2020年1-3月期の労働市場(2)

では、
もう一方の注目である
フリーランスについての
新事実はなんだろう。

4月29日の
「2020年3月の労働市場(2)」
で書いたように
フリーランスは定義もまだ
確定していないのだが、
労働力調査で把握できるなかで
一番実態に近いと思われる
非農林業の雇い人のいない自営業主(雇人無業主)
に注目してみる。

非農林業の雇人無業主は、
2020年1-3月期には315万人(実数)であり、
その前の2019年10-12月期に比べて12万人減少し、
対前年同期(2019年1-3月期)差でも8万人減少していた。

詳細集計では
最終学歴別の状況がわかるが、
それによると、前期に比べて
大学・大学院卒の雇人無業主は3万人増加していたのに対し、
中学・高校卒の雇人無業主では15万人減少している。

さらに雇人無業主のうち、前期より
既婚者は5万人増えていた一方、
未婚者は10万人、離婚・死別者は6万人減少した。

2人以上世帯の雇人無業主は
6万人増えたのに比べ、
単身世帯の雇人無業主は
17万人と大きく減っている。

加えて農林業を含む産業計ではあるが
雇人無業主の仕事からの年収分布の変化もわかる。
それによると、
年収300万円未満が30万人減少していたが、
対照的に300万円以上は14万人増加していた。

ここから予想されるのは
フリーランスを含む雇人無業主について
感染症が広がるなか、
二極化傾向が強まっている可能性だろう。

感染症拡大にもかかわらず
高学歴で結婚もし、それなりの収入を挙げている
フリーランスなどには、まだマイナスの影響は
余り及んでいない。

それに対し、
大学等へ進学をせず、結婚をしないまま
(ときには離婚なども経験しつつ)
単身で頑張っている、
元々収入の確保もままならなかった
フリーランスなどほど
仕事を続けるのが、むずかしくなっているようだ。

もちろん可能性としては
昨年末から今年始めにかけて
フリーランスで結婚している人が増えたり、
年収を増加させたフリーランスが増えた場合でも、
上記のような事実は起こり得る。
そのような解釈が妥当かは、別のデータから
検証する必要はあるが、その影響は少ないのではないか。

ひとくちにフリーランスといっても、
相対的にラクではない状況にあった人ほど
感染症拡大のなかで状況はさらに厳しくなっており、
全体としては二極化が進んでいることに
注意が必要だろう。

 

2020年1-3月期の労働市場(1)

3月の官邸ヒアリングや
4月に中央公論に書いた記事でも
今回の不況では、
フリーランスとならんで
在学中のアルバイト・パートへの
打撃が大きくなりそうなことを
指摘してきた。

そして緊急の対策も講じられつつある。

では実態はどうなのだろうか。
報道やSNSでは個別事例に焦点が
あてられることが多く、それ自体貴重な
情報ではあるが、かならずしも全体像や
大きな方向性と一致している保証はない。

そこで本日発表になった
総務省統計局「労働力調査」(詳細集計)
の結果から全体的な動向をみてみる。

2002年の調査以来、
2019年10-12月期において
過去最多の203万人(実数)に達していた
在学中である15~24歳のパート・アルバイト数は
感染症が広がり始めた
2020年1-3月期には
12万人減の
191万人となっている。

同じ期間中、
労働市場全体で
パート・アルバイトは
23万人減っており、
減少の半分以上が
在学中の学生や生徒から生じたことになる。

パート・アルバイトを含む
非正規の職員・従業員全体でみると、
減少は34万人とへさらに拡大し、
なかでも65歳以上の減少が12万人と
大きくなっている。健康に不安を感じる
高齢者ほど早々にみずから「働き止め」をし、
労働市場から退出した可能性などが背景にはあるだろう
(「2020年3月の労働市場(1)」2020年4月28日)。

ただ非正規の減少のうち、65歳以上と
同程度もしくはさらに大きい13万人が
在学中の15~24歳から起こっていること
からもその影響の大きさがうかがえる。

さらに詳細集計では、
学歴別の状況も把握できるが、
大学または大学院に在学している
パート・アルバイト(年齢不問)は、
146万人から136万人へと
10万人減少している。

大学もしくは大学院を「卒業」して
パート・アルバイトで働く雇用者が
同じ期間には12万人増えており、
フリーターよりもさらに在学生の
雇用が不安定化しているように
この時期見て取れる。

3月までの時点で、
学生アルバイト等の雇い止めは
飲食店やサービス業などで働いてきた
大学生を中心に実施されていた可能性が
大きいように思われる。

これから詳細集計の結果を
みていきたい。

内定

リーマンショックが
直撃した
2008年度の卒業生では
大学卒等を中心に
2100名以上の
内定取り消しが発生した。

それに対し
非公式な数字ではあるが
5月の連休明けの時点で
厚生労働省が把握している
取り消し数は
100名に満たない状況のようだ。

3月に事態が急変したために
取り消しに至っていないことも
考えられるが、
東日本大震災が影響した
2010年度卒の内定取り消しが
400名以上に及んだのに比べれば
やはり取り消しは
今のところは少ない。

ただそれでも内定が取り消された
卒業生もいるので支援は欠かせない。
新卒応援ハローワークのなかには
未だ業務を縮小していたり
電話相談の対応が中心の
ところもあるようだ。
きめ細かい早期の対応が望まれる。

あわせて気になるのは、
取り消しではないものの、
入職時期の繰り下げが行われ、
待機の状態で不安のままの新卒が
把握できているだけでも
500名以上に及んでいることだ。
繰り下げがその後の取り消しや解雇に
つながらないよう、細心の注意と対応が
こちらも必要だろう。

2030年3月の労働市場(4)

大量の一斉休業や
一部で雇い止めが
広がり始めると、
懸念されるのは、
仕事の「しわ寄せ」が
一部の人たちで強まるのではないか
ということだ。

そこで総務省統計局「労働力調査」から
3月の月末一週間の労働時間(結果原表)を見てみた。

就業者から休業者を除いた従業者の数は
前年同月に比べて18万人減少し、6451万人と
なっている。そのうち週35時間以上働いた人々は
104万人減少し、代わって週1~34時間の人々が
93万人増加している。

おそらくは緊急に短時間の就業に
切り替わった人も多かったのだろう。

では、そのぶん残った仕事が一部の人々に集中し、
結果的に長時間労働の人々も増えていたのだろうか。

調査によると週60時間以上働いていた人はちょうど
400万人であり、前年同月よりも96万人減った。
さらに長時間労働である週80時間以上は57万人と、
前年同月とほぼ同じ(1万人減)。
この結果からは今のところ、仕事のしわ寄せが
一部の人に集中している状況が広がっている
とまでは言えないようだ。

ただし2月に比べると3月は週60時間以上が52万人
増えてもいる(週80時間以上の12万人増加)。
年度末で業務が増えて勤務時間が長くなった影響も
あるかもしれないが、2019年の2月から3月にかけては
60時間以上働く人は増えていなかった。
緊急事態に備えて駆け込みで業務を行っていた可能性もある。

在宅勤務が労働時間に与える影響も含め、
労働時間の動向も注意してみていくべきだろう。

加えて数字に顕著に表れないことは、そのような状況が
まったく存在しないことを意味するわけではけっしてない。
現にこの緊急状況のなかで、なお多くの人々が残業を
行っている事実は重い。

2020年3月時点の週60時間以上働く従業者の主な内訳。
卸売・小売業59万人
製造業44万人
建設業42万人
道路・貨物運送業40万人
宿泊・飲食サービス業33万人
医療・福祉31万人
公務23万人

 

 

2020年3月の労働市場(3)

今回の不況のうち、
かつて観察されなかった出来事を
挙げるとすれば、その一つは
「休業者」の危機直後の
短期間での急増ということになる。

総務省統計局「労働力調査」によれば
2020年3月時点の休業者(仕事を持ちながら
調査期間中の3月末一週間に仕事をまったくしなかった人)は
249万人に達した。249万人は、名古屋市と大阪市の人口の
ちょうど中間あたりに相当する。

その数は、実施された調査期間のうち、
e-statから取得可能な1985年以降で
過去最多となっている(休業者数は
すう勢的に増加を続けているが、同時に
近年3月は他の月に比べて多くなる傾向もみられる)。
なお東日本大震災直後も休業者は急増したことも
予想されるが、当時調査が不可能となっていたため
2011年3月から9月に関しては統計が存在しない。

休業者は2月から3月にかけて53万人増加し、
うち非正規雇用が48万人を占める。

一斉休業は、緊急的な景況悪化に対する
雇用調整の回避手段の措置であり、
それだけ会社は、3月時点では危機が一時的なものと
みなしている場合が多かったと考えられる。

一方、リーマンショック発生直後の2008年9月には
すぐには休業者は増加せず、しばらく100万人程度であった。
それが年末の同年12月になって145万人と突然増え、翌春まで
140~150万人台を続けた。それが5月以降、緩やかに減少
するのと並行し、完全失業率も4%台から5%台へと
高まっていった。

今回も休業は、事態が当面改善するといった見通しが
持てず、危機が持続的だと期待が変化するのに応じて、
契約期間の満了や解雇など、別の雇用調整へと転じていく
可能性がある。

その意味でも、今後の雇用情勢を占う上で、
短期間で急増した休業者の推移を
注意深く見守っていくべきだろう。