変化は既に始まっている

  『ビジネス・レーバー・トレンド』の
 「非正規雇用をどう安定させるか」
 の特集に寄稿する。
 http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/index.html
 非正規については短期の転職を促進する
 よりも、むしろ同じ職場に一定期間安定して
 継続雇用が出来て、その間に実績と能力開発を
 積むことが可能となる環境づくりが重要であることを
 改めて述べる。
 それを自分では「非正規の内部化」「非正規雇用の
 中長期化」と呼んでいるが、同じような内容は多くの
 研究者が指摘しつつある。以前、ある研究会で
 久本憲夫氏は、仕事が存続する限り、雇用が保障される
 新たな非正規を「準正規雇用」と呼んでいた。
 佐藤博樹氏は、職場や職種などの特定の「限定」を
 明確にした上で、期間を短期に限らない非正規雇用
 の追求を指摘している。人事の現場に詳しい研究者
 以外に、経済学者のなかでも大竹文雄氏や
 鶴光太郎氏など、有期雇用の期間延長に言及している 
 人たちもいる。
 私自身の表現は、こんな感じだ。
 「雇用形態を問わず求められているのは、能力開発に関する新たなシステムの構築である。本人のみが責任を持つ「自己責任型」でもなければ、他者に全部お任せの「他者依存型」でもない。労働者本人と企業、政府が相互に責任を果たし合う「協働型能力開発システム」である。」
 「能力開発の最終的な決定主体は、正規であれ、非正規であれ、あくまで労働者本人であるべきだ。ただ能力開発の実効性は、働く場を提供する企業の職場環境に大きく左右される。職場で提供される場が安定的であるほど、能力開発は効果的となる。」
 「本来、雇用契約には、労働サービスの取引という以外にも、能力開発の場の活用・提供という、労働者と企業の両者が相互に協働して提供しあう、複合的取引の意味合いが含まれる。労働者は企業との間で、労働サービスの対価として「賃金」を得る一方、場の提供に対する「レント(賃貸料)」を契約に応じて支払う関係にある。」
 「その契約は原則、労働者と企業の個別合意である。両当事者の合意があれば、期間の定められた契約が長期化することを妨げる理由はない。有期雇用を中長期化し、内部化を促すことは、非正規の安定化に直接的に寄与する。そのためにも現行の有期雇用上限3年(一部専門職等や満60歳以上は5年も可)という法規制を、まずは広く5年程度まで拡充する柔軟化が検討されるべきである。」
 ここでは、内部化に加えて、「協働型」の能力開発という
 キーワードを考えてみた。
 今月号の雑誌のなかで、個人的にとても目を引いたのが
 株式会社ロフトによる、非正規雇用の無期長期化の取り組み。
 「ロフト社員」とよばれる、当初は6ヶ月の有期契約で雇用契約後、
 訓練・人事考課を経た上で、週20時間から40時間の勤務範囲で
 無期雇用される社員を意味する。処遇は時間換算での正社員との同一
 労働・同一賃金、契約時間に影響されない昇格・昇進、リーダー以上
 には賞与もある。非正規雇用の内部化・中長期化の一つの進化形態
 である。
 ロフト社員制度の導入後、いくつかの目に見える変化もあったという。
 まず退職率は半減、反対に採用倍率は倍増するなど、制度導入の
 背景であった、契約・パート社員の離職率の高さと採用逼迫に対して
 明確な効果が現れている。また採用や離職だけでなく、長期勤続
 志望の増加やステップアップ志向、社員満足度も大きく上昇している
 という。
 危機感を持って地道に模索を続けている現場や企業にこそ、これからの
 働き方のヒントはある。