2020年4月の労働市場(1)

本日朝
2020年4月分の
総務省統計局「労働力調査」(基本集計)
ならびに
厚生労働省「職業安定業務統計」
が発表。

前月分の結果
https://genda-radio.com/archives/date/2020/04/28
と比較しながら見てみる。

労働力調査を見ると
3月から4月にかけて
就業者数は107万人減少(季節調整値)。
比較可能な1953年5月以降では
「三八豪雪(さんぱちごうせつ)」
と呼ばれた大豪雪に見舞われた
1963年(昭和38年)1月の113万人減に次ぐ減少幅であり、
リーマンショック時の
2009年2月から3月の52万人就業者減の
ほぼ倍にあたる。
2020年2月から3月が11万人減少だったのと
比較すると一気に就業の底が抜けた状況といえる。

その一方、
完全失業者数は178万人(季節調整値)と
対前月で6万人の増加にとどまっており、
そのために完全失業率も0.1%ポイント増加の
2.6%に収まっている。
解雇、雇用契約の打ち切りを含む非自発的な
理由で離職した完全失業者数は45万人で
前月と変わっていない。その意味では
驚くべきことに、雇い止めによる失業者の増加は
雇用の底が抜けた4月でも表れていない。

なぜか?

就業者の激減と完全失業者の微増を整合的にしているのは
非労働力人口の激増であり、
前月に比べて94万人も拡大した(同じく63年1月以来の増加幅)。
非労働力人口とは15歳以上の無業者のうち
仕事を探していないか、仕事がみつかっても
すぐには就けない人々を指す
(完全失業者は無業であり、仕事を探しており、仕事にすぐつける人。
ちなみにニートは若年の非労働力からなっている)。
ここでも再三指摘している
労働者自身が感染拡大の影響を受けて
労働市場から撤退する「働き止め」が
顕著に表れている。

男女別では男性の非労働力が
27万人増加なのに対し、
女性が68万人とより多くなっており
雇用底割れのしわ寄せと
それに伴う労働市場からの撤退は
女性でより鮮明となっている。

年齢別の非労働力人口(原数値)は
対前年同月に比べて58万人増加したが
そのうち35万人は65歳以上からの増加となっている。
高齢者を中心とした働き止めも
引き続き進んでいる。

職業安定業務統計から
新規求職申込件数(季節調整値)が
3月には前月に比べて6.9%と
大きく減少したことを
これまで述べてきたが
4月も5.5%と引き続き大幅な減少が
続いており、ここからも働き止めが
継続していることがわかる。
その結果、新規求人数が前月より22.9%減った
にもかかわらず、有効求人倍率は前月に比べて
0.07ポイント低下の1.37にとどまった(季節調整値)。

雇用形態別に対前年同月の実数の変化をみると、
正規の職員・従業員が63万人と増加しているのに対し、
非正規の職員・従業員は97万人と大きく減少、
雇用の縮小は非正規に集中している。
うちパートは46万人減、
学生・生徒も多いアルバイトは33万人の減少と大きい。

4月分も詳しくみていく。

偏見

今日は朝から
友人の力も借りて
今回医療従事者とその関係者等が
いわれなき偏見や差別を
受けていることがあるとすれば
その理由は何かを
考えている。

今のところ、
さしあたり理由は
3つくらい考えられるのではないか。

1.生存本能にもとづいた「見える恐怖」に対する発散
2.公的役割・存在への低い信頼から来る不満のはけ口
3.医療およびその関係者への過剰な期待に対する反動

このうち1は、今回恐怖がどこに潜んでいるか、
わからないため、日々不安を感じている人が、
目に見える恐怖の周辺にある人々(医療関係者とその家族)
を「発見」すると、それらに対して差別・偏見によって距離を
置こうとすることでつかのまの安心を得ようとする
生存本能に基づくものだ。退院された元患者や
輸送などに関わる仕事に従事する方への
心ない言動などもこれによるところが大きいように思う。
2については、日本は各種の世論調査などでは、政治、政府、
そして政治家などへの信頼が低いグループに属するといわれる。
おそらくそこには行政、官僚、公務員なども含まれる。そして
公的な役割を担う存在全般への不信感が渦巻くなか、
医療関係者もまた、民官問わず、多くが公的な仕事の従事者だと
認識されているとすれば、今回ますます信頼が低下したといわれる
政治などの公的な危機対応全般への不満の直接のはけ口(代理者)
として真っ先に厳しい状況にさらされているのかもしれない。
そこでは、政府の定めた検査体制への不満なども加わり、
結果的に憤りの矛先が医療関係者に向かっているとも考えられる。一方で、社会学の調査などからは、
医師も看護師も、職業のなかでは高い評価を得ている
仕事の一つであるのは事実だ。3は、むしろ高い評価や期待を
通常得ていることの裏返しや反動として、知識、経験、技量などを
豊富に持っているはずの医療の専門家がいる病院などで
一部がクラスターになったことへの非難となっているのかもしれない。
ただ過剰といえるほど期待されている分だけ
批判もされるというのは
ときに理不尽以外の何ものでもないだろう。

もしこれらの仮説がある程度的を得ているとすれば
解決には、不要な緊迫を適度に和らげつつ
過度に恐怖心を持たないですむ環境をつくること、
公的な取り組みについての情報共有と事後評価を
重ねつつ時間をかけて信頼を得ていくこと、
そして困難の原因を知ろうとすることで
過剰でも過小でもない期待の持ち方を身につけること
くらいだろうか。

2020年1-3月期の労働市場(5)

春先の感染症拡大に対する
雇用全体への影響として
休業者のかつてない増加に加え、
5月1日に書いた
「2020年3月の労働市場(4)」
では短時間就業の増加に触れた。

今日は
このうち短時間就業の増加について
労働力調査(詳細集計)から
改めて考えてみる。
以下は、すべて非農林業雇用者に
関するものである。

労働力調査のやり方が大きく変更された2002年以降、
毎月調査される月末1週間の就業時間が
1-34時間だった雇用者(以下、短時間雇用者)は、
1-3月期では、今回の2020年が、史上最多の1988万人
となった。その数は全体の33.4%となり、
こちらも最高となっている。

2020年1-3月期の短時間雇用者は
前年同期に比べて142万人増加し、
同時に週35時間以上就業の雇用者は107万人減少した。
業績の急激な悪化に対し、休業の実施に加えて、
雇用者を短時間就業に急遽切り替えることで
なんとか凌ごうとしている多くの職場の姿が
統計からも垣間見られる。

その意味で、2020年の感染症拡大の初期における
主な調整手段が、休業と短時間就業の実施だった
ことは、まずまちがいない。

ただ、短時間就業の増加についていえば、
真に画期的な一年といえるのは、2020年ではなく、
むしろ厳密には2019年かもしれない。

2019年1-3月期の短時間雇用者は1846万人であり、
対前年同期で210万人増加と、過去最大の増え方となっていた。

さらに2002年以降の4半期全体でみると、
最も短時間雇用者が多かったのは、
2019年4-6月期の2128万人(全体の36.0%)である。
2019年5月1日に令和への改元があったことで、
土曜を含めると10日連続の超大型連休が、
多くの国民に実現した。
それに加えるかたちで4月の月末に休暇取得や早退などで
もっと長期の休暇を楽しむ人々もいただろう。
このように平成から令和への改元が、
2019年春の短時間雇用者増加の背景にはあった。

しかし背景にあったのは、それだけではないかもしれない。
そこには「働き方改革」の影響も働いていた可能性がある。

2019年4月1日より、働き方改革関連法が順次施行され、
時間外労働の上限規制の導入の他、
年次有給休暇の確実な取得も求められることとなった。
法律の施行のみならず、働き方改革の言葉が浸透するについて、
就業時間の短縮による労働生産性の向上は、
会社のみならず働く人々にも広く意識される
ようになっていた。

短時間就業者は、高齢者の労働参加の普及など
非正規雇用の増加の影響もあって、2000年代以降
すう勢的に増加してきた。のみならず、
その増加の勢い(トレンド)は2019年以降、加速している。

2019年4-6月期には
正規の職員・従業員である短時間雇用者数も
過去最多となった。もっといえば正規雇用である
短時間雇用者は2018年あたりから着実に増え始めている。
それらの背景として、働き方改革の影響を見るのは
不自然ではない。

現下の雇用の危機に対し、
解雇や契約満了によって雇用者数を大幅に調整すること、
すなわち雇い止めは、2020年春先の段階では、
ある程度回避されていると、マクロ的には評価できる。
ただそれが実現しているのも、雇用者数の調整よりは、
休業や短時間就業などによる柔軟な就業時間の調整が
今のところ広く優先的に実施されているからに他ならない。

短時間就業は、手取り賃金の減少につながることも
考えられるため、本来ならば望まない雇用者も少なくない。
たとえば、もっと長い時間働くことを希望し、かつ可能な
短時間就業者である「追加就労希望就業者」は
2020年1-3月期にも212万人存在している。

にもかかわらず、突然の事態に際して、多くが
短時間就業へと切り替えるのを
今のところ結果的に受け入れている。
そこに働き方改革とそれに伴う就業時間短縮の実現
に向けた議論と取り組みが、素地であり、土台となっていた
とすれば、その意味するところは計り知れず大きい。

今後、柔軟な時間調整とそれによる仕事の分かち合いを
続けることで、雇い止めや事業閉鎖などによる失業の増加が、
多少なりとも減じたとすれば、
その背後には、感染症拡大直前の2019年に
いち早く取り組まれてきた働き方改革という歴史的偶然
があったことも記憶にとどめておくべきなのかもしれない。

 

 

2020年1-3月期の労働市場(4)

総務省統計局
「労働力調査」詳細集計によると、
2020年1-3月期の非労働力人口は
その前の2019年10-12月期に比べて
49万人増加し、
4196万人となっている。

非労働力人口は、
失業者と同じく
「仕事をしていない」
人々だが、反面、失業者とは異なり、
「仕事を探していない(開業の準備をしていない場合も含む)」
または
「仕事がみつかってもすぐにはつけない」
人々として定義される。

2020年4月時点の失業率は
2.5%(季節調整値)と前月に比べて
それほど大きく上昇していないが、
非労働力人口の無業者が増えても
それ自体、失業率には影響しない。

対前期の比較は感染症拡大の影響と同時に
季節的な変動の影響も含まれ得るので
解釈は慎重であるべきだが、それでも
49万人増加というのは無視できない
大きさだろう(一方、対前年同期との
比較も、感染拡大以外に景気動向や
労働市場の動向の違いによる影響も
受ける可能性があることに留意)。

非労働力人口について
対前期49万人増加の内訳をみると、
まず目立つのは
65歳以上で31万人増加と、
他の年齢層に比べて突出して大きくなっている点だ。
対前年同期でみても、他の年齢層では
すべて減少しているのに対し、
65歳以上のみが5万人の増加となっている。

2020年3月31日「総務省統計局「労働力調査」2020年2月分」や
4月に書いた中央公論6月号などでは、
既に2月の時点で健康不安などから65歳以上の高齢層等を中心に、
労働市場からみずから撤退する「働き止め」
の兆候のあることを指摘したが、詳細集計からも整合的な
動きが垣間見られる。

非労働力人口は、さらに
就業希望者、就業内定者、就業非希望者、不明者に
分類されるが、このうち就業非希望者は全体で
前期より24万人増えており、働き止めが広範囲に及んでいる
ことも併せて予想される。

また子どもの学校休校の影響を受けて
2人以上世帯の配偶者(多くが女性)の
休業が増えていることも前回述べた。
それと同時に世帯主の配偶者の非労働力人口は、
前期に比べて30万人と大きく増加している。
休校が長引くことの懸念や、子どもの不安などを
考慮し、働きながらの休業ではなく、働くこと自体を
断念する母親も増えていることが見て取れる。

加えて今回の詳細集計から
大学生などの学生アルバイトの雇い止めが
いち早く発生している可能性もうかがわれた。
大学・大学院に在学中の非労働力人口は
前期に比べて12万人、前年同期に比べて18万人と
大きく増加している。アルバイトの仕事がなくなり、
同時に現下の情勢から
新しいバイト先をすぐに見つけるのも難しいと判断し、
当面仕事をせずに待機している場合も多いだろう。

このように非労働力人口の動向は、今まで見てきた
感染症拡大による就業への影響の合わせ鏡の関係にも
なっている。今後は、増加した非労働力人口が
就業に復帰するか、このまま非労働力の状態を続けるか、
仕事を探すために失業者になるかで、労働市場全体の動向は
大きく違う姿を見せることになる。

最後に詳細集計では、近年
非労働力人口に含まれるが、そのうちでも
失業者に近い状態にある人々として
「潜在労働力人口」といった新しい視点も
提供している。潜在労働力人口には、
仕事を探していないが、働くことは希望し、
見つかればすぐに働ける就業可能非求職者などから
構成される。
詳細は
http://www.stat.go.jp/data/roudou/definit.html
を参照。

2020年1-3月期には潜在労働力人口は40万人と
前期や対前年同期と比べて大きな変化はない。
ただくわしく見ると、やはり65歳以上での増加が
表れるなど、変化の兆しがとらえられる。
今後、非労働力人口と並び、潜在労働力人口についても
注意深く観察をしていくべきだろう。

2020年1-3月期の労働市場(3)

厳密には、
在宅勤務が解除になり、
図書館が利用できるようになったら、
年報から確認したいと思っているが、
おそらく現在の日本は
労働力調査が開始された1950年代以降、
史上もっとも休業者が多い状況にある。

2020年3月に休業者は、
前月より53万人と大きく増え、
249万となった。
(4月30日「2020年3月の労働市場(3)」)
それは全就業者の3.7%が休業している計算になる。

53万人の増加の内訳を産業別にみると、
最も多いのが、
一斉休校の影響を受けた
「学校教育」の12万人である。
それに休業や自粛の要請などを
受けて営業を一時的に停止したり
開店時間を短縮した「飲食店」からの
休業増加が6万人と続く。
「娯楽業」からの休業も4万人増えている。

その他、実のところ、
感染症対応に多忙を極めている
医療・福祉関連からの
休業者も増えている。
医療や福祉の現場でのクラスターの発生や懸念から
勤務が難しくなったことなどの影響を受けてか、
「医療業」関係から4万人、
「社会保険・社会福祉・介護事業」から5万人
休業が増えている。

特に医療崩壊が進んだ場合、
医療設備の不足に加えて、休業せざるを得ない
医療関係者が増えるおそれもあり、
4月以降の医療関係からの休業者の動きは
注意深く見守る必要がある。
元々人手不足が深刻だった福祉や介護関係でも
休業が増えたことで事業の維持がさらに
困難になっている事態も危惧される。

詳細集計からは
休業者の仕事からの年収分布が
把握できるが、休業者は
その実数、増加数、就業者に対する比率の
いずれの観点からも、
低年収から多く生じていることが鮮明だ。
年収100万円未満の就業者では1-3月期で
前期より22万人増えて77万人が休業し、
7.3%が仕事を休んでいる状況にある。
一方、高所得層からの休業は
今のところ抑制されており、結果的に
感染症拡大は所得分布の不平等化につながっている。

休業中の就業者にとって仕事が本格再開する
見込みが持てなくなると、将来的に失業につながる
可能性も高い。先に見たように休業が
今後も3密状況の要警戒が特に求められる業種から
多くが生じている事実を踏まえると、仕事の
完全再開にはかなりの時間を要し、解雇や
契約終了などの雇用調整につながることも
否定できない。その場合には、雇用維持の
政策とならんで、雇用創出に向けた政策を
本格化させることも求められるだろう。

加えて今回の休業は、
世帯の状況とも密接に関係している。
2020年1-3月期の前期に比べた休業の増加は、
単身世帯からは2万人にとどまるのに対し、
2人以上の世帯からは52万人と多くなっている。
特に2人以上の世帯では、配偶者の休業が26万人増えている。
世帯主については、55歳以上では休業が増えているが、
35~54歳になると増えていない。

背景としては、子どもの通っていた学校が
一斉休校になったことで、主に母親が休業することで
自宅で面倒みている場合が増えている状況が予想される。
5月以降、学校が再開した場合、休業していた母親が
仕事に復帰するのか、それともそのまま仕事を辞めるのかも
今後の労働市場の動向を左右する一因となるだろう。