ゲンダラヂオを
お聴(?)きいただいた方の
何人から産業別の特徴や対策
などについてご質問をいただく。
そこで今考えているところを
少しお話ししてみる。
産業別の就業動向については既に
新聞など色々な媒体で報道されている通りである。
そこでは需要の落ち込みから
飲食サービス業、宿泊業などで
急速に就業が悪化している他、
生活関連サービス業、娯楽業などでも
厳しさを増しつつあることなどを中心に
指摘されることが多い。
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c01.html#c01-8
実際、現状はそのとおりだと思う。
雇用や就業の変動を
マクロ経済学的に考えるとき
変動の起因(ショック)は
「マクロ的ショック(aggregate shock)」
「部門別ショック(sectoral shock)」
「固有的ショック(idiosyncratic shock)」
に分類される。
マクロ的ショックは経済全体に波及するショック、
部門別ショックは、特定の産業、地域、規模などに
集中するショック、固有的ショックはより特定の企業や
事業所に限定的に集中するショックを意味している。
2004年に出した拙著『ジョブ・クリエイション』第2章では
1990年代を通じ、雇用創出・消失に対しては、固有的ショックの
影響が強まっているのを書いたことがある。
一方で、2009年を中心に猛威をふるったリーマンショックでは
雇用の激動は圧倒的にマクロ的ショックによってもたらされていた。
世界的金融不況という金融システムそのものの崩壊の
危険にさらされていた状況は、特定の産業などを超えて
影響を及ぼしていたのである。その分析については
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2010/05/pdf/004-017.pdf
に書いた。
分析はこれからではあるが、おそらく今後
コロナショックと呼ばれるであろう今回の激動についても、
マクロ的ショックの影響がきわめて大きかったという結論に
なるのではないかと予想している。
今の時点では、雇用の悪化は、真っ先にサービス関連の産業で顕著に
表れているが、これからは他の産業にも少なからず波及する。
春先まではあった国内外からの受注がその後ピタリと止まることで
休業などで凌いできた製造業や建設業などの雇用消失が
徐々に顕在化してくる可能性もある。
そうなると特定の産業だけを見込んだ対策だけでは
明らかに不十分ということになる。
実際、現在の雇調金の支給範囲などを見ても、対策は特定の産業
だけでなく、全方位を想定しており、的確だろうと思う。
ただ、これまで最優先で取り組んできた雇用維持の対策だけでは
限界があるのも、また事実だろう。
感染症の拡大がある程度抑えられたとしても
外国からの旅行客の回復には時間がかかるだろうし、
いわゆる3密の可能性が避けきれない業種などでは、
当面事業の再開が難しい場合も出てくる。
そのため、事業を閉じるのをやむなく決心した事業主やその従業者には、
新たな就業先を支援・あっせんする雇用のマッチング対策が出番となる。
リーマンショック時に比べると、潜在的な求人は少なからず存在
することを考えると、再就職を望む人がマッチングによって希望を
実現することは不可能ではない。
ただ事業を永続的に離れることを望んでおらず、
一定期間は休業した後には、また元の仕事に戻りたいと望む人々も
きっと多いだろう。
それらの人々にはマッチング対策は必ずしも有効ではなく、
1年(場合によっては1年更新可)といった一定期間に限って
臨時の「つなぎ雇用」の機会を創出し、急場を凌ぐことが求められる。
そこで登場するのは、緊急的な雇用創出事業である。
そんな雇用創出事業として、リーマンショックや東日本大震災の際にも
雇用の実績を挙げたのが、雇用創出基金事業だった。
基金事業では一定の基金を都道府県に積み、
そこから臨時採用や緊急訓練などの緊急事業に対して
柔軟的・機動的に事業を実施することが可能となり、
リーマンショック時には55万人の雇用を創出した。
もう一つ、雇用を創出する企業に対して、税制上の優遇措置を実施する
雇用促進税制もある。2010年代に実施され、44万人の雇用を生み出した。
ただ今回は一時的に赤字に転落する企業も多いことを考えると、
より緊急的には基金事業の方が当面は有効かもしれない。
雇用維持対策を大前提として緊急的に進めつつも、それが限界に達する前に
雇用創出対策に踏み込むべきというのは、3月27日の官邸ヒアリングで述べ、
提出資料にも記載している。
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/keizaieikyou/07/shiryo_06.pdf
今も考えに基本的に変わりはない。
基金事業については、
一部の政党でも前向きといった
ことを風の噂では聞いたことがあるが、
財政規律を重視する当局の判断や
不正支給のおそれに対する世間の厳しい目
などを懸念し、必ずしも本格的な検討が進んでは
いないようにみえる。
結論的には、産業別の対策はどうか?というご質問には、
特定の産業に対する雇用維持対策では今後限界があり、
産業間の移動を希望する人々へのマッチング対策に加え、
基金事業などによる産業を超えた雇用創出対策の検討を
そろそろ本格的に始めるべきときに来ているのではないか
と思っている。