感染症拡大の第1波が
雇用・就業に与えた影響の
特徴の一つとして
総務省統計局「労働力調査」の
2020年3月の基本集計
および
2020年1-3月期の詳細集計
の時点で
休業者の未曽有の急増をこれまでも指摘してきた。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/04/30
https://genda-radio.com/archives/date/2020/05/17
2020年4月の基本集計からは
休業者の未曽有の急増は
より鮮明なものとなっている
ことが確認できる。
昨日一部の報道でも取り上げられていたが
全国の都道府県が緊急事態宣言下にあった
4月の月末一週間時点の休業者数は
597万人に達した。
それは対前年同月に比べて420万人、
前月からは348万人と、
途轍もない増加となっており、
就業者全体の9.0%が休業状態にあった。
就業者に占める休業者の割合を
休業者率とすれば、
正社員では5.4%(前月2.5%)なのに対し、
非正社員では14.9%(同5.6%)に達し、
なかでもアルバイトは24.1%(同7.5%)と
きわめて高くなっている。
緊急事態宣言前の3月末時点でも
既に休業者は249万人と過去最多となっていたが、
それをさらに大きく倍以上更新した。
3月も対前年同月で31万人増えていたのに加え、
一年間の増加幅は389(=420-31)万人へと
急拡大したことになる。
折れ線グラフにしてみると、
まさに休業の「オーバーシュート(爆発的増加)」とでも
呼べるような状況になっている。
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c23.html
あくまで仮想的な試算にすぎないが
もし休業者が休業ではなく全員仕事を失い
失業していたならば、
完全失業率も約11%まで急増し、
米国の約14%と遜色ない水準にまでなっていたとも考えられる。
現在までのところ失業率が2%台を維持しているのも、
休業で仕事をなんとか持ちこたえていることの影響は大きい。
産業別では休業者は
特に宿泊業・飲食サービス業について
前年の10万人から105万人に拡大している。
また医療や福祉の崩壊との関連から
以前より懸念していた医療・福祉の休業も
25万人から50万人に倍増していた。
年齢別の休業者率は、
アルバイトなどの非正規雇用が多い
10代から20代前半で高い他、
65歳以上でも高くなっている。
高齢者では、非正規の割合の高さに加え、
やはり健康面での不安による働き止めが
ここでも影響しているのかもしれない。
では、
あらためてなぜ
休業者はこれほどまでに
急増したのだろうか?
考えられるのは主に4つだろう。
第一に、事業の縮小や業績の悪化などの
見通しが、4月末時点では未だ一時的である
といった短期的なものが主流だったのだろう。
緊急事態宣言が解除されれば、早晩需要も
復活し、その際には一定の人手が必要なため、
それまで休業で凌ごうとしていたことが
考えられる。
第二は、潜在的には人手不足の基調が続いている
ことも予想される。人口減少が続くこともあり、
人手を確保することが今後も慢性的・構造的に
難しいという見通しから、なんとか雇用を維持したい
と考えていることで、休業による待機措置を続けていた
のかもしれない。
第三に、休業補償に関するアナウンス効果も一部
ではあったかもしれない。3月から4月の早い段階で
雇用調整助成金(雇調金)の特例措置による
支給要件の緩和や支給水準の拡大が矢継ぎ早に決定された。
実際の給付には一定の時間を要しているとしても
それでも休業による人件費負担抑制の期待には
少なくともつながっただろう。
第四に、人的資本理論の述べるところの
企業特殊的熟練の影響も考えられる。
訓練を受けた企業で特に高い生産性が発揮される
企業特殊的熟練が広く行われている場合、解雇や離職は
それまで投下した人的資本投資が無に帰してしまうため、
不況に直面しても、休業等の活用により、雇用を維持しよう
する傾向が生じやすい。これまで勤続年数の長い正社員の
雇用が維持されやすかったのは、そのためとも言われている。
そんな企業特殊的熟練には、高生産性部門への移動を阻害する
ことで否定的な意見が近年高まっていた。だが特殊熟練の存在によって
休業を増やし失業を抑えているとすれば、実に皮肉だ。
このうち、どれが主因であったか、
他にも理由があったかは、今後の検証が必要になる。
但し、第一の理由が主因であった場合には、
今後、大きな第2波、第3波が来たとすると、
今回の第1波とは違い、さすがに状況の悪化を
もっと長期的・持続的なものと見込むことになり、
そのぶん休業ではなく雇用の喪失に直結することが
予想される。
それだけ今後、深刻な第2波を回避することは
雇用や就業にとっても喫緊の課題である。
その上で当面の課題は、
この約600万人の休業者のうち、
緊急事態宣言が全国で解除された
5月末の時点で(まさに現在)
どの程度が従業に復帰し、
どの程度が新たに失業し、
どの程度が非労働力化するか、
どの程度が休業のままなのか、
その動向が今後の施策にとって
きわめて重要となる。
それがある程度わかるのは、
次回6月30日の基本集計まで
待たれることになる。