2020年7月の労働市場(4)

すっかり暑さも遠のき、
朝昼晩と涼しくなった。
猛暑のニュースもすっかり
過去のようだ。

気温がグングン上がっていたときには
それを示すために「前日に比べて」
という比較がよくされていた。
またそれと並んで、
今年の猛暑がいかに特別なものかを
表すために
「過去何年かの同じ日と比べて」
とか
「平年の同じ日の平均気温は」
などのような情報も流れていた。

今年の感染拡大後の労働市場の状況についても
対前年同月というのがよく指標として
取り上げられているが、
もしその前年自体が特殊な一年だと
そちらの影響を強く受けることにもなる。
実際、2019年は就業状況がかつてないほど
高水準で推移した特殊な年でもあった。

そこで労働市場についても
過去数年との平均状況と比較してみることにした。
具体的には、第2次安倍内閣の期間にほぼ重なり、
かつ労働力調査の調査内容が一部で変更された
2013年から2019年の過去7年間の
各月の平均水準との比較を
主要指標に関して行ってみた。
(※ ちなみに天気予報の「平年」は過去30年くらいの
平均なのだそう)

その結果が、こちら。
https://app.box.com/s/ygkytnhygfbj0hcv2ohm60kiq3muq3tp

まず就業者については
感染拡大前の2020年1月は
2013年から19年の1月平均に比べて
267万人も多い6687万人の水準にあった
(原数値、以下同様)。
それが緊急事態宣言が発出された
2020年4月になると就業者数は
6628万人となり、過去平均との差も
150万人まで縮小する。
直近の2020年7月には平均より145万人増の
6655万人と、感染拡大後は今のところ
ほぼ横ばいを保っている。

このように感染拡大後も就業者数が
思いのほか安定的に推移しているのは、
正規雇用に主な原因がある。
感染拡大前後を通じて正規雇用者数に
目に見える減少はみられず、さらに
実数のみならず、過去平均との差も
感染前よりもむしろ拡大している。
正社員は感染にもかかわらず
今のところ全体的には
ほぼ盤石なのである。

それに対し、非正規雇用には明らかな
翳りが見られ始めている。第2次安倍内閣では
就業増大は非正規雇用に集中したという批判がある。
実際、2020年1月に非正規雇用は2149万人と
過去7年の1月の平均に比べて
128万人も増加していたのは事実である。

ところが2020年4月になると非正規雇用は
2019万人まで減少、過去平均との差も
32万人と、100万人近く急速に減少する。
それが7月には平均との差がさらに
19万人まで縮小している。7年にわたる
非正規雇用拡大のボーナス(特典)は、
感染拡大により、ほぼ消失しつつある。

同様に完全失業者も
今年1月は過去7年に比べて
52万人少ない159万人になるなど
アベノミクスの産物として
明らかに失業は抑制されていた。
ところが直近の7月には197万人となり、
平均との差10万人と、ほぼ消失しかけている。

感染拡大後も現時点では
正社員の就業機会は保たれている反面、
非正規や失業者の不安は高まっており、
格差が深刻になり始めたところで
新内閣はスタートしたことになる。
これは早晩大きな課題になるだろう。

また人口減少による
労働力不足という長期的な課題に対しては、
非労働力人口がすう勢的に減少することで
労働参加の拡大による対応が着実に進んできた。
今年1月には、非労働力人口は
過去7年に比べて236万人も少ない4233万人まで
縮減していた。

それが4月になると過去との差が139万人まで
圧縮される。その背景には、これまで再三
してきた高齢者や幼い子どもを持つ母親などが
働くことを断念する「働き止め」が働いていた。
7月にも過去7年との差は160万人にとどまっており、
働き止めの影響は完全には解消されていない。
その意味では「一億総活躍」というキャッチフレーズ
にもブレーキがかかり、全体的な労働参加には
足踏みがなお続いたままの状態でもある。

来週10月2日は、8月の労働市場の結果が公表される。
発表後は、過去の平均との比較も行ってみたい。