2020年3月の労働市場(2)

2020年3月時点では
感染症拡大によって
就業機会全体の底割れが
生じているとまでは言えないものの
非正規雇用では雇い止めなどの
雇用機会の喪失も始まりつつある。

さらに非正規雇用以上に
仕事の確保が既に困難になりつつあるのが
自営業部門だ。

日本では1980年代以降
自営業はすう勢的に減り続け、
それが就業機会の多様性を損なっていることは
以前からいろいろ書いたりしてきた。
それでも総務省統計局「労働力調査」では
2020年3月時点で
自営業主508万人、家族従業者は142万人と
全就業者の9.7%を占める(いずれも実数)。

ただその数は、対前年同月差で
自営業主数は37万人と大きく減少しており、
2月の18万人減少からさらに拡大した。

加えて3月時点では、自営業主の5.3%である
27万人が休業者となっている。自営業の休業者は
経営する事業を保持したまま休み始めて30日未満の
人々を指す
(休業者率は正社員で2.5%、非正社員で5.5%。
非正社員と自営業主の前年同月の休業者率はともに4.2%)。

この自営業にはいわゆる「フリーランス」も
含まれる。

フリーランスにはまだ
公式な定義が存在するわけではないが、
雇い人や店舗を持たない
農林漁業以外の自営業を
本業もしくは副業として行っている人などからなり、
その数も300万人台は確実という。

自営業には一般に雇用保険などのセーフティネットが
存在しない。フリーランスにも就業確保や休業補償などの
脆弱性は指摘されてきたが、その議論が熟する前に
今回の危機が生じてしまった。

このあたりの詳細は、濱口桂一郎さんのコラムに詳しい
説明もある。
https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/005.html

無論、自営業やフリーランスなどでも利用できる
生活資金の貸し付けや家賃支援の制度はあるし、
一時的に雇用者として働くことを希望する場合であれば、
労働者としての保護を可能とする雇用支援の
スキーム(計画的枠組み)も存在する。

そのスキームも多くが、日頃から加入している保険制度に
基づくものであるし、雇用者の保険加入範囲の拡充も
着実に進んできた。一方で仕事上の自由を享受したい人々には
保険制度等への強制加入を望まない人々もいるかもしれない。

いずれにせよ、リーマンショックのときに派遣労働者に
スポットライトが当たったのと同様に、フリーランスに
注目が集まることは今回必至だし、派遣と同様、就業環境
の制度化が結果的に進む可能性はある。

自営やフリーランスについて、
自由の保障と保護の充実という
実に微妙で繊細な線引きが問われている。

2020年3月の労働市場(1)

本日朝、
2020年3月分の
総務省統計局「労働力調査」(基本集計)
ならびに
厚生労働省「職業安定業務統計」
が発表。

労働力調査を見ると、
リーマンショック後の2009年には
2月から3月にかけて就業者数が
52万人減少したのに対し、
今回は11万人減にとどまっている
(いずれも季節調整値)。

完全失業率も2.4%から2.5%の
上昇に今のところ抑えられている。
解雇、雇用契約の満了、定年など
の非自発的理由によって離職した
完全失業者は前月に比べて4万人
増えているが、過去の水準に照らすと
特段に多いわけではない。

どうやら3月時点では、
就業機会の底割れはなんとか免れており、
経済全体での大量の「雇い止め」は
はっきりとは表れていないようだ。

ただし、非正規雇用に限ると
すでに雇用機会の大幅な減少は始まっている。
労働力調査から雇用者数(実数)の対前年同月差をみると、
非正規の職員・従業員は26万人減少しており、
比較可能な2014年1月以降で最大の減少幅となっている。
なかでも今回は「契約社員」が30万人減少と
パート・アルバイトの12万人以上に大きくなっている
(派遣社員の減少は2万人)。

また2月時点でも懸念していた
健康不安などを考慮して労働者自身が
新たに働き出すことを躊躇する「働き止め」も
やはり顕在化しつつあるようだ。

職安統計によると、
新規求職申込件数(季節調整値)の
対前月比はマイナス6.9%と、
2002年1月以降では、
東日本大震災後の2011年9月に
マイナス7.5%を記録して以来の
高水準となっている
(11年3月もマイナス5.3%と高水準)。

求人の落ち込みもみられるが、
求職も減っていることで、
有効求人倍率の急降下を
ある程度抑制している
かたちになっている。

都道府県別では
非常事態宣言がいちはやく出された
北海道や
勤務先への移動手段として
公共交通機関を利用することも多い
東京都や大阪府などで
2月および3月の新規求職申込件数が
対前年同月に比べて
大きく落ち込んでいる(原数値)。

これからもう少しじっくりと
調べてみる。

総務省統計局「労働力調査」2020年2月分

今朝ほど
今年2月分の労働力調査の基本集計の結果が
発表された。
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.html

全体的には雇用情勢の悪化傾向が
みられないなか、
高齢者の就業に変化が出始めている。

65歳以上(特に男性)の就業者数が
今年2月に対前年同月比で8万人増と
伸びがかなり下がってきている(12表)。

さらに非正規の65歳以上男性雇用者に限ると、
前年同月比は比較可能な2014年1月以降
ずっと増加基調であったのが
はじめて3万人の減少となっている(19表)。

うち契約社員に限れば減少は5万人に達し(長期時系列b-3)、
そのせいも一部あってか、契約社員も全体として
3ヵ月連続して対前年同月で20万人以上の減少(6表)。

ウィルス感染のリスクの相対的に大きい高齢者ほど
働くことをいち早く手控える傾向が出始めて
いる可能性がある。

近年、人手不足を支えてきた
高齢者の労働参加がウィルス拡大を
きっかけに大きく揺らぐことが懸念される。

外出には特に慎重であるべき高齢者には
(若い世代も同様ではあるが)、多くの場合
テレワーク促進なども限界があるだろう。
ネットを用いた就職やそもそもハローワークにも
出かけにくいかもしれない。

だとすれば、今後、生活のため高いリスクを冒して
まで就業を必要としている高齢者をどう支えるかが、
コロナ感染危機の雇用問題として
大きく浮上してくるかもしれない。

 

 

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『雇用は契約 雰囲気に負けない働き方』(筑摩選書「はじめに」より抜粋)
http://www.chikumashobo.co.jp/comingbook/