2020年7月の労働市場(5)

昨日は
第二次安倍政権の期間に
ほぼ相当する2013年から
2019年の過去平均と比較により
感染症拡大前後の労働市場の特徴を見た。

アイデアは、天気予報の「平年」との比較だ。
平年は過去30年くらいとの比較とのことなので
せっかくなので、こちらでも過去30年と比較
してみることにした。具体的には1990年から
2019年の月次平均ということになり、
ほぼ平成との時代と比較という意味にもなる。

結果が、こちら。
https://app.box.com/s/j2q09r8buuwv025qw5pn7l4y9d2xh1ph
ちなみに前回みた正規雇用、非正規雇用の月次データは
過去30年分は得られないため、
ここでは男女別の就業者数を見ることにした。
そこからは、なかなかに印象深い結果が表れた。

バブル経済の崩壊後、
「失われた20年」という言葉に象徴されるような
持続的な不況が平成の時代の長きを覆った。

その時代の平均と比べると、
感染症拡大前の2020年1月の就業者数は
369万人も多くなっていた。令和は
就業面に限れば好スタートを切っていた。

就業者の拡大を支えたのは、なんといっても女性だ。
男性雇用者も、過去30年平均に比べて121万人増えたが、
女性雇用者は、実に505万人も増えていたのである。

失業率が5%台に達することもあった平成の頃の
平均に比べると、完全失業者数は87万人も少ない。
労働力参加の進展もあって、非労働力人口も
29万人減っていた。

ところが感染が拡大した2020年4月では、
就業者数や雇用者数(特に女性)の過去30年
との差は一気に圧縮される。30年の蓄積の多くが
一瞬のうちに吹き飛んだかたちだ。
非労働力人口に至っては、
「働き止め」の広がりの影響もあって
過去の平均よりも111万人も多くなり、労働参加に
急ブレーキがかかっていたことは、このような比較
からも明確に確認できる。

最新の2020年7月でも、
就業者数や雇用者数は過去30年の差は
4月時点と大きく変わっておらず、その意味で
就業動向は概ね横ばいを続けている。

一方で、完全失業者数は30年の差が縮小を続け、
平成の厳しい就職難の再来が忍び寄っている
ようにも見え、不気味ではある。
非労働力人口も、依然として過去30年の平均を
上回っており、全般的な労働参加の再開とまでは
いえない状況にある。

労働市場の動向も
常に多面的に確認する必要があること、
さらには短期的な比較だけではなく、
長期的な比較の観点も持たなければならないことを
今回改めて確認した。

 

 

2020年7月の労働市場(4)

すっかり暑さも遠のき、
朝昼晩と涼しくなった。
猛暑のニュースもすっかり
過去のようだ。

気温がグングン上がっていたときには
それを示すために「前日に比べて」
という比較がよくされていた。
またそれと並んで、
今年の猛暑がいかに特別なものかを
表すために
「過去何年かの同じ日と比べて」
とか
「平年の同じ日の平均気温は」
などのような情報も流れていた。

今年の感染拡大後の労働市場の状況についても
対前年同月というのがよく指標として
取り上げられているが、
もしその前年自体が特殊な一年だと
そちらの影響を強く受けることにもなる。
実際、2019年は就業状況がかつてないほど
高水準で推移した特殊な年でもあった。

そこで労働市場についても
過去数年との平均状況と比較してみることにした。
具体的には、第2次安倍内閣の期間にほぼ重なり、
かつ労働力調査の調査内容が一部で変更された
2013年から2019年の過去7年間の
各月の平均水準との比較を
主要指標に関して行ってみた。
(※ ちなみに天気予報の「平年」は過去30年くらいの
平均なのだそう)

その結果が、こちら。
https://app.box.com/s/ygkytnhygfbj0hcv2ohm60kiq3muq3tp

まず就業者については
感染拡大前の2020年1月は
2013年から19年の1月平均に比べて
267万人も多い6687万人の水準にあった
(原数値、以下同様)。
それが緊急事態宣言が発出された
2020年4月になると就業者数は
6628万人となり、過去平均との差も
150万人まで縮小する。
直近の2020年7月には平均より145万人増の
6655万人と、感染拡大後は今のところ
ほぼ横ばいを保っている。

このように感染拡大後も就業者数が
思いのほか安定的に推移しているのは、
正規雇用に主な原因がある。
感染拡大前後を通じて正規雇用者数に
目に見える減少はみられず、さらに
実数のみならず、過去平均との差も
感染前よりもむしろ拡大している。
正社員は感染にもかかわらず
今のところ全体的には
ほぼ盤石なのである。

それに対し、非正規雇用には明らかな
翳りが見られ始めている。第2次安倍内閣では
就業増大は非正規雇用に集中したという批判がある。
実際、2020年1月に非正規雇用は2149万人と
過去7年の1月の平均に比べて
128万人も増加していたのは事実である。

ところが2020年4月になると非正規雇用は
2019万人まで減少、過去平均との差も
32万人と、100万人近く急速に減少する。
それが7月には平均との差がさらに
19万人まで縮小している。7年にわたる
非正規雇用拡大のボーナス(特典)は、
感染拡大により、ほぼ消失しつつある。

同様に完全失業者も
今年1月は過去7年に比べて
52万人少ない159万人になるなど
アベノミクスの産物として
明らかに失業は抑制されていた。
ところが直近の7月には197万人となり、
平均との差10万人と、ほぼ消失しかけている。

感染拡大後も現時点では
正社員の就業機会は保たれている反面、
非正規や失業者の不安は高まっており、
格差が深刻になり始めたところで
新内閣はスタートしたことになる。
これは早晩大きな課題になるだろう。

また人口減少による
労働力不足という長期的な課題に対しては、
非労働力人口がすう勢的に減少することで
労働参加の拡大による対応が着実に進んできた。
今年1月には、非労働力人口は
過去7年に比べて236万人も少ない4233万人まで
縮減していた。

それが4月になると過去との差が139万人まで
圧縮される。その背景には、これまで再三
してきた高齢者や幼い子どもを持つ母親などが
働くことを断念する「働き止め」が働いていた。
7月にも過去7年との差は160万人にとどまっており、
働き止めの影響は完全には解消されていない。
その意味では「一億総活躍」というキャッチフレーズ
にもブレーキがかかり、全体的な労働参加には
足踏みがなお続いたままの状態でもある。

来週10月2日は、8月の労働市場の結果が公表される。
発表後は、過去の平均との比較も行ってみたい。

 

新卒者採用内定取り消し等の状況

昨日午後、
厚生労働省が取りまとめた
令和元年(2019年)度卒の新卒採用内定者の
取り消し状況が公表された。
https://www.mhlw.go.jp/content/000672051.pdf

それによると
内定取り消しとなった学生・生徒数は
174名にのぼり、なかでも104名が
感染による影響と考えられるという。
事業所数では、内定取り消しは
76事業所にのぼるとされる。

内定取り消し者数は
未だ深刻な人手不足で新規求人の堅調だった
前年度には同調査で35人にとどまったため、
報道では昨年から5倍の増加という数字が
強調されている。

ただしそこには別の見方も考えられる。

近年もっとも内定取り消しが深刻だったのは
リーマンショックの影響が直撃した
平成20年(2008年)度卒であり、
その数は実に2143名、447事業所に及んだ。

その当時に比べると、内定取り消し者数は今回
12分の1程度であり、取り消し事業所数も
およそ6分の1程度にとどまったともいえる。

東日本大震災の際も内定取り消しが
598名、196事業所あったことと比べても
今回は取り消しは思いの外少なかったと
いえるのではないか。

また入職時期が繰り下げとなった学生・生徒も
当初1210名に達したが、8月末時点では1184名と
大部分が入職済みとなっている。

無論、取り消しにあったり、いまだ入職できない
新卒者に対しては万全の対策が求められるものの、
それでもかなりの事業所が内定取り消しを行わず、
雇用を確保しているというのが、現状の正当な
評価であるように思う。

だとすれば、その背景には何があったのだろうか。

今回早々に特例措置が行われた雇用調整助成金では
新卒内定者を含む雇用期間6ヶ月未満の労働者の休業も
助成の対象とされた。そのことは新卒者の雇用確保に
繋がった可能性がある。

またリーマンショックの際には、世界的な規模で
金融システムの崩壊すら懸念され、システムの
再構築には大がかりな見直しが求められるなど、
深刻な不況が比較的長期に続くという見通しは
強かったと思われる。
実際、就業者数の減少傾向は、
途中、東日本大震災を挟み、2012年一杯まで、
4年に渡って続くことになった。
(※ 正社員に限れば減少傾向は
2014年初頭まで続いた。)

それに対し、今回は感染症の一気の拡大は衝撃的だった
ものの、1、2年後にはワクチンや治療薬の開発も期待されるなど、
企業による先行き悪化の見通しは、比較的短期に限られた面も
大きかったのかもしれない。新卒の正社員採用などは、短期的な
見通しよりも、長期的な見通しにより強く左右されるため、
人口減少による慢性的な人手不足懸念も重なり、
取り消しを踏みとどまる企業努力につながった面もある。

さらにいえば、2010年代を通じて、企業による法令遵守の
コンプライアンス意識が浸透したことが、強く機能した
ことも考えられる。

新卒採用は、内定の時点で一般に労働契約が成立すると
判例でも考えられており、企業による一方的な理由による
取り消しは、法律上認められていない。取り消しには
合理的な理由が存在し、社会通念上も相当であることが
要求される。

もし著しく法律に違反した場合など、内定取り消しへの
対応が十分でない企業は、企業名が公表されることにもなっており、
実際今回も公表に至った取り消し企業もある。

SNSなどの発達もあり、内定取り消しは、今後の新卒学生にも
その情報が瞬時に伝わるなど、将来にわたって人材の確保を
難しくする懸念は、企業の人事部などは依然にもまして強く
抱くようになっているだろう。そう考えると、一時的に大規模な
業績悪化があったとしても、内部留保や新規借入を活用するなど
様々な手段を用いて、内定取り消しを阻止することは、
高い優先順位で取り組んでいることが予想される。

これらの他にも理由は考えられるであろうし、新規求人が
減少していることはまぎれもない事実のため、令和2年度卒
の学生は、内定を得るのがより困難な状況にさらされる可能性
も少なくない。その結果、就職活動そのものを諦め、ニート
状態に陥る若者が大量に発生しないよう、
ハローワーク、学校、地域サポートステーションの連携を
より緊密にするなど、十分な対策を今から講じておくことが
必要だろう。

 

2020年7月の労働市場(3)

今回の労働力調査によれば、
6月時点で
就業者全体の約5%に相当する
340万人いた
宿泊業、飲食サービス業で
働いていた人々のうち、
7月時点では
18万人(約5%)が
同業から離れている。

そのうち
10万人が
仕事をしていない
完全失業者もしくは非労働力人口
となっている。

*

今日の一曲。
https://www.youtube.com/watch?v=EqPtz5qN7HM

2020年7月の労働市場(2)

今回も
総務省統計局「労働力調査」から
前月から今月にかけての移動状況を
見ておく。

6月の就業者のうち、
7月は完全失業者または非労働力人口に
移行した割合は1.6%と、
5月から6月の1.4%、4月から5月の1.6%
とほぼ変わりなく安定していた。
就業者を非正規雇用に限っても
3%前後とほぼ変わらない。

6月に非正規雇用だった人々のうち、
7月には内部昇進や転職などによって
正規雇用になった割合は
今月も3.0%と、
前回の3.3%、前回の2.8%と
同程度であった
(数にすれば50~60万人程度が今も
毎月非正規から正規に移行している計算になる)。

6月に完全失業者だった人々のうち、
7月に就業者に移行したのは
13.6%に達し、
前回の11.5%、前々回の11.7%よりも
持ち直し気味に推移している。

昨日の夕刊などでも
「雇用悪化続く」という文字をみかけたが
見方を変えると、経済全体では
驚くほど4月以降の就業動向は安定している
といえる面が少なくないことは指摘しておきたい。

同時に、働き止めで非労働力化した人々が
就業に復帰する動きも段々と収束しつつある。
6月の非労働力人口のうち
7月に就業者となったのは1.9%であり、
前回調査の2.3%、前々回の2.4%から
ゆるやかに縮小が続いている。

ただし、休業者については、
ほぼ感染拡大前の水準に戻ったが
従業者に復帰する割合は徐々に
減り始め、失業もしくは非労働力の
無業状態に移行する割合が増えている
ことには要注意だろう。
具体的には
4月から5月には6.6%だったのが
5月から6月には7.2%に上昇、
6月から7月にかけては
12.5%へと跳ね上がっている。

感染拡大後、休業を続けていた人のうち
どうにも仕事を再開できなかった人々が
7月に来て仕事を失う状況が強まっている
のもまた事実である。

就業全体は比較的落ち着きを見せるなかで、
これまで休業していた人々に対しての
支援が急がれる。

全体でみれば安定していることと
そのなかで一部の人々が
たいへんな思いをしていることは
矛盾しない。