ナマズの話

経済学は、
法律学、政治学、社会学などと
ならんで、
社会科学という分野
の一つということになる。
「科学」とは何かというのは
むずかしいけれど、
未だはっきりとはみつかっていない
普遍的な法則性などを発見する
ことが多くの場合、求められる。
普遍的であることを証明するために
「誰でも再現できる」(といっても
一定の知識や技術を持った人ではあるが)
といったことも条件とされることが多い。
だとすれば普遍的な法則として
まずイメージするのは「因果の解明」だ。
何が原因となって、どんな結果が起こる
のかを、明らかにすることが重要となる。
労働経済学も、技術革新、国際競争、災害など、
さまざまな出来事は原因となって、それが
雇用や賃金、労働時間などにどんな影響を
及ぼすかを明らかにすることに、多くの研究者
は日々努力をしている。
ただ、ひとくちに因果といっても、それを明らかに
することは、実際のところ、簡単ではない。さまざま
な原因が絡みあっていたり、ときにはAが原因で
Bが結果のこともあれば、同時にBが原因でAが
結果になることもある。それは「同時性」問題と
いわれる。
だからこそ、科学的な研究を目指すために、
何を研究するかではなく、因果関係が明確に
なりそうなことを研究するという、本末転倒な
ことも起こったりする。
さらに言っておきたいのは、因果関係の解明
だけが、普遍性の追求ではないということだ。
因果は未解明でも、そこに何がしかの「関係が
ある」ということを厳密に発見することもまた
科学なのだ。
たとえばナマズの動きが地震の予知につながるか
という関心や期待が古くからある。ナマズが原因
となって地震が結果的に起こるかもしれないから
注目されるのではなく、これまで人類が発見した
ことのない特別な感知能力を一部の生物が持って
いるかが、きわめて科学的に重要だからこそ
注目されるのだ。
同じようなことは、経済学、労働経済学にも
あてはまる。因果がわかれば越したことはないが
それ以前に、まだ誰も発見していない「関係」を
みつけることが、できれば問題の所在を明らか
にすることにつながる。そこから適切な対策や処方が
将来的にみつかることもあるだろう。
若手研究者には、因果関係がうまく解明できず、
論文を投稿してもリジェクトされ続けて悩んでいる
人もいるだろう。
けれど、そこに明確な関係や相関を発見し、その
発見がいかに重要であるかを説得的に示すことが
できれば、それも立派な労働経済学の科学的
研究なのだということを、なぜか少し話してみたくなった。