技能形成の機会を普及していく重要な第一歩となると予想されます。
 その意味で、今回の労働者派遣制度の見直しの提案に至るまでの公労使の関係者皆様のご尽力に敬意を表すると同時に、制度の見直しが着実に実現・実行されることを希望いたします。
(注)玄田有史「前職が非正社員だった離職者の正社員への移行について」
『日本労働研究雑誌』580号、2008年11月号、61-77頁
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2008/11/pdf/061-077.pdf