2020年4月の労働市場(4)

4月初旬に
現在発売中の『中央公論』(2020年6月号)
の原稿を書いていたときには、
その時点で雇用・就業に関する2月までの統計しか
手元になかったので正直不安だった。
ただ、その後のデータをもとに確かめてみると
それほど大きくは的外れではなかったのではないかと
多少なりとも安堵している。

ありがたいことに、
いくつかご意見などもいただいた。
新聞に掲載された書評等を拝読すると
「状況が長引けば、やはり家庭は母であり妻である
女性が守るのが当然という、固定的な性別役割分業が
復活することも考えられる。」
「雇用形態や性別などで分断された
労働市場の二重構造的状況が強まることは望ましくない。」
といったあたりに特に関心をいただいたようだ。

そこでここでは、性別による違いなどに注目して
総務省統計局「労働力調査」(基本集計)から
4月の労働市場の動向を振り返ってみる。
なお、これまで人数などの絶対数に多くで着目してきたが、
性別による発生頻度や集中度合の違いを把握するため、
以下では基本的に構成するグループに占める「割合」又は「率」
に注目していく。

4月には就業者が大きく減った半面、失業者はそれほど
増えなかったが、背後には非労働力人口の急増があった。
人口に占める労働力人口(=就業者+完全失業者)である
労働力人口比率(原数値)を見ると、
2020年4月には、前年同月に比べて低下傾向にあるが、
その度合いは女性の方が若干大きく、それだけ
非労働力化は女性で進んでいたことになる。そして
女性のなかでも労働力人口比率が低下していたのは、
35~44歳の年齢層だったこともわかる。

さらに35~44歳女性のうち、既婚者(有配偶者)に限ると
労働力人口比率は前年同月に比べて2.3~2.4%ポイントと、
より大きく低下していた。同じ年齢層の女性でも
未婚者の低下は0.2%ポイントだったのと比べて、
その差は大きい。

違いの背景としては、3月以来、子どもが通う学校の
一斉休校が続き、それだけ日ごろの子どもの世話のために
働くことそのものを中断せざるを得なかった母親が
多かったことを4月のデータは語っている。

その他、就業者数の減少を一部で食い止めていたのは
休業者の記録的な増加だったことをこれまで見てきた。
このうち雇用者に占める休業者の割合である
雇用休業者率が、4月時点で抜きん出て高くなっていたのは
男女ともに15~24歳の若年層だった。いうまでもなく
この層の就業者には、非正規雇用者、なかでも在学中の
学生・生徒のアルバイトが数多く含まれている。

それに次いで、男性では「働き止め」が多い65歳以上など
高齢者で雇用休業者率が前年同月より高まっていたが、
女性になると、20代、30代、40代といった比較的年齢の若い層で
その割合が大きく上昇していた。
ここでは女性が、仕事を辞めないまでも、
休業によって、妻として母として家庭を守ることを優先的に
求められていた実態が垣間見られる。

そして、非労働力と休業の割合がともに増加した女性のなかには
35~44歳とその前後からなる、いわゆる「就職氷河期世代」の人々が
ここにも少なからず含まれているのである。

氷河期世代の女性は、学卒後の就職で困難を極め、結婚後も世帯収入が
多くないことから、パートなどの非正規雇用で長年働いてきた場合も多い。
同時に職場で経験を積み、非正規ではあるが基幹的人材として評価され、
子どもも幼少時のときほどは、手間がかからなくなっていた。
同時に人手不足を背景とした優れた人材確保の機運の高まりや、
政府による就職氷河期世代の正社員化などを後押しする政策の本格化もあり、
ずっと苦労しながら頑張ってきた氷河期世代の女性にも、
あと一歩のところまで安定雇用の機会が広く届くところまで来ていた。

だがそれも、今回の感染症拡大によって、不本意ながら長年働いてきた職場を
辞めたり休業する事態にまさに直面しているのが、氷河期世代の特に女性である。
そのことは、あと少しまで迫っていた、正社員登用などのチャンスが
ふたたび遠のいてしまったことを示唆している。
氷河期世代にこれまでも何度となく訪れてきた危機が、さらに深刻なかたちで
特に女性に対して今まさに襲いかかっているのである。

感染症拡大以前、ベテラン女性の正社員化が
進むことで、長く続いてきた性別による固定的な役割分業が、
氷河期世代を境に終焉へと向かうことが期待されていた。
しかしその期待の実現は、当面、またもや追いやられてしまった。
それは就業機会の喪失にとどまららない、今回の事態が
引き起こした日本社会全体の損失である。

最後に、就業に穴が開きながらも、大型連休や働き方改革の影響なども
あって、大崩壊をギリギリのところで食い止めてきた、短時間就業への
一斉シフトの性別による違いも見ておく。

4月にはそれまで通常の就業時間を働いてきた雇用者の多くが、
休業をしないまでも在宅勤務の形態を含む短時間就業に切り替えることで、
緊急事態に対応してきた。そこで非農林業雇用者について、
従業者(就業者のうち休業者以外)に占める
週35時間以上就業していた人々の割合(一般就業時間比率)を求めてみた。

すると、一般就業時間比率は、
女性の場合、3月の51.7%から15.1%ポイント低下し、4月には36.6%に減少した。
一方、男性の場合には、3月の81.2%が4月には58.5%へと、22.7%ポイントと
より大きく減少している。4月は男性正社員もおよそ3人に1人が週35時間未満の
短時間就業となっていた。

働き方改革に応じた労働時間の縮減は、
長時間労働になりがちだった男性にとって大きな課題だった。
そのぶん昨年、一昨年来の改革による実行の必要に迫られてきた
労働時間の短縮には、男性も比較的取り組みやすかったのかもしれない。

ただし家庭の危機を前にして
労働時間の一部短縮には肯定的であったとしても、
職場との関係が一時的でも切れてしまうことを恐れ、
より大規模な休業までには踏み切れないというのは、
長年育児休業の取得が広がらない背景の可能性も含め、
依然として既婚中高年男性雇用者の宿痾なのかもしれない。