2020年1-3月期の労働市場(3)

厳密には、
在宅勤務が解除になり、
図書館が利用できるようになったら、
年報から確認したいと思っているが、
おそらく現在の日本は
労働力調査が開始された1950年代以降、
史上もっとも休業者が多い状況にある。

2020年3月に休業者は、
前月より53万人と大きく増え、
249万となった。
(4月30日「2020年3月の労働市場(3)」)
それは全就業者の3.7%が休業している計算になる。

53万人の増加の内訳を産業別にみると、
最も多いのが、
一斉休校の影響を受けた
「学校教育」の12万人である。
それに休業や自粛の要請などを
受けて営業を一時的に停止したり
開店時間を短縮した「飲食店」からの
休業増加が6万人と続く。
「娯楽業」からの休業も4万人増えている。

その他、実のところ、
感染症対応に多忙を極めている
医療・福祉関連からの
休業者も増えている。
医療や福祉の現場でのクラスターの発生や懸念から
勤務が難しくなったことなどの影響を受けてか、
「医療業」関係から4万人、
「社会保険・社会福祉・介護事業」から5万人
休業が増えている。

特に医療崩壊が進んだ場合、
医療設備の不足に加えて、休業せざるを得ない
医療関係者が増えるおそれもあり、
4月以降の医療関係からの休業者の動きは
注意深く見守る必要がある。
元々人手不足が深刻だった福祉や介護関係でも
休業が増えたことで事業の維持がさらに
困難になっている事態も危惧される。

詳細集計からは
休業者の仕事からの年収分布が
把握できるが、休業者は
その実数、増加数、就業者に対する比率の
いずれの観点からも、
低年収から多く生じていることが鮮明だ。
年収100万円未満の就業者では1-3月期で
前期より22万人増えて77万人が休業し、
7.3%が仕事を休んでいる状況にある。
一方、高所得層からの休業は
今のところ抑制されており、結果的に
感染症拡大は所得分布の不平等化につながっている。

休業中の就業者にとって仕事が本格再開する
見込みが持てなくなると、将来的に失業につながる
可能性も高い。先に見たように休業が
今後も3密状況の要警戒が特に求められる業種から
多くが生じている事実を踏まえると、仕事の
完全再開にはかなりの時間を要し、解雇や
契約終了などの雇用調整につながることも
否定できない。その場合には、雇用維持の
政策とならんで、雇用創出に向けた政策を
本格化させることも求められるだろう。

加えて今回の休業は、
世帯の状況とも密接に関係している。
2020年1-3月期の前期に比べた休業の増加は、
単身世帯からは2万人にとどまるのに対し、
2人以上の世帯からは52万人と多くなっている。
特に2人以上の世帯では、配偶者の休業が26万人増えている。
世帯主については、55歳以上では休業が増えているが、
35~54歳になると増えていない。

背景としては、子どもの通っていた学校が
一斉休校になったことで、主に母親が休業することで
自宅で面倒みている場合が増えている状況が予想される。
5月以降、学校が再開した場合、休業していた母親が
仕事に復帰するのか、それともそのまま仕事を辞めるのかも
今後の労働市場の動向を左右する一因となるだろう。

2020年1-3月期の労働市場(2)

では、
もう一方の注目である
フリーランスについての
新事実はなんだろう。

4月29日の
「2020年3月の労働市場(2)」
で書いたように
フリーランスは定義もまだ
確定していないのだが、
労働力調査で把握できるなかで
一番実態に近いと思われる
非農林業の雇い人のいない自営業主(雇人無業主)
に注目してみる。

非農林業の雇人無業主は、
2020年1-3月期には315万人(実数)であり、
その前の2019年10-12月期に比べて12万人減少し、
対前年同期(2019年1-3月期)差でも8万人減少していた。

詳細集計では
最終学歴別の状況がわかるが、
それによると、前期に比べて
大学・大学院卒の雇人無業主は3万人増加していたのに対し、
中学・高校卒の雇人無業主では15万人減少している。

さらに雇人無業主のうち、前期より
既婚者は5万人増えていた一方、
未婚者は10万人、離婚・死別者は6万人減少した。

2人以上世帯の雇人無業主は
6万人増えたのに比べ、
単身世帯の雇人無業主は
17万人と大きく減っている。

加えて農林業を含む産業計ではあるが
雇人無業主の仕事からの年収分布の変化もわかる。
それによると、
年収300万円未満が30万人減少していたが、
対照的に300万円以上は14万人増加していた。

ここから予想されるのは
フリーランスを含む雇人無業主について
感染症が広がるなか、
二極化傾向が強まっている可能性だろう。

感染症拡大にもかかわらず
高学歴で結婚もし、それなりの収入を挙げている
フリーランスなどには、まだマイナスの影響は
余り及んでいない。

それに対し、
大学等へ進学をせず、結婚をしないまま
(ときには離婚なども経験しつつ)
単身で頑張っている、
元々収入の確保もままならなかった
フリーランスなどほど
仕事を続けるのが、むずかしくなっているようだ。

もちろん可能性としては
昨年末から今年始めにかけて
フリーランスで結婚している人が増えたり、
年収を増加させたフリーランスが増えた場合でも、
上記のような事実は起こり得る。
そのような解釈が妥当かは、別のデータから
検証する必要はあるが、その影響は少ないのではないか。

ひとくちにフリーランスといっても、
相対的にラクではない状況にあった人ほど
感染症拡大のなかで状況はさらに厳しくなっており、
全体としては二極化が進んでいることに
注意が必要だろう。

 

2020年1-3月期の労働市場(1)

3月の官邸ヒアリングや
4月に中央公論に書いた記事でも
今回の不況では、
フリーランスとならんで
在学中のアルバイト・パートへの
打撃が大きくなりそうなことを
指摘してきた。

そして緊急の対策も講じられつつある。

では実態はどうなのだろうか。
報道やSNSでは個別事例に焦点が
あてられることが多く、それ自体貴重な
情報ではあるが、かならずしも全体像や
大きな方向性と一致している保証はない。

そこで本日発表になった
総務省統計局「労働力調査」(詳細集計)
の結果から全体的な動向をみてみる。

2002年の調査以来、
2019年10-12月期において
過去最多の203万人(実数)に達していた
在学中である15~24歳のパート・アルバイト数は
感染症が広がり始めた
2020年1-3月期には
12万人減の
191万人となっている。

同じ期間中、
労働市場全体で
パート・アルバイトは
23万人減っており、
減少の半分以上が
在学中の学生や生徒から生じたことになる。

パート・アルバイトを含む
非正規の職員・従業員全体でみると、
減少は34万人とへさらに拡大し、
なかでも65歳以上の減少が12万人と
大きくなっている。健康に不安を感じる
高齢者ほど早々にみずから「働き止め」をし、
労働市場から退出した可能性などが背景にはあるだろう
(「2020年3月の労働市場(1)」2020年4月28日)。

ただ非正規の減少のうち、65歳以上と
同程度もしくはさらに大きい13万人が
在学中の15~24歳から起こっていること
からもその影響の大きさがうかがえる。

さらに詳細集計では、
学歴別の状況も把握できるが、
大学または大学院に在学している
パート・アルバイト(年齢不問)は、
146万人から136万人へと
10万人減少している。

大学もしくは大学院を「卒業」して
パート・アルバイトで働く雇用者が
同じ期間には12万人増えており、
フリーターよりもさらに在学生の
雇用が不安定化しているように
この時期見て取れる。

3月までの時点で、
学生アルバイト等の雇い止めは
飲食店やサービス業などで働いてきた
大学生を中心に実施されていた可能性が
大きいように思われる。

これから詳細集計の結果を
みていきたい。

内定

リーマンショックが
直撃した
2008年度の卒業生では
大学卒等を中心に
2100名以上の
内定取り消しが発生した。

それに対し
非公式な数字ではあるが
5月の連休明けの時点で
厚生労働省が把握している
取り消し数は
100名に満たない状況のようだ。

3月に事態が急変したために
取り消しに至っていないことも
考えられるが、
東日本大震災が影響した
2010年度卒の内定取り消しが
400名以上に及んだのに比べれば
やはり取り消しは
今のところは少ない。

ただそれでも内定が取り消された
卒業生もいるので支援は欠かせない。
新卒応援ハローワークのなかには
未だ業務を縮小していたり
電話相談の対応が中心の
ところもあるようだ。
きめ細かい早期の対応が望まれる。

あわせて気になるのは、
取り消しではないものの、
入職時期の繰り下げが行われ、
待機の状態で不安のままの新卒が
把握できているだけでも
500名以上に及んでいることだ。
繰り下げがその後の取り消しや解雇に
つながらないよう、細心の注意と対応が
こちらも必要だろう。

2030年3月の労働市場(4)

大量の一斉休業や
一部で雇い止めが
広がり始めると、
懸念されるのは、
仕事の「しわ寄せ」が
一部の人たちで強まるのではないか
ということだ。

そこで総務省統計局「労働力調査」から
3月の月末一週間の労働時間(結果原表)を見てみた。

就業者から休業者を除いた従業者の数は
前年同月に比べて18万人減少し、6451万人と
なっている。そのうち週35時間以上働いた人々は
104万人減少し、代わって週1~34時間の人々が
93万人増加している。

おそらくは緊急に短時間の就業に
切り替わった人も多かったのだろう。

では、そのぶん残った仕事が一部の人々に集中し、
結果的に長時間労働の人々も増えていたのだろうか。

調査によると週60時間以上働いていた人はちょうど
400万人であり、前年同月よりも96万人減った。
さらに長時間労働である週80時間以上は57万人と、
前年同月とほぼ同じ(1万人減)。
この結果からは今のところ、仕事のしわ寄せが
一部の人に集中している状況が広がっている
とまでは言えないようだ。

ただし2月に比べると3月は週60時間以上が52万人
増えてもいる(週80時間以上の12万人増加)。
年度末で業務が増えて勤務時間が長くなった影響も
あるかもしれないが、2019年の2月から3月にかけては
60時間以上働く人は増えていなかった。
緊急事態に備えて駆け込みで業務を行っていた可能性もある。

在宅勤務が労働時間に与える影響も含め、
労働時間の動向も注意してみていくべきだろう。

加えて数字に顕著に表れないことは、そのような状況が
まったく存在しないことを意味するわけではけっしてない。
現にこの緊急状況のなかで、なお多くの人々が残業を
行っている事実は重い。

2020年3月時点の週60時間以上働く従業者の主な内訳。
卸売・小売業59万人
製造業44万人
建設業42万人
道路・貨物運送業40万人
宿泊・飲食サービス業33万人
医療・福祉31万人
公務23万人