2020年8月の労働市場(4)

昨日の共同通信の配信のなかで
「若年女性の失業4.7% 最も悪化」 
と題された記事が掲載される。
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6374956


実際、総務省統計局「労働力調査」(2020年8月分)
によれば25~34歳女性の
完全失業率は7月の3.7%から
8月の4.7%(季節調整値)へと大きく上昇している
のは事実。
ただこの結果自体は、
約一か月前に既に公表されていたものなので
なぜこのタイミング?と
少し驚く。

記事では若年女性の失業増加の原因として
{不安定な非正規雇用の割合が高く、就業者が多い
宿泊業・飲食サービス業がコロナ禍の直撃を受けたため
とみられる。」としている。

その見方に著しい異論があるわけではないが、
以前見た通り、過去7年平均との比較した場合、
宿泊・飲食サービスの就業が最も減少して苦しかったのは
今のところ6月頃であって、若干困難のピークを
過ぎているようにもみえる。

一方、女性の就業割合も高く、
全体の就業者数も元々多い
卸売・小売業が過去7年平均に比べて最近
就業者数が大きく落ち込んでいることも、
もしかしたら一部で若年女性の失業増加に
影響しているかもしれない。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/10/04


また7月から8月にかけて
25~34歳女性について
完全失業者数は
19万人から24万人と大きく増えているが
(いずれも季節調整値)
同時に非労働力人口は
122万人から114万人へと大きく減っており
(こちらは原数値)
それまで就業を停止していた若年女性が
本格的に職探しを開始するようになったことで
失業者が増えたと考えても、
つじつまは合う。

また今回の記事に触発されて
改めて統計を見てみると、
15~34歳女性のうち、
7月に完全失業者だった人々で
8月も同じく完全失業者だった人が
30万人と、とても多くなっていた。
それは
6月から7月の16万人、
5月から6月の19万人に
比べてもかなり大きな数字である。

つまりは職探しを始めた若年女性が
なかなか希望する就業先に就くのが
難しくなっていることもまた
失業増加の理由になっている可能性もある。
就業機会が限られている他、
収入面や安全面で慎重に職選びをしている女性に
とって就業確保は容易ではない面もあるのかもしれない。

明日は2020年9月の労働力調査の発表。
引き続き注視していきたい。

https://youga-yougaku.info/purada.html










2020年8月の労働市場(3)

4月以降、
労働力調査の発表をふまえて
フリーランスを含む自営業者
の動向に注目してきた。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/05/16
https://genda-radio.com/archives/date/2020/08/01
https://genda-radio.com/archives/date/2020/08/12

日本では自営業の長期的衰退が
始まって久しく、
1980年以降、
前年より増えた年というのは
ほんの数年にすぎない。

その結果、かつては
1000万人にも近かった
自営業主数は
2019年には500万人
まで縮小していた。

それが感染症拡大以降、
自営業主に持ち直しとも
思われる動きがみられるのだ。

詳細は次のとおり。
https://app.box.com/s/4ezfst9s2xvwmpp74hz77930vrpdrqlg

感染拡大後の
4月から5月にかけて
自営業主数が増えた後、
7月まではやや減少していたが
それでも2019年平均を感染後は
上回り続けている。
それが8月にはさらに拡大へと反転した。

感染によりテレワークが普及し、
そのなかで職場組織に属さない働き方が
社会全体に許容されるようになると
フリーランスで働く独立自営業主にも
一定の社会的需要が生まれる可能性も
あるのかもしれない。

一方で以前には、自営業でも
専門的職業の場合には進展していたとしても
そうでない場合には苦戦を強いられている
二極化も示唆したことがある、

果たしてそれが現在、
どのような状況にあるのかについては、
次回11月10日に発表される
労働力調査・詳細集計による
結果が待たれるところである。

2020年8月の労働市場(2)

総務省統計局「労働力調査」
によれば、
2020年8月には
これまでと同様に
宿泊業、飲食サービス業で
就業状況の悪化が続いているのに加えて、
製造業の悪化も指摘されている。

具体的には
対前年同月に比べて
就業者数は
宿泊・飲食業では28万人減少した一方、
製造業では52万人減少と感染拡大後
最大の減少幅となっている。

製造業の悪化には、
同じく感染拡大で経済活動の停滞が
著しい海外からの受注が大きく減少した
可能性の他、
労働集約的な職場などで
作業密集を避けるための人員調整なども
行われたのかもしれない。

あわせてここでも
過去7年平均との比較を産業別に
行ってみた。
すると、
2020年8月の過去7年との就業者数の
平均差は次のようになった。

卸売業、小売業 マイナス39万人
製造業 マイナス17万人
農業、林業 マイナス12万人
宿泊業、飲食サービス業 マイナス4万人

意外にも過去7年平均との比較では
卸売・小売業の減少幅が最大となっている。
さらに4月以降、同様の計算を行うと
卸小売りの減少幅は毎月拡大を続けている。

感染後の困難として、
収入の減少をあげる声が多いが、
それは消費の停滞へと直結する。
そのことが卸小売の就業への
打撃を強めている可能性がある。

もしかしたら春先や初夏には
例の特別定額給付金の
10万円支給が当時
小売業などの売り上げを
支えていた面もあったのかもしれない。
ただそれはあくまで一時的でも
あったため、現在は売上の低迷と
それに伴う従業員の削減につながっている
ことも考えられる。

一方、注目を集めてきた
宿泊・飲食業では、過去7年との差で
マイナスが最も大きかったのは
6月時点であり、7月、8月と
いくぶん持ち直しつつある。

卸売・小売業は、
製造業とならんで
就業者数が1000万人を超える
最大の就業の受け皿でもある。
その動向にはもっと注目を
していくべきだろうし、
今後悪化が進む場合には、
必要な重点的支援も
検討すべきかもしれない。

2020年8月の労働市場(1)

本日朝、
2020年8月分の
総務省統計局「労働力調査」
厚生労働省「職業安定業務統計」
の集計結果が公表。

8月は、
検査陽性者、要入院治療者、重症者
などが急増するなど、4月に次いで、
感染状況自体は深刻だった。

それに対し、就業情勢は、
引き続き宿泊業、飲食サービス業、
また新たに製造業に深刻な状況が広がる一方、
それでも全体的には感染拡大前の状況へと
緩やかな回復傾向が続いているのが
特徴といえる。

完全失業者数も3年3ヵ月ぶりと久々に
200万人台に達したものの、
求人の緩やかな持ち直しなどもあり、
有効求人倍率は低下しつつも1倍を維持するなど、
少なくとも大規模な雇用崩壊の兆しは
8月時点では見受けられなかった
といってよいだろう。

労働力調査の概要は、
対前年同月比較を含めた原数値や
季節調整値が今月も詳しく
統計局のホームページに記載されている。
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/pdf/gaiyou.pdf

そこでここでは先月にもみたように
https://genda-radio.com/archives/date/2020/09/25
第二次安倍政権の期間とほぼ重なる
2013年から19年の7年間の平均との状況を
比較してみた。
https://app.box.com/s/jzrur1nvtqvd6wt111n19mrszdco7cp2

就業者数全体は、
感染拡大前の今年1月時点近くまで
回復し、過去7年平均との比較でも
160万人の拡大を維持している。

正規雇用者数については
製造業の悪化の影響も受けてか、
5月時点の水準まで今月は戻ったが、
それでも平均差で138万人増を維持する
など拡大トレンドは今も続いている。

非正規雇用は感染後に状況の悪化が続き、
8月には平均水準割れも懸念されたが、
むしろ前月の平均差プラス19万人から
プラス37万人に一定程度持ち直したのは朗報だ。

一方、完全失業者数は
過去7年平均との差は2万人まで
縮小した。労働市場の需給ひっ迫などによる
低失業という福音は、感染拡大後に
ほぼ消失したかたちとなっている。
今後は、雇用維持対策とならんで
失業対策がより重点化されるべきことへの
一つの証拠とも言えるだろう。

人口減少や人手不足とともに
200万人以上削減されてきた
非労働力人口は、感染拡大時の4月には
平均差で139万人まで圧縮された。
それが8月になると185万人まで減少幅は
戻りつつある。まだ一部で働き止めは
続いているものの、感染予防対策が
定着したこともあり、労働参加は着実に
回復しつつあるようだ。

依然として厳しい状況を示す数値も
少なくないが、同時に就業情勢が
着実な回復軌道に乗っていることを
意味する数値にも目を向けていくべきだろう。

 

2020年7月の労働市場(5)

昨日は
第二次安倍政権の期間に
ほぼ相当する2013年から
2019年の過去平均と比較により
感染症拡大前後の労働市場の特徴を見た。

アイデアは、天気予報の「平年」との比較だ。
平年は過去30年くらいとの比較とのことなので
せっかくなので、こちらでも過去30年と比較
してみることにした。具体的には1990年から
2019年の月次平均ということになり、
ほぼ平成との時代と比較という意味にもなる。

結果が、こちら。
https://app.box.com/s/j2q09r8buuwv025qw5pn7l4y9d2xh1ph
ちなみに前回みた正規雇用、非正規雇用の月次データは
過去30年分は得られないため、
ここでは男女別の就業者数を見ることにした。
そこからは、なかなかに印象深い結果が表れた。

バブル経済の崩壊後、
「失われた20年」という言葉に象徴されるような
持続的な不況が平成の時代の長きを覆った。

その時代の平均と比べると、
感染症拡大前の2020年1月の就業者数は
369万人も多くなっていた。令和は
就業面に限れば好スタートを切っていた。

就業者の拡大を支えたのは、なんといっても女性だ。
男性雇用者も、過去30年平均に比べて121万人増えたが、
女性雇用者は、実に505万人も増えていたのである。

失業率が5%台に達することもあった平成の頃の
平均に比べると、完全失業者数は87万人も少ない。
労働力参加の進展もあって、非労働力人口も
29万人減っていた。

ところが感染が拡大した2020年4月では、
就業者数や雇用者数(特に女性)の過去30年
との差は一気に圧縮される。30年の蓄積の多くが
一瞬のうちに吹き飛んだかたちだ。
非労働力人口に至っては、
「働き止め」の広がりの影響もあって
過去の平均よりも111万人も多くなり、労働参加に
急ブレーキがかかっていたことは、このような比較
からも明確に確認できる。

最新の2020年7月でも、
就業者数や雇用者数は過去30年の差は
4月時点と大きく変わっておらず、その意味で
就業動向は概ね横ばいを続けている。

一方で、完全失業者数は30年の差が縮小を続け、
平成の厳しい就職難の再来が忍び寄っている
ようにも見え、不気味ではある。
非労働力人口も、依然として過去30年の平均を
上回っており、全般的な労働参加の再開とまでは
いえない状況にある。

労働市場の動向も
常に多面的に確認する必要があること、
さらには短期的な比較だけではなく、
長期的な比較の観点も持たなければならないことを
今回改めて確認した。