空家

6月に刊行予定の編著
の最終チェックの最中。
http://www.utp.or.jp/book/b508909.html

釜石での震災や台風などの被害に
ついての考察のなかで
思いがけず空き家が活用された
事例に改めて印象付けられた。

避難所でインフルエンザに感染した
可能性のある人の緊急隔離に活用したり、
移動の困難な高齢者の一時避難に用いた例
などだ。

活用のポイントは、災害の前に空き家の所在が
明確に確認されていたことと、緊急時での活用
について、所有者と利用者の間で緩やかな合意が
事前に形成されていたことだろう。

感染症の収束にまだ時間を要するなか、
空き家の有効利用などの話はあまり聞こえてこない。
安全面での配慮も無論大きいが、あわせて
所在確認の困難と利用の事前合意が
なければ、急に活用するのは難しい。

空き家問題は、今後も続く重要な社会課題だが、
危機時の対応なども、今後考えていくべきなのかもしれない
と思った。

 

2030年3月の労働市場(4)

大量の一斉休業や
一部で雇い止めが
広がり始めると、
懸念されるのは、
仕事の「しわ寄せ」が
一部の人たちで強まるのではないか
ということだ。

そこで総務省統計局「労働力調査」から
3月の月末一週間の労働時間(結果原表)を見てみた。

就業者から休業者を除いた従業者の数は
前年同月に比べて18万人減少し、6451万人と
なっている。そのうち週35時間以上働いた人々は
104万人減少し、代わって週1~34時間の人々が
93万人増加している。

おそらくは緊急に短時間の就業に
切り替わった人も多かったのだろう。

では、そのぶん残った仕事が一部の人々に集中し、
結果的に長時間労働の人々も増えていたのだろうか。

調査によると週60時間以上働いていた人はちょうど
400万人であり、前年同月よりも96万人減った。
さらに長時間労働である週80時間以上は57万人と、
前年同月とほぼ同じ(1万人減)。
この結果からは今のところ、仕事のしわ寄せが
一部の人に集中している状況が広がっている
とまでは言えないようだ。

ただし2月に比べると3月は週60時間以上が52万人
増えてもいる(週80時間以上の12万人増加)。
年度末で業務が増えて勤務時間が長くなった影響も
あるかもしれないが、2019年の2月から3月にかけては
60時間以上働く人は増えていなかった。
緊急事態に備えて駆け込みで業務を行っていた可能性もある。

在宅勤務が労働時間に与える影響も含め、
労働時間の動向も注意してみていくべきだろう。

加えて数字に顕著に表れないことは、そのような状況が
まったく存在しないことを意味するわけではけっしてない。
現にこの緊急状況のなかで、なお多くの人々が残業を
行っている事実は重い。

2020年3月時点の週60時間以上働く従業者の主な内訳。
卸売・小売業59万人
製造業44万人
建設業42万人
道路・貨物運送業40万人
宿泊・飲食サービス業33万人
医療・福祉31万人
公務23万人

 

 

2020年3月の労働市場(3)

今回の不況のうち、
かつて観察されなかった出来事を
挙げるとすれば、その一つは
「休業者」の危機直後の
短期間での急増ということになる。

総務省統計局「労働力調査」によれば
2020年3月時点の休業者(仕事を持ちながら
調査期間中の3月末一週間に仕事をまったくしなかった人)は
249万人に達した。249万人は、名古屋市と大阪市の人口の
ちょうど中間あたりに相当する。

その数は、実施された調査期間のうち、
e-statから取得可能な1985年以降で
過去最多となっている(休業者数は
すう勢的に増加を続けているが、同時に
近年3月は他の月に比べて多くなる傾向もみられる)。
なお東日本大震災直後も休業者は急増したことも
予想されるが、当時調査が不可能となっていたため
2011年3月から9月に関しては統計が存在しない。

休業者は2月から3月にかけて53万人増加し、
うち非正規雇用が48万人を占める。

一斉休業は、緊急的な景況悪化に対する
雇用調整の回避手段の措置であり、
それだけ会社は、3月時点では危機が一時的なものと
みなしている場合が多かったと考えられる。

一方、リーマンショック発生直後の2008年9月には
すぐには休業者は増加せず、しばらく100万人程度であった。
それが年末の同年12月になって145万人と突然増え、翌春まで
140~150万人台を続けた。それが5月以降、緩やかに減少
するのと並行し、完全失業率も4%台から5%台へと
高まっていった。

今回も休業は、事態が当面改善するといった見通しが
持てず、危機が持続的だと期待が変化するのに応じて、
契約期間の満了や解雇など、別の雇用調整へと転じていく
可能性がある。

その意味でも、今後の雇用情勢を占う上で、
短期間で急増した休業者の推移を
注意深く見守っていくべきだろう。

2020年3月の労働市場(2)

2020年3月時点では
感染症拡大によって
就業機会全体の底割れが
生じているとまでは言えないものの
非正規雇用では雇い止めなどの
雇用機会の喪失も始まりつつある。

さらに非正規雇用以上に
仕事の確保が既に困難になりつつあるのが
自営業部門だ。

日本では1980年代以降
自営業はすう勢的に減り続け、
それが就業機会の多様性を損なっていることは
以前からいろいろ書いたりしてきた。
それでも総務省統計局「労働力調査」では
2020年3月時点で
自営業主508万人、家族従業者は142万人と
全就業者の9.7%を占める(いずれも実数)。

ただその数は、対前年同月差で
自営業主数は37万人と大きく減少しており、
2月の18万人減少からさらに拡大した。

加えて3月時点では、自営業主の5.3%である
27万人が休業者となっている。自営業の休業者は
経営する事業を保持したまま休み始めて30日未満の
人々を指す
(休業者率は正社員で2.5%、非正社員で5.5%。
非正社員と自営業主の前年同月の休業者率はともに4.2%)。

この自営業にはいわゆる「フリーランス」も
含まれる。

フリーランスにはまだ
公式な定義が存在するわけではないが、
雇い人や店舗を持たない
農林漁業以外の自営業を
本業もしくは副業として行っている人などからなり、
その数も300万人台は確実という。

自営業には一般に雇用保険などのセーフティネットが
存在しない。フリーランスにも就業確保や休業補償などの
脆弱性は指摘されてきたが、その議論が熟する前に
今回の危機が生じてしまった。

このあたりの詳細は、濱口桂一郎さんのコラムに詳しい
説明もある。
https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/005.html

無論、自営業やフリーランスなどでも利用できる
生活資金の貸し付けや家賃支援の制度はあるし、
一時的に雇用者として働くことを希望する場合であれば、
労働者としての保護を可能とする雇用支援の
スキーム(計画的枠組み)も存在する。

そのスキームも多くが、日頃から加入している保険制度に
基づくものであるし、雇用者の保険加入範囲の拡充も
着実に進んできた。一方で仕事上の自由を享受したい人々には
保険制度等への強制加入を望まない人々もいるかもしれない。

いずれにせよ、リーマンショックのときに派遣労働者に
スポットライトが当たったのと同様に、フリーランスに
注目が集まることは今回必至だし、派遣と同様、就業環境
の制度化が結果的に進む可能性はある。

自営やフリーランスについて、
自由の保障と保護の充実という
実に微妙で繊細な線引きが問われている。

2020年3月の労働市場(1)

本日朝、
2020年3月分の
総務省統計局「労働力調査」(基本集計)
ならびに
厚生労働省「職業安定業務統計」
が発表。

労働力調査を見ると、
リーマンショック後の2009年には
2月から3月にかけて就業者数が
52万人減少したのに対し、
今回は11万人減にとどまっている
(いずれも季節調整値)。

完全失業率も2.4%から2.5%の
上昇に今のところ抑えられている。
解雇、雇用契約の満了、定年など
の非自発的理由によって離職した
完全失業者は前月に比べて4万人
増えているが、過去の水準に照らすと
特段に多いわけではない。

どうやら3月時点では、
就業機会の底割れはなんとか免れており、
経済全体での大量の「雇い止め」は
はっきりとは表れていないようだ。

ただし、非正規雇用に限ると
すでに雇用機会の大幅な減少は始まっている。
労働力調査から雇用者数(実数)の対前年同月差をみると、
非正規の職員・従業員は26万人減少しており、
比較可能な2014年1月以降で最大の減少幅となっている。
なかでも今回は「契約社員」が30万人減少と
パート・アルバイトの12万人以上に大きくなっている
(派遣社員の減少は2万人)。

また2月時点でも懸念していた
健康不安などを考慮して労働者自身が
新たに働き出すことを躊躇する「働き止め」も
やはり顕在化しつつあるようだ。

職安統計によると、
新規求職申込件数(季節調整値)の
対前月比はマイナス6.9%と、
2002年1月以降では、
東日本大震災後の2011年9月に
マイナス7.5%を記録して以来の
高水準となっている
(11年3月もマイナス5.3%と高水準)。

求人の落ち込みもみられるが、
求職も減っていることで、
有効求人倍率の急降下を
ある程度抑制している
かたちになっている。

都道府県別では
非常事態宣言がいちはやく出された
北海道や
勤務先への移動手段として
公共交通機関を利用することも多い
東京都や大阪府などで
2月および3月の新規求職申込件数が
対前年同月に比べて
大きく落ち込んでいる(原数値)。

これからもう少しじっくりと
調べてみる。