2020年6月の労働市場(3)

報道などでは
6月の労働市場の特徴としては
非正規雇用が104万人減少したことが
大々的に取り上げられていたようだ。

104万の減少とは、
対前年同月、
すなわち2019年6月に比べて
2020年6月には非正規雇用が
104万人減ったということになる。
対前年同月に注目するのは、
同じ季節特有の影響を
取り除く最も簡便な方法だからである。

ただ、対前年同月の比較というのも
完全無欠の比較方法ではない。
特にその前の年自体が特殊な状況に
あったとすれば、対前年同月の変化
というのは、今年の変化だけでなく、
昨年の状況にも大きく引きずられる
ことになる。

その意味では、昨年2019年の6月は
非正規雇用の動向にとって
やや特殊な時期でもあった。

長期的に増加傾向を続けてきた
非正規の職員・従業員数は、
2019年9月に過去最多を記録し
はじめて2200万人台(実数)に達した。
翌10月の消費税増税を控えた一時的な
駆け込み需要への対応などもあり、
企業はパート、アルバイトを増やしていた。

そのため、2019年5月から9月にかけて、
非正規雇用は拡大期にあった。
なかでも5月から6月にかけて、
42万人と大きく増えていたのである(注:実数値)。

さらにいえば9月に雇用者数のピークを
迎えて以降、非正規雇用者数は
昨年10月以降、既に緩やかな減少段階に
入っていたこともわかる。

無論、6月の104万人減少というのには、
今年の感染症拡大以後に非正規雇用の雇用機会が
失われたことの影響も少なからずある。産業別では
宿泊、飲食サービス業で対前年同月に比べて
36万人減少(前月、前々月は30万人減)した。
それは、経営の先行きの見通しが立たず、雇用を
打ち切るケースがさらに増え始めていることを
予想させる。

ただそのような現下の状況の深刻化とあわせて、
一年前までは慢性的な人手不足に応じるかたちで
団塊世代が70代直前で多くが
まだ働いていたことなど、
2019年自体が非正規雇用そのものが
拡大のピーク期にあったことの影響も
対前年の変化には無視できないだろう。

そう考えると、仮に非正規雇用者数が
今後9月くらいまである程度安定的に
推移したとしても、
対前年同月だけに注目する限り、
昨年の大幅な拡大の影響を受け続ける。
その結果、非正規雇用が大きく減少している
という側面ばかりが大きく取り上げられ、
ときには実態以上に雇用状況を深刻視する
ムードが形成されることも危惧される。

その意味では、非正規の減少以上に
正規の職員・従業員が6月に対前年同月で30万人増えたという
事実の方がむしろ注目に値するかもしれない。

昨年が特殊だったという意味では、
正規雇用にも同様のことがいえる。
非正規雇用の増大に押されて、
正規雇用は減少しているかのような
印象もあるが、実のところ、
その数は2019年5月時点に
当時過去最多の3535万人(実数)を
記録していたのである。翌6月には
わずかに減ったものの、それでも
3531万人(実数)と当時として
過去2番目に多くなっていた。

それが今年の6月にはさらに30万人増えて
正社員は3561万人になっているのだ。
あまり強調されていないことだが、
感染症拡大に緊急事態宣言が出された
今年4月には、総務省統計局「労働力調査」
における比較可能な統計として
過去最高の3563万人に正社員数は到達していた。

雇用の深刻化が指摘される一方で、
驚くべきことに6月にも、
正社員の雇用者数は
その水準をほぼ維持しているのだ。

産業別にみると正社員は、
製造業、教育・学習支援業、医療・福祉業などで
前年同月より大きく拡大している。

5月に非正社員だった人で6月に正社員になった人も
63万人に達している。

増えている正社員の内実は、
今後明らかにされることになるだろうが、
感染症対応で新たな需要が中長期的に生まれた分野もあり、
そこでは人材の確保と育成などが急務の課題になっている
かもしれない。それが正社員の採用や非正社員からの異動に
つながっている可能性もある。

結果的にかつてないほど
増大している正社員数が
感染症の状況が依然見通せないなかで
どのように推移していくかも
引き続き大いに注目すべきポイントだろう。