結果

28日、
安倍首相は
辞任表明の記者会見のなかで
政権の自己評価の一つとして
就業者数の増加を挙げた。

実際、
再び首相の座についた
2012年から
(正確には2012年12月)
感染症拡大前の
2019年にかけて
全体の就業者数は
444万人増加している。

それまでの就業者数の
ピークであった1997年からは
277万人減少していたことを
考えると、
いわゆる「失われた10年」と
呼ばれた時期の就業機会の
喪失を一気に取り戻した計算になる。

444万人の就業者増加のうち、
なかでも女性では340万人、
65歳以上の高齢者が296万人
の増加となっており、
女性と高齢者の就業拡大が
広がったのも2012年からの特徴である。

6度の選挙にすべて勝利したのにも
抽象的な政治理念よりは、
まずは経済と雇用の回復という
選挙権者の多くの生活に直結する
テーマを掲げたことが功を奏した
と言われているようだが、事実だろう。

ただこれらの就業増加を
本当に安倍政権による成果であると
評価できるだろうか。

記者会見でも、
政治は「結果」がすべてだと
首相は述べていた。たしかに
444万人の就業増加は、
結果的に事実だとしても、
その理由は別のところにある
可能性はないだろうか。

2012年から19年にかけて
就業機会が大きく拡大したのには
少なくとも4つの理由が考えられる
ように思う。

第一は、首相就任と同時に
打ち出された経済政策の効果だ。

当初「3本の矢」という指針と
新総裁を迎えた日本銀行との連携のもとに
驚くような金融財政政策が実施された。
その結果、それまでの円高傾向が
修正されることで輸出に改善が見られるなど
経済状況は確かに好転が見られた。

あわせてリーマンショック後の2009年を底に
回復傾向にあった有効求人倍率の上昇も
軌道に乗り、2014年以降は1倍を超え続けてきた。
経済政策による求人拡大の結果としての
就業増加は、アベノミクスによるものと
評価するのが適切だろう。

ただ、第二の理由として、
政策が効果を持ったとしても
重要なのは雇用政策だった可能性がある。

たとえば高齢者の就業機会拡大には、
政権期間中の2013年度より施行された、
65歳までの雇用機会の確保を義務化する
高齢者雇用安定法の影響が大きかったことは
まちがいないだろう。法改正は65歳までの
雇用を拡大したのみならず、65歳以降も
働くことを希望する高齢者にとっての
貴重な就業の架け橋となった。

しかしこの法改正はすべて
2012年までの多くの関係者の努力の賜物である。
実現に向けた労使による粘り強く精力的な
議論と行政による慎重な法制度の設計は、
すべて第二次安倍政権成立前のものである。
その意味で高齢者の就業拡大は、文字通り
政権期間中に結実した結果であると考えるのが
自然だ。
(※ 70歳までの就業機会の確保を
努力義務とする改正は来年度から施行される。)

同様に女性の就業機会の拡大には、
仕事と子育ての両立支援に向けた雇用政策が
効果を持った可能性がある。両立支援のための
育児・介護休業法の改正の施行は2010年であり、
こちらも安倍政権によるものとは考えられず、
まさに結果アピールの機会を政権が享受した
一例と言える。
(※ 育児・介護休業法は、2009年以降、
政権期間中の2016、17年にも改正が行われている。)

(※※ もう一つ安倍政権下での雇用政策では
「生産性上昇」に資するものかが問われることが
増えたのも特徴である。それを労働市場の効率性
改善の契機とみなすか、さまざま理由で生産性を
上げられない(最優先できない)企業や人々の
切り捨てとみなすかは、雇用政策の役割や意義
として議論の分かれるところに思う。)

第三の理由としては、
政策とは別に
2010年代になり
人口減少と高齢化という長期的な
人口変動の影響を見ることも可能である。

2012年から19年には
若年人口は本格的な減少モードに突入した。
2011年に人口はピークを迎え、
それ以降なかでも25~39歳は
461万人もの大幅な減少を記録した。

この若年人口そのものの減少が
それまで数々の制約下にあった
女性の就業にとってチャンスに
なったことは大いに考えられる。
若年女性の貢献なくしては
仕事がはっきりと回らなくなったのが
2010年代だった。

65歳以上の高齢者人口も
2011年以降615万人と大きく増えたが
そのなかには健康で働く希望を持った
人々は少なくなかっただろう。
これらの就業可能な高齢者が
非正規雇用を中心とした求人拡大の
大きな受け皿となってきた。

2014年以降は、非正規雇用のみでなく
正規雇用も増大していったが、
そこには多くの企業の業績改善と
あわせて人口減少が見込まれるなかで
人材を確保したいという企業の意図も
少なくなかったように思う。

これらの、以前から指摘されてきた
人口変動が2010年代に本格化したことは
結果的に就業増加につながった面もあり、
それらの影響は人為的な政策とは一線を
画すかたちで評価されるべきものであろう。

最後に第四の理由として、
収入の不足と将来の不安の強まったことが特に、
生活の苦しい人々が働かざる得ない状況を作り出し、
それが結果的に就業増加につながった
可能性もある。

就業機会は正規雇用についても拡大したが
拡大ペースは非正規雇用のほうが
いくぶん大きかった。特に
就業拡大に寄与した女性や高齢者の場合、
非正規雇用への就業がかなりの部分を占めた。

就職氷河期世代など
年齢の若い女性は
十分な世帯収入がないことが
就業を選択する主な理由な一つだったと
考えられ、
高齢者についても、
十分な貯金もなく、
年金だけで今後生活することに
不安を感じたことから
働ける限り働くことを
選択したというのが多くの実情だろう。
(※ その状況は、ブルース・ホーンズビーの
名曲 The Way It Isの歌詞を彷彿とさせる。
https://www.youtube.com/watch?v=GlRQjzltaMQ
http://neverendingmusic.blog.jp/archives/19576530.html

『危機対応の社会科学(下)』において
大沢真理さんは、安倍政権下での
税・社会保障制度が
高所得層や専業主婦世帯を優遇し、一方で
共働きやシングルマザーなどを罰するかたちで
逆機能していたことを、データを踏まえて厳しく
批判している。詳しくは下記を参照。
http://www.utp.or.jp/book/b481716.html

生活の苦しい人々が安心・安全に暮らせなくなった
結果として、
働かなければやっていけない状況
働いても働いてもラクにならない状況
をさらに作り出したのならば
それを政権の成果と主張することを
国民がどのように受け取っているかは、
関係者はよくよく考えるべきだろう。

広く一般論としても、
誰かが誰かの仕事を作った(作ってあげた)
というのは、
(問われたからそう答えた限りと言われる
かもしれないが)
くれぐれも慎重であるべきと
改めて思った。

全国就業実態パネル調査2020臨時追跡調査

本日、株式会社リクルートが
「緊急事態宣言下で人々の働き方はどう変化していたのか」
(全国就業実態パネル調査2020 臨時追跡調査)
を発表。
https://www.recruit.co.jp/newsroom/2020/0827_18794.html

リクルートワークス研究所が
継続して実施している全国就業実態パネル調査の
回答者(2019年時点就業者・20~60歳)の約1万人から
緊急事態宣言下にあって
どのように働いていたのかを緊急調査したものだ。

その結果からは、これまで明らかになってこなかった
さまざまな状況が垣間見られて興味深い。

なかでもまず特筆すべきは、
やはりテレワークの実態だろう。

感染症の影響を受けて職場からテレワークを
推奨された人は15.7%だという。
この数字は、必ずしも高いとは
いえないように思う。
緊急事態宣言の期間が
長かった7都府県に限っても
21.7%にとどまる。

そのなかで
職場からの推奨の有無にかかわらず
週1日でも終日テレワーク勤務
をしていた人は
約4人に1人弱にのぼったが
(昨年12月時点では10人に1人弱)、
76.9%はまったくしなかったという。

さらにテレワークをしなかった理由をたずねると、
58.2%が職場でテレワークが認められていなかった。
正社員でも60.1%が認められていない。

対面形式の業務の多い職場では
テレワークに消極的であることは予想されるが
たとえば情報通信業ですら42.8%が認められていない。
情報通信業は、過半数がなんらかのテレワーク勤務を
していた唯一の産業だが、それでも多くがこれまで
同様通勤していたのである。

そう考えると、
緊急事態にあっても
全体的にみれば
テレワークは思うほどには
活用されていなかった、
活用されていたとしても
実のところ一部にすぎなかった
というのが
正確な実態かもしれない。

調査では
昨年12月と比べた生産性の自己評価なども
示されているが、
全体的に生産性は低下したという割合は
上昇したという割合よりも高くなっている。
ただそこには、仕事の仕方の問題よりも
業績そのものの悪化の影響も無視できない。

テレワークがまったくなかった人々よりも
テレワークの週4日以上を行っていた人のほうが
生産性が上昇したという割合は高く、確かに
一部の人にとってテレワークが生産性を上げる
ことに寄与しているようにはみえる。

ただし、テレワークをしている人であっても
生産性は低下したと回答した割合が、
日数にかかわらず
3割から4割にのぼっており、
テレワークをしなかった人で生産性が
下がったという約2割よりもむしろ多い。
テレワークによって
これまで以上に仕事がはかどった
という実感を持っている人は少ないようだ。

緊急事態宣言の解除後にも
テレワークの推奨が継続
しているという割合も15.4%にとどまる。
大学などは推奨の継続に属すると思うが
(学習・教育支援業は情報通信業に次いで
テレワーク勤務は多かった)、それでも
それは全体からみると少数派だ。

今回の調査結果をざっと見る限り、
感染症の緊急事態をきっかけに、
日本ではテレワークによる仕事が一気に主流になった
というところまでは、どうやら言えそうもないように思える。

おそらくは感染症の広がる以前に
テレワークを既に導入していたか、
少なくとも導入の検討を開始していたところでしか、
緊急事態での適用は難しかったのではないか。
制度は急にはつくれない。

全国就業実態パネル調査は、
追跡調査であるため、
今回の調査対象者の
過去および今後の状況も知ることができる。

緊急事態で過去にどのような状況にあった人々が
円滑にテレワークを導入できたかや、
テレワークの経験がどのような長期的な効果
につながるのか等、
これからも注目すべき点だろう。

 

 

 

 

2020年4-6月期の労働市場(3)

感染症の拡大に伴い、
多くの就業機会、
なかでも雇用機会が
失われた。

それでも就業者数の
減少を一定程度
くい止めていた背景には
大量の休業者の存在と
短時間勤務への一斉シフトが
あった。

では、このうち
非常事態への対応として
休業と短時間勤務は
それぞれどの程度
機能していたのだろうか。

詳細集計の公表結果のなかには
「この1週間に就業時間が
35時間未満の人はその理由を
記入してください」という問いへの
回答として、短時間就業の理由が
含まれている。
選択肢には
「もともと週35時間未満の仕事」や
休暇、出産・育児、介護・看護などのためのなど
「自分や家族の都合のため」に加えて、
景気の悪化などの
「勤め先や事業の都合」による
短時間就業が設けられている。

言うまでもなく感染症拡大や
緊急事態宣言を受けた
会社の判断による
事業の停止や縮減に伴う
短時間就業の実施は、
このうちの
勤め先や事業の都合による
短時間就業に相当する。

実際、週0~34時間の短時間就業者のうち、
勤め先や事業の都合(会社都合)によるものは
2020年第2四半期では
699万人に及んだ。
この期間、完全失業者数が
200万弱だったことと比べても
その数はきわめて大きい。

また会社都合の短時間就業者は
2020年第1四半期には278万人であり、
前期に比べて421万人もの
急増を記録した。
2019年第2四半期である前年同期と
比べても375万人増加している。

詳細集計にある
仕事からの年収との関係でみると、
会社都合の短時間就業699万人のうち、
約6割は年収300万円未満の人々だった。

さらに短時間就業の理由が
勤め先や事業の都合によるもののうち、
仕事を休んでおり、
週末1週間の就業時間が0時間だった
「休業者」と、
1週間の就業時間が1~34時間の
「短時間従業者」に区分し、
それぞれの構成を見てみた。

すると
前期からの421万人の増加のうち、
休業者の増加は128万人だったのに対し、
短時間従業者は293万人増えていた。
つまり会社都合による就業時間調整は
約7割(69.6%)が短時間従業によって
約3割(30.4%)が休業によって
実施されていたことがわかる。

対前年同期からの375万人の増加についても、
61.6%の231万人が短時間従業であり、
38.4%の144万人が休業によるものだった。

ここからは報道などでも
数多く注目された
一切勤務時間のない
休業者の増加に加え、
もしくはそれ以上に
就業はするけれども就業時間を
削減する短時間従業が
主な調整手段として活用されていたことが
見て取れる。

今後も緊急事態による
操業の停止や短縮を
行わざるを得なくなった場合、
第2四半期と同様に
短時間従業への一斉シフトが
可能であるかどうかが、
雇用悪化の程度を抑えるためにも
重要になる。

そのためにも
どのような状況で短時間就業を一斉に
実施するかを、予め労使でしっかりと
対話とそれに基づく準備を進めておくことが
望ましいだろう。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/08/03

ただ、短時間での従業が雇用調整として
大きかったとしても、
それでも休業の増加が果たした
役割の大きさも無論無視できない。
休業の理由が会社や事業の都合だった割合は
2019年第2四半期では9.5%、
2020年第1四半期では13.5%だった。
それが2020年第2四半期には38.7%と
やはり突出して増加していたことが確認できる。

今後春先と同様の事態が
生じた場合に
休業による対応がどの程度
実施されるかも
急速な就業機会の悪化の程度を
左右することになる。

2020年4-6月期の労働市場(2)

2020年1-3月期(第1四半期)について
考えた際、
フリーランスにも
注目してみた。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/05/16

今回も、
フリーランスに
最も近いと思われる統計として
非農林業の雇人のいない自営業主(雇無業主)
の動向を見てみる。

結論的には、
4-6月期(第2四半期)には
第1四半期とは
対照的な結果が生じている。

緊急事態宣言が
発出される前の
第1四半期には
非農林業・雇無業主は
前期や前年同期と比べても
減少していた。ところが
第2四半期には
前期(第1四半期)に比べて36万人
前年同期(2019年第2四半期)に比べて26万人と
比較的大きく増加していた。

また第1四半期では
そのなかでも前期よりも
増加しているのは
既婚・世帯主・大学卒・高年収層
の雇無業主であり、
それ以外は減少しているなど、
フリーランスの二極化傾向が
前回の詳細集計からは示唆された。

それが今回の詳細集計
の結果をみると、
状況は2020年第1四半期とは
かなり状況は異なっている。
増加しているのはむしろ
未婚・単身者・大学卒以外・低年収層(※)
の雇無業主のほうが、
前期に比べると増加傾向が表れている。

※ 年収は農林業を含む産業計。増えている
のは、もっぱら年収100万円未となっている。

その結果は、
基本集計でみたように
4月以降、雇用者数が減少する一方で
自営業者数は増加する傾向にあることとも
整合的であるようにもみえる。
ただ一方で、基本集計からは
自営業が増加しているのは主に
比較的年齢の若い専門職の女性である
傾向が示唆されており、今回の詳細集計とは
若干様相が異なっているようにもみえる。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/08/01

以上からすると、
フリーランスを含む
雇人無の自営業については
感染拡大以降、増加傾向にあるのは
どうやら事実といえそうである。

だが、その内実については
属性別に分類すると
その規模は
多くても数十万程度に
限られることなどもあって、
確定的な事実(スタイライズド・ファクト)
と呼べるような共通見解を
見出すのは現段階ではまだ
難しいようだ。

感染症拡大後の
フリーランス的な働き方の増加が
テレワークなども活用した
持続的もしくは副次的な
新たな収入機会の拡大を意味するのか。

それとも就業機会を失った
非正規で働いていた人々などが
臨時の収入を得るために
雇用によらずに緊急的に働いているのか。

いずれが妥当であるか、
もしくはその両方が同時並行で
進んでいるのかを
明らかにできるのは、
今後の統計の結果次第ということになる。

2020年4-6月期の労働市場(1)

本日、
総務省統計局「労働力調査」
2020年4-6月期(第2四半期)の
詳細集計の結果が公表された。

詳細集計からは、
毎月の基本集計からは
把握できなかった事実も確認できる。

たとえば正規・非正規別の
雇用形態別の動向は、
基本集計の場合、
現在と比較可能なのは
2013年1月以降である。
それに対し詳細集計では、
2002年第1四半期からの比較が
可能となる。

2020年第2四半期の
非正規の職員・従業員は
2036万人と
感染拡大前だった
前期より117万人
前年同期より88万人
と大きく減少した。

非正規の前期比117万人減は
リーマンショックのもとにあり、
日比谷公園での日雇派遣村などが
話題となった
2008年第4四半期から
2009年第1四半期にかけての
97万人減を
上回る深刻な状況となっている。

非正規雇用は
昨年第3四半期が
過去最多の
2189万人を記録したために
前年比で比べた場合
今後非正規の深刻化が進むのは
必至だろう。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/08/02

年齢階層別にみると
就職氷河期世代を含む
35~44歳について
非正規雇用が前年同期に比べて
31万人減少と
状況はより深刻である。

また非正規雇用のうち、
15~24歳の在学中アルバイト・パートは
2019年第4四半期に過去最多の
203万人に達していた。
それが緊急事態宣言の出された
2020年第2四半期には
157万人になり、
46万人の大幅な減少も記録している。

ただ非正規雇用の動向と並んで
今回の詳細集計から
改めて印象深いのは
感染症が拡大した
2020年第2四半期にあっても、
正社員数はいまだ
増加傾向のなかに
あったことだろう。
https://app.box.com/s/a7zmywc6v25jxiz6nfcd1ig6pffbnvor

正社員数は
2002年第2四半期に
3529万人を記録した後、
すう勢的に減少傾向を続けてきた。
それが2014年第1四半期に
3232万人と底を打つと、
反転して増加傾向を続けてきた。
そして2020年4-6月期には
3543万人とV字回復し、
2002年以降では過去最多(※)と
なっていたのである。

※ 基本集計では2020年4月に正社員数は
2013年以降最多を記録し、6月にもほぼ同水準を
維持していた。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/08/02

正規・非正規の問題といえば
雇用者のうち今や非正規が
約4割(かつては3割といった)
を占めるという「比率」
に長く注目が集まってきた。

その比率の長期的な高まりには
非正規の増加があるのは事実だが、
同時にそれは、
正規が減っていた時期と
正規が増えていた時期では
持つ意味が違っている。

個人(ミクロ)の就業選択から考えれば、
前者の状況では正社員となるチャンスが
縮減していることになるが、後者では
正規と非正規の両方の選択肢が広がっている
という解釈も可能だ。2014年を境に状況は
前者から後者へと移行している。

また経済全体の生産活動に与えるマクロ的影響
を考えると、比率も大事ではあるが
(賃金差、つまりは相対的な価値への影響など)、
むしろそれよりは、活動の生産要素となる
それぞれの「絶対数」こそが重要になる。

非正規雇用が大きく減少を続けることは
当然生産活動を停滞させるため、
早期の回復が求められるのは間違いない。
さらにその上で経済全体の活動水準が
どの程度維持できるかは、比較可能な統計の範囲内で
今世紀最多の水準まで回復していた正規雇用者数
の動向が、必ずやカギを握ることになる。

正規雇用が増え続けてきた背景には、
人手不足の基調が長期的に予想されるなかで
会社にとって欠かせない従業員を
確保したいという意図が大きかった。
現在、正規雇用者数が増えているのは
どちらかといえば相対的に年齢の高い層だ
(一方、氷河期世代を含む35~44歳では
前年同期より正社員も25万人減少)。
女性の正社員数も、2014年までは横ばい
だったのが、その後は着実に増加してきた。

長期的な見通しに基づく正社員への
企業の需要が、感染拡大の中で
どれだけ下方修正されたのか、
それとも変更は限定的なのか。

非正規雇用の深刻化への対応と併せて
正規雇用の拡大という長期的な流れを
感染症の広がるなかであっても
どの程度保持できるかが、
今後の日本経済の行方を大きく左右するだろう。