シンポジウム『星が降るとき』2014.08.08

友人からシンポジウムのお知らせです。

みなさまへ

『星が降るとき-三・一一後の世界に生きる』
刊行記念シンポジウム開催のお知らせ

今回、共同編集者と共に日本とアメリカで活動する80余名の筆者が
福島と原子力について綴ったエッセイを集めたバイリンガル本(日英)
を出版しました。邦題名は『星が降るとき-三・一一後の世界に生きる』
といいます。

福島を舞台に、 震災後の日本や世界を覆う「闇」を見つめ、
どこかで輝くはずの「星」のありかを探そうとする論考集です。
3年経った今だからこそ、皆さんに是非読んでいただけたらと思います。

また執筆者でもある東京大学社会科学研究所の玄田有史教授と宇野重規教授
のご協力で、刊行記念シンポジウムを開くことになりました。
数名の執筆者を登壇 者としてお迎えし、来場者の方々と共に
福島や原子力という問題を様々な角度から議論を交える機会にしたい
と思っています。

日時と場所は以下の通りです。
どなたでも大歓迎です。ぜひご参加いただければ嬉しいです。

時間:2014年8月8日(金)13時〜18時
場所:国際文化会館・岩崎小彌太記念ホール(東京・六本木)
アクセス:http://www.i-house.or.jp/access.html

ご参加いただける場合には、お手数ですが、8月1日までに、
下記のメールアドレスまで、お名前とご所属をご連絡ください。
symposium0808@gmail.com

本とシンポジウムについての詳しい内容については
下記の「星が降るとき」ホームページまたは
Facebookページをご覧ください。
HP: http://toseeoncemorethestars.weebly.com/
Facebook Page: https://www.facebook.com/toseeoncemorethestars

8月8日に国際文化会館でお会いできることを楽しみにしています。

高橋五月
ジョージメイソン大学社会・人類学部
文化人類学助教授

『星が降るとき-三・一一後の世界に生きる』はしがきより

福島第一原発の炉心溶融から二週間を経て、
米国ニューヨーカー誌に「東京からのポストカード」として
大江健三郎の寄稿文『歴史は繰り返される』が掲載された。
この中で大江は、今回の福島第一原発事故を機に日本人が
核の歴史を直視し、広島、長崎の犠牲者の視点で捉え、
原子力が戦争抑止に有効であるなどという幻想と決別できる
ことを願うと綴る。そして、原子力という名の暗いトンネル
を抜けた、その後に見る夜空の星に希望の光を重ね、
ダンテの『神曲』の最終行を心の拠り所にしながらこう結んだ:
「かくてこの處をいでぬ、再び諸々の星をみんとて」。
日本に「原子の火」が灯されてから五十余年、日本の夜空は
瞬く街灯に包まれ、星は数えられるほどに減っていった。
しかし震災直後、明かりは消され、多くの人びとが夜空を見上げた。
空には星が降り、街は闇に包まれていた。
「三・ 一一後」の世界はふたつの闇で覆われている。
核の灯りを消すことで現れる闇は星を輝かせる一方で、
核がもたらす闇は星を雲らせる。つまり「星が降るとき」とは、
原発事故後に日本を覆った「闇」が持つ両義的な意味について
思いを巡らせる場である。

原発事故から二年以上たった現在、核にもたらされた「闇」は
更に広がっている。被災者をめぐる状況は改善どころか
複雑化していく一方である。まき散らされた放射性物質は、
日々の暮しに不安や恐れをもたらし、さまざまな分断や差別を生んでいる。
しかし、放射性物質の移動を阻む壁は存在せず、被曝と非被曝の境界は
とても不規則で曖昧である。ホットスポットは福島だけでなく
日本各地に広がり、海をも越え被曝を生み出している。
「闇」の源は福島だけではなく、ヒロシマ、ナガサキ、スリーマイル、
チェルノブイリ、そしてウラン鉱山、プルトニウム処 理施設、核廃棄施設
などでも生産されてきた。本書はこうした闇の下で生きることを強いられている
人びとの経験や記憶を刻み、福島と世界とをつなげる試みの一つでもある。

日常を核が浸食する「三・一一後」の世界で、人びとは何を守り、
何を背負い、何を捨て、何を拠り所に生きていくのか。
大江は震災直後に彼の思いを「東京からのポストカード」に綴った。
本書に投函された「ポストカード」は、 福島を含む日本各地および
世界各地に暮らし、「三・一一後」を生きる人類学、社会学、政治学、
生態学などの研究者、 活動家、農業者、生活者、詩人、芸術家などが、
それぞれの立場で、原発事故と原発事故がもたらした様々な事象と
そこに投影された日常を綴ったものである。

原発事故の「闇」は、意識的および無意識的に人びとの普段の生活の中へ
入り込んできている。そうした闇は様々な検出値、散在する放射線物質、
変幻自在なホットスポット、といった不揃いな大小の塊や破片となって
拡散している。深まる闇のなかで暮らすことへの葛藤、試行錯誤の日々が
続いている。しかし、再び街灯がともった「三・ 一一後」の夜空では
星を確認することは難しい。世界中の多様な声を綴っていく。
それぞれの思いを語り、つなげていく。長いプロセスであるが、
その後に見える夜空を想像する一歩となるのかもしれない。

二〇一三年三月二八日
サンタクルーズ、東京、プリンストン、京都にて
ヘザー スワンソン
セイヤー ライアン
高橋五月
内藤大輔