毎月、労働力調査が発表されると、自営業の動向にも注目してきた。特に感染が急拡大した4月以降、自営業主数に一定期間、拡大傾向もみられた。それまで長期的に減少が続いてきた自営業にとって、感染後のオンラインでの受注増加などがかえって追い風となっている可能性もあった。
ただ先月、今月をみると、自営業主数は減少が明確になっており、前年平均割れが2か月続いた。2020年の年平均も、前年を下回る可能性が出てきた。結局、追い風は一時的だったということになるかもしれない。
ただ、リーマンショックで派遣労働者の過酷な状況のように、今回は制度の整備もこれからだったフリーランスが深刻な影響を受け、総崩れになることも考えられた。それに比べると、フリーランスを含む自営業が踏みとどまり、健闘してきたのも事実といえる。その理由や背景については、今後じっくりと検証するつもりだ。
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2020年11月の労働市場(3)
今月も産業別に過去7年平均との比較を確認。すると過去7年に比べた減少幅が大きかったのは、次のとおりとなった。カッコ内は先月の数値。
宿泊業、飲食サービス業 14万人減(1万人増)
複合サービス事業 5万人減(6万人減)
建設業 3万人減(7万人減)
製造業 3万人減(5万人減)
運輸業、郵便業 3万人減(9万人増)
減少幅としては、宿泊・飲食業などが突出して大きくなった。10月には過去7年に比べて1万人増と回復の兆しもみられたが、ふたたび減少に転じることになった。12月には感染の再拡大の影響から営業時間の短縮や移動制限などが求められるなど、さらに厳しさが増していることも予想される。
これまででは6月の過去7年平均に比べた26万人減少が最も大きかったが、それに次ぐ減少となっている。感染の終息が見込めない状況がしばらく続くとすれば、Go Toのトラベルやイートとは別のかたちで、産業を特定した集中的な支援の検討が必要かもしれない。
2020年11月の労働市場(2)
今月も労働市場の主要指標(原数値)を、恒例の過去7年平均と比較してみる。
https://app.box.com/s/9nf4yx5jhwjw4xq6vhnsco0k87kqhbzf
就業者数は6707万人と、今月も増加し、過去7年平均に比べた差(雇用ボーナス)は180万人多く、乖離幅は4月以降、着実に増加している。1年の雇用ボーナスは267万人と多く、その水準には未だ達しないものの、ゆるやかに回復しているとみてまちがいない。
非正規雇用者数は、11月は過去7年平均を62万人上回り、1月の雇用ボーナス128万人の半分程度である。ただ4月の乖離幅だった32万人に比べると、こちらも回復傾向にあるのは確実である。
正規雇用者数になると、11月の雇用ボーナス147万人は、感染前の1月の152万人と、ほぼ完全に回復している。毎回確認しているように、正規雇用者数は全体として感染拡大による影響をほとんど受けていない。
11月の完全失業者数195万人は、過去7年に比べて1万人少なく、ほぼ同水準にある。失業者数は過去に比べて、特に多くもなければ少ないわけでもない。
非労働力人口は、感染拡大後、労働者自身の働き止めの拡大により急増したが、11月は過去7年に比べて216万人少なくなっており、1月の236万人少ない状態に近づきつつある。4月に乖離幅が139万人まで圧縮していたことを考えると、働くことを一時的に断念していた人々の労働市場への復帰も進みつつある。
個別にはいろいろな問題があるのは事実であるにせよ、総体としては労働市場の回復力(レジリエンス)は、高く評価できると考えられる。
2020年11月の労働市場(1)
本日、総務省統計局「労働力調査」厚生労働省「職業安定業務統計」の2020年11月分の集計結果が発表。これから各種報道がなされ、雇用の引き続きの厳しさが指摘されるのかもしれないが、統計を見る限り、就業情勢は確実に回復基調を続けている。
就業者数(季節調整値)は、10月から11月にかけて43万人増加、4月以降、最大の増加幅となった。3月から4月に107万人も急減したが、4月から11月にかけて76万人の増加と、量的にはかなりの就業が回復した計算になる。反対に大きく増加した非労働力人口も、感染拡大前の最低水準だった4158万人に、11月はピタリと並んだ。休業者数も、すでに感染前の状況に戻ったといってよい。
雇用者のうち、正規雇用にも大幅な落ち込みは見られず、非正規雇用者も趨勢的かつ着実な増加傾向が続いている(いずれも原数値)。
来年の雇用情勢はさらに悪化するという見通しからか、雇用調整助成金などの特例措置の延長が、今年12月から来年2月に決まった。延長措置は、丁寧に雇用情勢を見極めた上で「総合的に」判断することになるのだが、少なくとも現在の情勢には「悪化」という言葉は当たらない。
現場の状況を語る「声」と全体像をとらえる「データ」の両方に、それぞれ事実がある。今後、延長が一部の強引な理由などだけで、ずるずると根拠なく引き伸ばされることのないよう、祈るばかりである。
オンライン相談者相談
これまで自立支援や就労支援で、最も大切なものは何かと訊かれた場合、その答えとして「支援者支援」という言葉を繰り返し述べてきた。困難のなかにある人を支援する人を、その周囲がそれぞれのできるかたちで支援するという、重層的な関係の形成が、大切なのだと。支援者支援という言葉は、私が語っていたことを、斎藤環さんが表現してくれたものだ。
これからは、支援者支援という言葉に加えて、「相談者相談」という言葉を述べていきたいと思う。困難の中にある人の言葉に耳を澄まし、相談という対峙を続ける人を、社会全体で支援しなければならない。日々奮闘する相談者自身が無理なく専門家や協力者などに相談できる体制づくりだ。
そこでは、きっとオンラインの活用が決定的な意味を持つ。いま進めるべきは、正確にいえば「オンライン相談者相談」ということになる。本日、厚生労働省が発表した雇用政策研究会報告では、雇用政策のデジタル化が一つの柱として強調されている。ジョブマッチングへのデジタル活用などが紹介されているが、あわせて重要なのは、相談に日々乗り続ける相談者が、過度に疲弊することなく、相談という業務に挑み続けることを支える、オンラインでの相談体制だろう。
相談者は日々忙しく、全国に散らばっているため、頻繁に集まるのは不可能だ。だが、オンラインでつながることで、場所を超えて同じ苦労を続ける人たちとつながり、知識や経験を共有しあえる。キャリアカウンセリングでは、それをピアラーニングというらしいが、そこにオンライン(デジタル)と多彩な専門家による定期的な相談者支援というエッセンスを加えていく。
それはまちがいなく、今後の雇用政策のデジタル化の重要な柱になるだろう。