2020年6月の労働市場(4)

4月に感染症が
急速に広がり、
緊急事態宣言が
発出された際、
就業者は大きく減少したが、
それでも失業者があふれ出す
ような事態まではなんとか
回避されてきた。

そのマクロ的な背景として
4月に生じた
次の3つの大きな変化を
これまで繰り返し
指摘してきた。
(1)非労働力人口の増加(働き止め)
(2)休業者の増加
(3)短時間就業へのシフト

このうち(1)については
5月、6月と徐々に働き止めが
解消に向かっていることを
述べた。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/07/31

同様に(2)(3)についても
6月の段階で既に
緊急事態宣言が発出される直前の
状況へと
早くも元に戻っていると
おおむね言えそうだ。

4月に休業者は597万人、
就業者全体の9.0%と
未曽有の増加をみせた。
それが5月に423万人(6.4%)
まで減少した後、
6月には236万人(3.5%)と、
3月の249万人(3.7%)の水準に
復帰している。

同様の傾向は、
正規、非正規の雇用形態の違いに
かかわらずみられる。

休業要請などで
事業の停止や縮小を余儀なく
されることの特に多かった
宿泊業・飲食サービス業では
4月に休業者が105万人にのぼったが、
5月の79万人を経て、6月には28万人まで
減少するなど、晴れての事業再起動への
期待は高まっていた。

それが7月以降に期待通りの状況に
ならなくなっている場合、事業の閉鎖など
4月以上に深刻な選択に迫られるなど、
今度は一時的な休業の増加では乗り切れない
ことも大いに考えられる。

年齢別の雇用者では、
15~24歳の若者と65歳以上の高齢者で
4月には休業率が特に高くなっていた。
また女性では、20代後半から30代など
でも休業率は高かった。しかし
これらの休業率も、ほぼ3月の水準に
戻りつつある。

こちらも感染が7月になって
新規の陽性判明者が急増するなか、
先行きの見通しが立てられなくなったことで
就業状態を維持したまま休業するのではなく、
今度は就業機会そのものをどの程度が
失うことになっているかが、気になるところだ。

(3)の短時間就業のシフトにも
元の状態への復帰が統計から
確認できる。

休業せず仕事をしている従業者のうち、
週1~34時間勤務だった人々は
4月には2688万人(実数)に達し、
3月の1801万人から
887万人も増えていた。
それも5月には1865万人まで減少し、
さらに6月には1806万人と、
ほぼ3月の水準まで戻っている。

このような短時間の変化は、
週35時間以上勤務の動きと
表裏一体の関係にあった。
週35時間以上勤務者は
4月には2621万人(実数)と、
3月の3910万人から
1289万人も減っていた。
それも5月には3604万人まで増え、
さらに6月には3833万人と、
3月の水準まで近づきつつある。

ただし、今回をきっかけに
働き方改革で求められてきた
短時間就業へのシフトが
一部の正社員などで
定着する動きもあるかもしれない。
正社員の6月の月間平均就業時間は
179.8時間と
前年の6月よりも
3.7時間短くなっている。

フルタイムから
短時間就業へのシフトは
もっとも実践的な調整手段として
4月の緊急事態の難局では
雇用維持の効果を大いに
発揮した。しかしこちらに
ついても今後ふたたび
休業などの事態に迫られた場合に
同様の効果が発揮されるかは
不透明である。

特に4月の場合、
大型連休との兼ね合いなどから
短時間就業にシフトすることは
働き手にとってもさほど抵抗も
なかったように思う。それがまた
別の月で緊急事態が生じた場合、
同様の調整がすぐに実施可能かどうかは
わからない。

4月の緊急事態の際には、
一斉の休業や短時間就業へのシフトが
雇用維持のために機能したが
今後の同様の事態が生じたときに備えて
今から労使で緊急事態の調整手段について
よく議論し、意見を共有しておくことも
大切だろう。

東日本大震災の際、
復興がすみやかに進むかどうかは、
震災前にどれだけの取り組みが行われていたかに
かかっている
といったことをよく聞いた記憶がある。
それだけ事態が起こってからでは
できることも限られてくることを意味している。

それは震災などの
自然災害についての
教訓だけでなく、
感染症が広がるなかでの
雇用の維持や創出のためにも
十分あてはまるものだと思う。