2020年10月の労働市場(3)

あまり報道などでは注目されていないように思うが、感染拡大後、自営業の動向に注目してきた。というのも、総務省「労働力調査」5月以降、自営業主数が少なくとも2019年平均を上回る状況が続いてきたのだ。長期的に自営業は、まさに右肩下がりの減少を続けていたのが、ここに来て反転の兆しがみられていたのだ。

それが、感染とどのように関係しているのかは、正確にはわからない。雇われて働くのが難しくなり、個人請負のようなかたちで臨時緊急的に働いているのか。オンラインで受注を受けることが広がり、それに見合った自営業の仕事が増えたのか。以前取り上げたように、労働政策研究・研修機構が今年緊急で行った調査でも、感染拡大後も収入は減っていないと答えるフリーランスは、思いのほか、多い状況もみられる。

それが10月になって、5月以降ではじめて前年平均を割り込んだ。原数値ではあるが、自営業主は9月の540万人から523万人と、17万人もの減少が観察された。事業再開などで雇われて働く機会が復活した影響もあるのだろうか。在宅勤務から出勤に戻るケースも多いといわれるが、オンラインでの仕事のやり取りも縮小気味なのだろうか。対前年でみても、5月から8月までは増加だったのが、先月、今月と削減となり、その幅も広がりつつある。

来月以降、自営業主数が連続して減少となれば、感染拡大が自営業復活の起死回生となるという状況は、さらに遠のくのかもしれない。


2020年10月の労働市場(2)

2020年10月についても、過去7年平均と比べたときの就業者数の増減を産業別に計算してみた。

すると、過去7年よりも増えたのは、次のような産業だった(カッコ内は前月9月時点での7年平均との差)。
医療、福祉 67万人(71万人)
学術研究、専門技術・サービス業 24万人(20万人)
その他のサービス業 20万人(17万人)
 感染により以前の仕事を離れた人々が、職業訓練、資格取得、就職活動などの期間を経て、介護などの福祉の仕事に従事する流れが定着しつつあるかもしれない。専門的な技能を持つことは、景気の突然の変動にも強いことも、物語っているのだろう。

さらに宿泊、飲食業は、10月では過去7年より1万人増と、4月以来はじめて増加に転じた。11月の感染の再拡大前だった10月時点では、飲食業などに本格再開の見通しが生まれつつあったのかもしれない。11月以降は、どうなるだろう。卸売、小売業も9月には平均より21万人少なかったが、10月には2万人増加と、同じく感染後はじめて増加となった。

反対に、過去7年より減ったのは、次のとおり。
農業、林業 マイナス15万人(マイナス31万人)
建設業 マイナス7万人(マイナス1万人)
製造業 マイナス5万人(マイナス15万人)
今年は、飲食店からなどの食料品需要が落ち込んだことで、野菜の価格が安値になっていると今朝のニュースでも報道していたが、それも関連してか、農業はかなり厳しい状況となっている。製造業もマイナス幅は縮小しているが、減少傾向は続いている。建設業も、4月以降、マイナスが続いている。建設はあまり注目されてこなかったが、今度の動向にも目を向けるべきだろう。

2020年10月の労働市場(1)

本日、2020年10月分の総務省統計局「労働力調査」、厚生労働省「職業安定業務統計」の集計結果が発表。

失業の持続的な増加が見られ、完全失業者数215万人(原数値)は、過去7年の平均に比べて14万人増と、先月とあわせて2ヵ月連続のプラスとなった。もはや日本は低失業の状況にあるとはいえず、失業対策をより重点的に行う必要が生じているといえる。

一方で、11月以降の感染拡大を前にしてか、失業以外の労働市場全般の動向は、おしなべて大きな変化は観察されていない。好調だった前年との差でみると、非正規雇用は依然として大きく減少しているが、過去7年平均との比較では55万人の増加となるなど、回復の兆しがみられる面もある。

正規雇用は前月若干のかげりがみられたが、今月は全体としてはふたたび安定状態を今のところ保っている。

感染のおそれなどから労働市場から退出する人が増えたことで増加していた非労働力人口も、感染拡大前の水準にほぼ戻りつつある。休業と時間短縮による緊急の雇用調整もほぼ収束したといえる。ただし、非労働力人口については、感染拡大前に明確な強い減少トレンドが存在したことを考えると、感染がなければ労働市場に参画したであろう人々の少なくない部分が未だ働くことを躊躇断念しているともいえなくない。9月に非労働力人口であったのが10月に就業者に転じた人は77万人に達するが、反対に就業者から非労働力人口に転じた人も76万人と、同程度にのぼっている。

11月以降の感染拡大と都市部などの営業短縮などが、雇用がもたらす影響には一定の時間差が考えられるが、職安統計でも新規求人が依然として昨年の90万件台より20万件以上少ないことなどを踏まえると、今後失業がどこまで悪化するかは予断を許さないだろう。

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助成

労働生産性の向上が、これからの社会にとって課題であるらしい。そんななか昨日、雇用問題についてのある研究会で「助成金によって生産性を上げるというのは無理(むずかしい)」といった発言をした。

その真意は、こうだ。本気で生産性を上げたいと思っている会社があったとする。そのためには設備投資なども必要で、資金が足りない。だとすれば、その会社は地域の金融機関などに必死に融資を願い出るだろう。以前と違って資金は潤沢にある金融機関は、優良な融資先を常に求めており、会社に可能性があれば、資金を用立てているはずだからだ。そこに助成金が入り込む余地はない。

助成金目当てに生産性向上というのは、不正の温床になりやすいだけでなく、そもそも動機としてうまくいかない。1990年代の終わりから2000年代はじめごろにかけて、これからはベンチャー企業がたくさん出てくることが日本経済に欠かせないといった話が流行り、そのための助成金政策も試みられた。しかし、それがうまくいったという記憶がまったくない。残っているのは「おカネを与えるだけでは人は独立したり、チャレンジしたりしない。」という印象だけだ。独立のために必要な助成という発想は、いつしか助成を得るために無理な独立をしようとするということになり、結局うまくいかなかった。

では、生産性向上に必要なのは助成金のようなアメではないとすれば、ムチなのだろうか。最低賃金を引き上げることで、中小企業経営にプレッシャーをかけ、生産性向上を促すというのは、ムチの政策だ。ムチ打たれて頑張る企業もあれば、傷つき倒れる企業もあるだろう。前者の数が後者を上回るといった明確な証拠はまだないようだ。

むしろ大事なのは、アメでもムチでもなく、会社の強みや弱みを会社自身がはっきりと自覚し、必要な決断を主体的、能動的に促す情報が手に入ることではないか。今のままでは会社はどうなるのか。また経営者も気づいていなかった会社の真の可能性がどこにあるのか。課題を一つひとつつぶし、会社の真の強みを伸ばすことの自覚と努力が、会社自身にうまれない限り、生産性の向上はないだろう。そんな会社には、資金だけでなく、必要な支援の輪もおのずと生まれてくる。

デジタル化もいわれるが、会社の状況や姿を明らかにする雇用政策にこそ、デジタル化の努力は向けられるべきだと思う。ハローワークなどでの仕事のマッチング対策の強化だけでなく、就業支援の相談充実など、雇用対策のデジタル対応は、今のタイミングを逃せば永遠に周回遅れの状況に陥るだろう。既に一部で着手は始まっているが、雇用政策のデジタル対応が遅れているという批判が高まる前に、いっそう本格化していくべきだ。

アナログの良さをつねづね感じる私ですらそう思う。アナログの成功は、ときにデジタル対応の妨げになる。 個別支援などでも、最初は対面(アナログ)で信頼を形成した上で、その後はオンライン(デジタル)なども活用して無理なく継続するような使い分けが重要になるのだ。経営者にせよ、支援者にせよ、アナログに馴れた人たちも必要に応じて変わっていかなければならない。

今回の感染症拡大に際しては、雇用を維持するために助成金はきわめて重要な役割を果たしたと感じている。一方で、過剰な状態で助成金を続けることは、いつしか会社経営に対して毒になることもある。何かを成し遂げようとすれば、最終的に必要なのは、おカネではなく、状況を打開するための情報や助言なのだと思う、というのが「助成金では生産性は向上しない」で言いたかったことになる。

(プロ野球の日本シリーズで、歴然とした差が付いてしまったのは、資金力だけの問題ではなく、情報を駆使した戦略や体制にあったという説には、深く納得したりした)。

包括

先日、人事担当者の方々から、感染拡大後の対応について、いろいろお話しを聞いた。 そのなかで、こういう状況だからこそ、会社や職場の「一体感」をいかに生み出すかに努力されているといったことが、印象に残った。

仕事や関係の個別化は、今に限られない長期的な流れだが、それでもまさに今こそ、 リモートワークなどの個別を補う包括の取り組みが必要されているのだと思う。そうでなければリモートワークなどによる自由の恩恵は、自分のことは自分ですべて対応できる人たちだけのものになってしまうだろう。

そんなことを考えながら、エッセイを書いた。
https://www.works-i.com/project/coronashock/column/detail005.html

労働者を代表する手段や組織のあるほうが、個別の問題や課題を汲み取りやすく、結果的にリモートワークも進めやすくなるといった内容。 「離脱」だけでなく「発言」が、組織の衰退を食い止めるには重要ということの一例だと考えている。