「正社員」ってナンだろう?

みなさんの
お手元に
国語辞典がある方。

よろしければ
「正規雇用」
「正社員」
を引いてみてください。

たぶん、
ほとんどの辞書には
載っていないはずです。

有名な岩波書店『広辞苑』にも
1998年刊行の第五版には
登場しませんでした。

2008年に刊行された『広辞苑』第六版に
はじめて「正規雇用」は出てきます。

「非正社員」「非正規雇用」が出ている
辞書は今のところ、見たことがありません。

当たり前のように
使われる
「正社員」
ですが、実はその内実は
よくわからないのです。

非正規雇用は有期雇用?

ウィキペディアで
「非正規雇用」を調べると
非正規雇用(ひせいきこよう)は、いわゆる「正規雇用」以外の有期雇用をいう。
と出てきます。

事実はそうでしょうか。

総務省統計局の
「労働力調査」(2015年)の
調査結果を見てみます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001143324

Ⅱ-7表の一枚目のシートを
みると、「非正規の職員・従業員」は
2015年平均で1980万人です。

その上で3枚目のシートには
「無期の契約」が出ていて、
非正規の職員・従業員のうち
無期の契約は602万人となっているのです。

非正規がすべて有期雇用というのは
事実と異なります。3割は無期の契約なのです。

一方でシートの4枚目をみると、
有期の契約の正社員が123万人存在しています。

正社員=無期雇用、非正社員=有期雇用
というイメージは、実態とは大きくかけ離れています。

正社員って、なにが正しいの?

今月の雑誌『中央公論』に
「正規」と「非正規」の線引きをやめよう
という文章を書いてみました。
http://www.chuokoron.jp/newest_issue/index.html

前々から感じていた
「非正規雇用」問題について
書いてみたものです。

これからは
正規・非正規よりも
無期・有期雇用に
注目していったほうが
よいこと、

その上で、できるだけ
無期か長期の有期雇用が
増えるよう
目標を明確にしたほうが
よいこと、

さらには現在450万人近く
存在する自分の雇用契約期間が
「わからない」
という人を少しでも減らしていく
よう対策を進めるべきこと、

などを書いています。

すでにいろいろとご意見やご批判も
いただいていますが、
みなさんとこの問題を共有
できればと思っています。

誤解

今朝、
雇用問題にまつわる
とある研究会に参加した。

そして実は自分が
完全に誤解していたと
思ったことがあった。

私は最近の労働問題のうち
最も重要なことは、
人手不足が続いているにも
かかわらず、なぜ実質賃金
(消費者物価に対する名目給料)
がいつまでも増えないのか
だと思っていた。

労働経済学の教科書を
みると、
失業が多く、
人手余剰のときでも
賃金は下がらないことがある
ということがよく書かれている。
ケインズの指摘した
「不況期における賃金の下方硬直性」
の問題だ。

今、起こっているのは
「好況期における賃金の上方硬直性」
なのだ。

人手が足りないのならば、
人を雇うことで利潤の拡大を目論む
企業は、賃金を上げてでも人手を
確保しようとするはず。
なぜそうならないのか。

問題は「人手不足」ではなかった。
重要なのは「人材不足」の深刻化
だったのだ。

どこか別のところや、別の会社に
会社が必要とする人がいるのであれば、
その人たちを惹き付けるためにより高い
求人賃金を提示する。また会社のなかに
必要とする人がいるが、人手不足で
引き抜きのおそれがあるときには、
賃金を上げることで、なんとか会社に
とどまってもらおうとする。

いずれも人手不足の前提は、会社に
必要な人材は「必ず存在」するという
ことだ。そのときには、いずれ賃金は
増えていくだろう。

しかし「人材不足」はそれとはまったく
事情が異なる。会社は特定の仕事を
やってくれる人を必要としているのだが、
そんな人材が社内外のどこを探してもいない。
それが人材不足、もっといえば人材枯渇、
さらには人材消失とでもいえる。

人材枯渇であれば、どんなに賃金を上げようにも
そもそも人がいないのだから、人が集まるはずが
ない。また社内にも人材やその候補者はいないと
会社が思えば、その人たちのために高い賃金を
払うことはない。だから賃金が上がることはないのだ。

そこには人を雇おうと思っても人材は求職してこない、
人を育てようとしても人材は育っていかないという、
一種の諦めが、企業にはある。
労働者の側にも、努力して然るべき人材になっても
採用されない、人材になるための育成機会も
得られないという諦めがある。

だとすれば
人材枯渇にもかかわらず
賃金が上がるとすれば
それはどのような状況なのだろうか。
働く人が独立・上昇志向を持って、人生の
ステップアップを繰り返しながら、転職や独立を
続けることで得られる熟練(skill)を磨き
それによって賃金を上げていく。また
会社も人材がいないとなれば、自分たちの手で
熟練を身につけた人材を丁寧に育てていく。
これらはともに高度成長期の時代に実際に
日本のなかで起こったことだった。

しかしそれらはいずれも同時に、21世紀以降、
急速に日本社会のなかで弱くなっていったことでもある。
そしてそれを取り戻すには、まちがいなく
とてつもない時間がかかる。だからすぐには
賃金は上がらない。目先で若干上がることはあっても
賃金の順調な上昇基調は簡単には取り戻せない。

賃金が上がらないのは、一時的な人手不足のせいではない。
賃金が上がらないのは、持続的な人材不足のせいなのだ。
その問題は、きわめて深刻だ。

No Music, No Life.

というコピーがあったが、
今本当に大事なことは

No Skill, No Wage.

なのだ。

 

七五三

学校を卒業して
就職した若者が
その仕事を3年以内に
離職するのが
中学卒で7割
高校卒で5割
大学卒で3割
といわれてきた。

いわゆる若年の
「7・5・3転職」
だ。
ところが
厚生労働省による
最近の調査では
そこに変化がみられるようだ。

大学卒の3割
こそ変わらないが
中学卒では6割、
高校卒では4割まで
下がっている。

くわしくは
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000058034.pdf
の16ページにある。

変化の背景として
好景気の人手不足
によって
当初から納得のゆく
仕事先に出会える確率が
中学・高校卒で上がったのだろうか。

一方で同じような
改善が大学卒でみられないのは
なぜなのだろうか。

今後も研究が必要なところだろう。