追悼

「川崎友嗣さんの思い出」

日本のキャリア研究の発展に多大なる功績をあげられてきた川崎友嗣さん
が、本年6月18日逝去された。59歳の若さだった。

川崎さんの研究は、学生・生徒などへのキャリア教育の効果と実践に関す
る先駆的な研究をはじめ、若年フリーターから高齢者のキャリア形成に至
るまで多岐にわたっており、それらはいずれも深い洞察に基づくものだっ
た。考察のさらなる深化や新たなテーマの発掘など、ご本人もまだまだや
りたい研究が、山ほどあったと思う。その悔しさは、いかばかりだろう。

キャリアについての代表的な研究者であると同時に、川崎さんは、日本
キャリアデザイン学会にとって、欠かすことのできない貴重な人材だった。
2019年度から学会の副会長を務められ ていたのをはじめ、常務理事、理事
などの要職、関西支部の役員としての運営、学会10周年記念事業の実施、
2018年の関西大学での第15回研究大会・総会の実現など、その貢献は絶
大なるものであった。川崎さんがいなければ、日本キャリアデザイン学会
の今日までの発展は、到底おぼつかないものであったろう。川崎友嗣さん
は、まちがいなく学会最大の功労者の一人である。

あわせて川崎さんは、日本キャリアデザイン学会のみならず、キャリア
コンサルティング協会、日本キャリア教育学会など、キャリアにまつわる
様々な組織に深くかかわり、それぞれにひとかたならぬ貢献をされてきた
と聞いている。これから川崎さんをキーパーソンに、キャリアの重要性を
認める多種多様な 人々がヨコの連携を広げ、日本社会にキャリアという考
え方がさらに浸透し、人々の人生の充実に一定の役割を果たすことも期待
されていた。ご本人もその思いをお持ちであっただろうと考えると、かえ
すがえす残念でならない。

川崎さんのご功績とご意思を引き継ぎながら、キャリアデザインの研究と
実践について、私たち一人ひとりが、今なにができるかをあらためて考え
なければならない。それが川崎さんへのご恩に報いる最良の方策だと思う。

その上で、キャリアデザイン学会についての、川崎さんとのやや個人的
な思い出を記してみたい。

私自身、学会とかかわりを持つようになって数年が経ち、副会長の仕事
を仰せつかっていた頃だったと思う。会員数も増え、研 究活動も順調に進
んでいると考えられた矢先、学会の将来にとって気になる事態が起こりそ
うだという懸念が、とあるところからもたらされたことがあった。それは、
学会が着実に発展し、それなりの存在になったからこそ起こり得る、むず
かしい問題だった。

私自身、学会の関係者の一人として、なにをすべきかを模索しながら、
その時点時点で、できることをやっていた(やろうとしていた)記憶があ
る。多くの人にメールなどで相談したり、協力などを仰いだりもした。
ただ、むずかしい判断や選択を行おうとすれば、それにかかわることに
は、誰であっても慎重になるものだ。かかわりを持ってしまうことで巻き
添えになり、しなくてもよかった苦労をしなければならない場 合もある。
相談や協力のメールに返答がなかったとしても、けっしてそれらは不義理
な対応ではなく、事情もわかるような気がした。

そんなとき、いつも親身になってすみやかに返事を送ってくれたのが、
川崎さんだった。相談への的確な返答もありがたかったが、なによりいつも
すぐに反応をしてくれたことが、うれしく心強かったのをおぼえている。
川崎さんは、困っている人々や、孤独に陥りそうな人々を、絶対にほって
おかない人であり、ほっておけない人だった。

キャリア形成の支援では「寄り添う」という表現を目や耳にする事例も
多い。しかし、その実践はけっして容易なことばかりではない。対する人
の内実を理解しようとし、その上で適度な距離を保ち、かつ 腰を据えて取
り組む覚悟と忍耐も求められる。川崎さんは、研究にも裏打ちされた寄り
添い方を日ごろから実践されていたと思う。その姿勢の真髄についてじっ
くり話を聞いてみたかった。

残念ながら、川崎さんの話を直に聞いたり、新しく書かれたものを読む
のは、今はもうできない。しかし、これまでに書かれた論文や著書、さら
には編集にたずさわれた書物などの作品を通じ、これからも私たちは川崎
さんの思いや知見に触れ続けることはできる。

そんな作品の一つに、学会10周年記念の重要事業として、川崎さんが
編集委員長として完成させた『キャリアデザイン支援ハンドブック』(日
本キャリアデザイン学会監修、ナカニシヤ出版、2014年)がある。それ
まではキャ リアデザインを標榜しながらも、「キャリア」とは何かについ
て、学会としての見解共有は行われてこなかった。それを「個人がその人
生を通じてもつ一連の経験」「職業生涯上の仕事経験の連鎖」「生涯を通し
て他者および社会と関係する中で得られる諸経験の価値づけ、意味づけで
構築される個々人それぞれ独自の生き方の構築の過程」などとして基準を
示せたのも、委員長であった川崎さんの尽力の賜物である。

かつて内村鑑三は、後世へわれわれが遺して逝くべきものとして、金、
事業、思想を挙げた。その上で、それらにまさる最大の遺物であり、誰に
も遺すことができ、利益ばかりであって害のないものとして「勇ましい
高尚なる生涯」を語った。そして勇ましい高尚なる生涯 とは「失望の世の
中にあらずして、希望の世の中であることを信ずることである。この世の
中は悲嘆の世の中でなくして、歓喜の世の中であるという考えをわれわれ
の生涯に実行して、その生涯を世の中への贈物としてこの世を去るという
こと」であると述べた。

川崎さんが遺した数々の作品と、生きてこられた姿勢の記憶から、どん
なに苦しいときでも周囲への思いやりと希望を持ち続けた、彼の果敢で高
貴な人柄と人生に思いを馳せつつ、心からのご冥福をお祈りしたい。

日本キャリアデザイン学会理事 玄田 有史

参照文献:内村鑑三(1946)『後世への最大遺物 デンマルク国の話』岩波文庫

※日本キャリアデザイン学会
キャリアデザイン・ニューズレター第190号より抜粋

 

心旅

今週から
NHKのBSで
こころ旅が
再開。

ヘルメット。
丸メガネのサングラス。
フェイスマスク。
自転車。

見た人は
ほぼ全員が思ってる。

「おー タイマーズやないかい その特徴はもう完全にタイマーズやがな」

 

波動

対面は
実に不便だ。
対面には
移動が伴うが、
移動には
物理的、時間的、金銭的に
少なからず費用がかかる。
さらに現在は、感染という
リスクも伴うことになる。

それでも
わざわざ対面を行う
とするならば、
そこには
「どうしても会いたい」
「会わずにはいらない」
といった強い衝動があるからなのだろう。
それは会うことの意味という次元を
超えているのだと思う。

そしてその衝動は、
会って同じ空間にいることで
目にみえない波動、さらには
反響や残響などを共有することに
他にはかえがたい
その瞬間以外には考えられない
生きていることの実感やよろこびを
得られるからだ。

そしてそれは
大部分が偶発的なものなのだけれど、
なんらかの新たな価値との出会いを
生むこともある。

そしてそのライブの経験は
すごい瞬間に
「立ち会った」
「居合わせた」
記憶として
いつまでも余韻が残り続ける。

会議であれ、
芸術や芸能であれ、
個人的な出会いであれ、
対面というライブが
どうしても
必要とされるのは、
やはりそれが
生というものの本質と
深くかかわっているからなのだろう。

それをライブ(「生きる」)と
名付けた人は
すごいと思う。

空気

昨日は
4月以来の
対面形式の
会議。

会場は
ホテルだったが
事務局が
持ち込んだ
アクリルボードで
個別に仕切り。

会場に来れない人は
オンラインで参加。

マイクも使ったので
聞き取りにくいことはなく、
案外スムーズに進行。

このような状況で
あえて対面形式の
会議が意味を持つのは
どういうときなのだろう。

オンラインの会議では
どうしても調子が出ない人も
いるかもしれない(いる気がする)。
さらに会議での合意を形成する過程で
アイコンタクトのようなものが
意見のすりあわせなどで重要な場合、
対面が必要になるときも
あるだろう。

ちなみにアイコンタクトについては
以前にも触れた。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/07/06

このアイコンタクトは
ときに「空気」と呼ばれ
日本的な曖昧な意思決定として
批判もされる。ただそれが
流れを決定づけるほど
重要なこともあるのが
会議というものだろう。

特に大きな意思決定を
みんなの責任で行わなければならない
ときなど、
対面には一定の価値があると
思う(のだけれど)。

気になったのは
ホテルの会場案内に
こちらの会議名以外
一切なかったこと。

現状のきびしさを
まざまざと
見せつけられた気がした。

 

根多

昨日の
折々のことば
もたくさんの方が
お読みになったようで
反響を多くいただく。

そのなかで
「小ネタってなに?」
というものもあった。

鷲田さんは
小ネタを
日々の生活に潜む、
無理のない、
でもちょっと楽しい、
そんな(地域を知る)手がかり
と表現されていた。

詳細は
東大社研・中村尚史・玄田有史編
『地域の危機・釜石の対応 多層化する構造』
東京大学出版会
http://www.utp.or.jp/book/b508909.html
の終章「危機対応と希望」
をお読みいただければと思う。

そのエッセンスは
以下などでも(前後続きあり)
紹介しています。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/06/17
https://genda-radio.com/archives/date/2020/06/18