2020年6月の労働市場(1)

本日朝、
総務省統計局「労働力調査」
厚生労働省「職業安定業務統計」
の6月分の集計結果が公表された。

今晩のニュースや明日の新聞朝刊では
有効求人倍率が0.09ポイント低下し1.11倍となり、
雇用情勢の悪化に拍車がかかっている
といった報道がなされるのだろう。

ただデータをよく見ると
その解釈には注意を要することが見て取れる。

有効求人倍率とは、
ハローワークで職を探している人(求職者)一人に対し、
何件の求人件数があるかを指している。「有効」というのは
今月集まった「新規」の求人や求職とあわせて、
前月からの繰り越し分も含むものとなっている。

職業安定業務統計によると、
有効求人件数の季節調整値は
前月に比べて1.9ポイント低下しており、
確かに雇用機会の縮小という意味での
雇用情勢の悪化が生じているようにはみえる。

ただし6月の新規求人件数に限ってみると、
8.2ポイント増加し、前月の7.0ポイントに
続いて、ふた月連続の増加となっている
(4月は22.9ポイントと大幅減少)。
特に8.2ポイントは、近年経験したことのない
ハイペースな増加であり、求人に急速な
回復傾向がみられる。

一方で、有効求職者数については、
季節調整値が対前月で5.4ポイント拡大
している。さらにこれを新規求職者数にかぎってみると、
実に18.2ポイント増と、1992年以降最多となる
突出した高水準の増加を記録している。

つまり、5月から6月にかけて
ハローワークは求人も求職も
急速に活気を取り戻していたのである。

これまで感染症拡大のなかで
罹患リスクや様々な制約から
働くことを労働者自身が断念(自粛)する
「働き止め」が3月から4月に顕在化したことを指摘してきた。
あわせて5月になって緩和の兆しが生じつつあることも述べた。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/06/30
それが6月になると、経済活動の再開とともに
労働者の働き止めも、確実に解消に向かって進んでいたことは
ほぼまちがいない。

働き止めの解消によって
求職者が大幅かつ着実に戻ってきたことが
求人の減少(それも直近では急回復)以上に影響したことで
結果的に有効求人倍率の低下につながっていたのである。

6月の働き止め解消の動きは、
ハローワークだけでなく、
日本全体の就業動向を把握する
労働力調査からも確認できる。
非労働力人口は、季節調整値で
4月に94万人と突出して増加した後
5月には前月より21万人減少した。
それが6月になっても、
前月より10万人の減少傾向が続いている。

ただし年齢別に非労働力人口(原数値)
の変化を対前年同月でみると違いもある。
罹患リスクの高さなどから働き止めが
当初から顕著だった65歳以上の高齢者や、
接触感染リスクの高いと思われる飲食業などの
アルバイトも多い15~24歳の若年者では、
非労働力人口の増加が4月、5月、6月と
依然として続いている。

反対に、比較的高齢でも年金収入などが多くで期待できない
55~64歳などの感染による重症化のリスクが大きい層を中心に、
非労働力人口は5月から6月にかけて減少傾向が強まっている。
ここからはリスクを抱えながら働きに出ざるを得ない人々が
増え始めていることが示唆される。

では働き止めを解消した人々は、
どこに向かったのだろうか。

一つには、5月の職を探していない非労働力から
6月には職を探している失業者に移行する人が増えることが
予想された。だが労働力調査によれば、
実際にはその数は24万人(0.6%)と、4月から5月と同一となり、
さほど失業者の増加にはつながらなかった。
同時に非労働力から直接就業者になった人が
92万人と、5月の98万人とこちらもほぼ同水準
で推移している。

また働き止めの解消は、就業者から非労働力人口への
新たな移行にも影響をしており、その数は68万人と前月の
76万人に比べて縮小している。

あわせて5月の完全失業者から6月に就業者に
移行した人も、4月から5月と同じ21万人を数えるなど、
安定的な就業移行となっている。
反対に就業者から完全失業者に移行した人も17万人と、
前月の24万人より減少している。

総じて失業を取り巻く流れに
さほどの大きな変化が生じなかった結果、
6月の完全失業者数(季節調整値)は
194万人と前月とほぼ同水準の3万人減となり、
完全失業率も0.1ポイント低下の2.8パーセントにとどまった
と考えられる。

このように、2020年6月は
当時新規感染者数の拡大もある程度抑えられており、
経済活動の「再起動」が着実に進んだことを反映し、
有効求人倍率の低下とは裏腹に、
むしろ労働市場全般としては堅調に推移していた
といってよいだろう。

ただし、それは同時に今年あまり見られなかった
「梅雨の晴れ間」のようなものだったかもしれない。
7月末には、新規感染者数の急増や
重症者数の持続的な増加など、
6月とは異なる深刻な感染状況が生じた。
それは将来見通しの持続的悪化を通じて
少なからず労働市場にも影響を与えていると
考えられる。

あわせて労働市場の再起動が進んでいた6月には、
今後の中長期的な変化を予感させる新たな動きなども
みられるようだ。

それらの点を続いてみてみる。