2020年7-9月期の労働市場(1)

昨日、
総務省統計局「労働力調査」
7-9月期(第3四半期)の
詳細集計の結果が公表された。

第2四半期では
非正規雇用者数が
前年同期に比べて
125万人と大きく減少した。
第3四半期でも、
同じく前年同期に比べて
88万人と大幅な減少が続いている。

ただし、19年7-9月期は
2002年以降、
非正規雇用者数が
過去最多の2189万人を
記録した時期でもあり、
そのときと比較すれば減少傾向と
なるのは、当然といえば当然でもある。
むしろ非正規雇用は
4月の非常事態宣言後は
緩やかに改善傾向に
あるといえるかもしれない。

むしろこれまで再三述べてきたように
感染拡大後も比較的安定的に
推移してきた正規雇用に若干の翳りが
詳細集計からも見て取れる。
今後の動きが注目される。

7月から9月の毎月の基本集計では
年齢別の動きも注目された。
以下、前年同期との比較を中心に確認。

在学中を除く15~24歳では
前期に続き非正規雇用は前年より減少。
在学中のアルバイトも
4-6月期は前年同期より11万人減ったが
7-9月期は23万人と減少幅が広がった。

基本集計では8月から9月にかけて
15~24歳でも正規雇用に停滞傾向も
感じられたが、今回の四半期では
必ずしも明確な衰退はみられない。
こちらも今後の動きが重要だろう。

一部で失業率上昇などの報道もなされた
25~34歳女性については
就業者数、雇用者数とも
対前年同期の減少幅が
7-9月期には4-6月期よりも広がった。

男性も含めて比較的年齢の若い層を中心に、
特にパートやアルバイトなどの非正規雇用は
雇用機会が制限される状況が続いているのは
7-9月期の特徴だろう。

就職氷河期世代を含む35~44歳でも
非正規雇用が対前年より減っているーのは
変わらないが、あわせて正規雇用の減少も
続いている。なかでも男性について、
前年同期より20万人減少は
4-6月期とならんで7-9月期は2期連続となっている。

ただし35~44歳層では、
第二ベビーブーム世代が
2019年には大部分が
40歳代後半に突入するなど
人口の減少そのものも減っているので
その影響も考慮する必要はある。

それより上の年代である高齢層でも
非正規雇用の減少傾向はみられるが
一方で正規雇用は前年同期より
あまり減少していない。
正規雇用で働く機会を得ていた
高齢就業者は先行きの収入不安なども
考慮に入れて、転職や離職に慎重になり、
現在の状態を維持しようと努めているのかもしれない。



『中央公論』2020年12月号

「アベノミクス総括から見える雇用政策の課題 
『最低賃金引き下げ』策の狙いと負のシナリオ」
https://chuokoron.jp/chuokoron/latestissue/

今年は3回も中央公論に書くことになった。
なお、以前にもここで書いたように
題名は自分で決めたものではなく
雑誌の編集部が考えたもの。

雇用面からの前政権の総括と
新政権の課題というお題だったが
今後焦点になりそうということで
最低賃金に関する内容が
クローズアップされたようだ。

隠れテーマは「生産性向上」一辺倒の議論
(12月号の記事にもそのような内容が多数)
へのささやかな懐疑と懸念
といったところか。

書いていたのは
丁度ひと月前の10月上旬。
最新の9月時点の統計が反映できないので
状況が急変しないか、
多少やきもきしたが
正規雇用の雲行きが多少怪しくなっている以外は

今後、最低賃金のあり方を含めて
働き方が良い方向に変わっていくかどうかは、
緩やかな人手不足が
全般的にどれだけ持続するかに
かかっていると考えている、

2020年9月の労働市場(3)

感染症の拡大は
就職氷河期世代にも
深刻な影響を及ぼしてきた。

当初、小さな子どもを持つ
母親である女性が、
学校の一斉休校にあわせるかたちで
子どもや家族のために
就業を断念する傾向が広がっていた。

それが2020年9月までに
有配偶女性の労働力人口比率
などに回復傾向はみられる。
ちょうど学校の再開などにあわせて
女性の就業もふたたび始まっている。

そのなかで35~44歳女性の
正規雇用者数が
2020年9月には286万人と
昨年12月以来の280万人台となった。
20年2月には261万人だったことを考えると
25万人の増加であり、
8月の277万人よりも9万人増と
拡大ペースも強まっている(ただし原数値)。

氷河期世代の元々非正規雇用であった女性の
なかには職場で経験を積み、欠かせない人材として
定着のために正社員転換を目前にしていた人々も
多かった。その動きが着実に回復することが
期待される。

なお、同じ35~44歳でも男性では
労働力人口比率、就業率、正規雇用者数などに
明確な改善傾向がみられていない。

就職氷河期世代支援プログラムの実効性を高めるなど
引き続き支援が求められている。


2020年9月の労働市場(2)

今月も
先月4日と同様、
過去7年の平均と比べた
産業別の就業者数増減を計算してみた。

すると
減少幅が特に大きかったのは
次のようになった。

農業、林業 31万人減
卸売業、小売業 21万人減
製造業 15万人減

今回は農林業の減少が
これまでと比較して突出して
多くなっている。
卸売小売業の減少は先月に
続いて多く、
製造業も大幅な減少となっている。

宿泊業、飲食サービス業は
過去7年に比べると2万人減少と
6月の26万人減と比べれば
かなり落ち着きを見せ始めている。

対照的に、就業者数について
今月急拡大が確認されたのは
医療、福祉業。
過去7年平均より71万人多くなっている。

飲食業などで
心ならずも仕事を失った人々のうち、
福祉の世界などで
がんばりはじめた方々が増えている
のかもしれない。

8月には飲食宿泊業で働いていて
9月に医療福祉に移った就業者は
統計的には観察されないことから
転職をしたとしても一定期間、
職業訓練、資格取得、求職活動
などに相当の努力された上での
決断だったはずだ。

新型コロナウィルス感染症は
まちがいなく多くの職業人生に
影響をおよぼしている。






2020年9月の労働市場(1)

本日朝、
総務省統計局「労働力調査」
厚生労働省「職業安定業務統計」
の2020年9月分の結果が公表。

労働力調査からは
4月の緊急事態宣言以降、
全般的に続いているものの
正規雇用や若年者に今回
気になる動きがみられるなど
新たに注視すべき点も見え隠れする。

4月以降、
季節調整値で見た就業者数は
9月になってはじめて前月より
4万人の減少となった。

その原因は、正社員の伸びが
停滞する兆しがみられることだ。
全体的には長期的な拡大トレンドから
大きくは乖離していないものの
4月以降では最も低水準の雇用者数と
なっている(ただし原数値)。
対照的に非正規雇用は回復傾向が
続いている。

過去7年平均との比較でみても
これまでおおむね安定していた
正社員に9月に入って陰りがみられる。
https://app.box.com/s/nba4azhcqsd03rvzdsnctkqoe40t8bi2

先月に続いて製造業などにも雇用は
厳しい状況が続いており、10月にも
このような状況が続くと
正社員を含む大規模な雇用調整が
始まったと認めざるを得なくなるかもしれない。

また感染拡大後に急増した非労働力人口も
これまで順調に減少し、労働市場への復帰が
着実に進んできた。
それが9月になると久しぶりに反転拡大した。

男女別でみると、女性の非労働力人口が
前月より2万人減少しているのに対し、
男性では10万人も増えている(季節調整値)。
年齢別では15~24歳の非労働力人口が
突出して26万人増加し(原数値)、
その他の年齢層の減少を凌駕している。

若年で非労働力人口(言ってみればニート)
が拡大した理由は今のところ不明だ。
だが、大学などでの授業の本格再開
や飲食などのアルバイト探しの断念なども
一部で関係しているのかもしれない。
全体でも8月にアルバイトをしていて
9月に非労働力となった人々は23万人と多い。

また8月から9月にかけて
15~24歳の正規雇用は
290万人から271万人へと
大きく減少している(ただし原数値)。
春に正社員となったものの、
職場に通うことが制限されたまま
仕事に希望が持てなくなり、
仕事を辞めた若者もそこには含まれる可能性がある。
場合によっては企業が正社員の雇用調整を
若者から始めている可能性もある。

今後若年層の非労働力が失業に移行した
場合にも(現在は顕在化していない)、
雇用情勢の大幅な悪化につながる
可能性もある。

不況の就業への影響を厳しく受けるのが
若年である事実は常に変わらない。
正社員の雇用が難しくなれば
来年卒業予定の学生・生徒の新規採用もおのずと
制限されることになる。
若年雇用の安定化に向けて、
今後の動向を慎重に注視しつつ、
一層の取り組みが必要になるかもしれない。