さまざまな事態

 大阪や兵庫で学校の休講が相次いでいる。
 学校の休校などが全国に広がる勢いだ。
 今もそうだが、秋以降のことを考えると
 対応はかなり難しい様子だ。
 休校・休講などが広がった場合、
 非常勤の先生や講師など、講義数単位 
 で収入が支払われている人たちの収入が
 途絶えることになりかねない。その他にも
 仕事単位で収入を得ている人たちにとって
 事業がストップすることの影響は甚大だ。
 非常勤に限らず、異常事態では、思いがけない
 ことが同時多発する。大事なことは、どのような
 事態が起こりえるか、最悪の事態を想像し、
 とりえる事態をすみやかに実行することだろう。
 希望とは、イマジネーションでもある。

崩壊15年周期説

 中村圭介著「企業は『大騒ぎ』を利用してモードチェンジをしてきた」
 海老原嗣生著 『雇用の常識「本当にみえるウソ」』プレジデント社、
  2009年5月、42-43頁を読み、なるほどと唸る。
 戦後、長期雇用・年功賃金の崩壊の大合唱が三度あったという。
 1960年代の資本・貿易自由化、1975年のオイルショック以降の
 低成長移行期、そして1990年代中盤以降のバブル崩壊期。
 現在は15年後の第四の崩壊ブームかもしれない。
 
 だが、結果的に日本的雇用システムは、そのたびにモードチェンジ
 を繰り返しながら、生き残ってきた。いや、むしろ「崩壊」という大騒ぎ
 を利用して、企業は根幹を維持しつつ、シフトチェンジを繰り返してきた
 というのが、中村さんの見立てだ。とてもすぐれた指摘だと思う。
 ブームとして、議論が消費されないためにも、歴史を踏まえた見解が
 重要であることを改めて思う。
 

希望学第2巻『希望の再生』刊行

 
 いよいよ、希望学第二巻『希望の再生』が
 刊行される。
 http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-034192-9.html
 釜石は2006年から何度訪れたか、わからない。
 鉄の街として繁栄し、ラグビー七年連続日本一という偉業により、
 全国にその名をとどろかせるなど、釜石はかつてまぎれもなく
 「地方の希望の星」だった。釜石は現在、人口減、高齢化、
 産業構造の転換など、日本に迫り来る近未来を一身に
 体現している地域である。
 本書と来月刊行の第三巻『希望をつなぐ』は
 釜石に多くの希望学研究者が何度も赴き、
 希望の再生に向けて行動する人々と対話を積み重ねた
 記録だ。
 〇
 朝9時15分、東京駅発の東北新幹線に乗ると、
正午少し前には岩手県の新花巻へ到着、そこから
在来の釜石線「快速はまゆり」に乗り換える。
午後1時半過ぎには釜石に到着する(時刻表は2006年当時)。
 映画を観るのも、会社の会議も、疲れないのは、
せいぜい長くて2時間迄というのが、せわしい近頃の世間相場だ。
釜石を最初に訪れたとき、この4時間強の電車の旅、正直、遠いと感じた。
が、不思議なことに、何度も繰り返すうち、この小旅行、長いどころか案外、
快適な時間に思えてくる。
 ゆったりと朝寝を決め込む。何をすることもなく、ただ外を眺める。
すると、むしろ贅沢な時間を過ごしている気分になる。
電車の程よいスピードと相まって、日頃の心の疲れが洗い流されるような
感覚をおぼえて心地いい。
 東京大学社会科学研究所(通称「東大社研」)は、
希望と社会の関係を考える希望学という研究を、2005年から始めてきた。
生活、経済、歴史、文化など様々な面から希望を実践的に考えるのに
適した地域を求めながら、2006年1月、私たちははじめて釜石に辿りついた。
そのときの印象を、同行した宇野重規は、緊張しつつ訪ねたけれど、
結局なんだかいつも「笑ってばかりいた気がする」と、当時のメモに書いている。
 春先なら、釜石線や新しく開通した道路で仙人峠を越えるとき、すがすがしい
新緑が迎えてくれる。冬になると、峠から吹き下ろす風こそ冷たいものの、
雪は思いがけず少なく、町中の「呑ん兵衛横丁」あたりを千鳥足で歩いても、
寒さがむしろ気持ち良いくらいだ。だからか釜石に行くたびに、
私はいつも呑みすぎてしまう。とれたての魚や山菜など、食べものはとびきりおいしい。
でも、なんといっても、人がいい。
 知り合いになった当時、新聞記者として釜石に赴任していた女性も、
任地を離れるまで「ここで嫌な思いをしたことが一度もなかった」と言った。
(『希望の再生』はしがきより抜粋)
 

本当の専門家は話が上手いなあ。

 日本学術振興会の委託研究として
 受託した通称近未来事業の柱として
 雇用システムワークショップを毎月
 開催している。
 これが実に面白い。今年度は今週を
 含めてすでに2回開催されたのだが
 それぞれ熟達の専門家が集まり、
 報告や議論をしている。驚くのは、
 みなさんの発言が非常にわかりやすく
 議論が本当に勉強になるのだ。それだけ
 参加者が優れた専門的見識をお持ちだから
 だろう。
 ワークショップは誰でも歓迎です。どうぞ
 ご関心の方は、研究者の方に限らず、
 実務家の方、政策関係者、学生さんなど
 ふるってお出でください。
 詳しくは
 http://das.iss.u-tokyo.ac.jp/future/koyou.html

2009年3月労働力調査雑感

 2009年3月分の労働力調査の結果が
 今朝発表。予想通り厳しい数字が並んでいる。
 完全失業者数は、335万人と久々に300万台
 に達している。うち「勤め先の都合」が前年同月
 50万人増の106万人。3月末が一つの雇用の区切り
 だろうから、求職期間中になる4月から7月にどれだけ 
 増えるかが、一つの目安だろう。
 就業者数で、唯一、昨年4月以降増え続けているのは
 医療・福祉と情報通信。ただ3月はその伸びが
 若干鈍化している。今後どうなるかが、注目だ。
 加えて今回改めて衝撃的だったのは、従業者規模別
 の動向。速報にもあるように1人~29人の小企業全体
 では22ヶ月連続で雇用者数が減少しているのに対し、
 500人以上の大企業全体では実は21ヶ月連続で増加
 しているのだ。
 その意味で今回の不況は、中小企業直撃の不況と
 いえる。自動車や電機などの大企業名が登場すること
 も多いが、実際には中小企業がより厳しい状況に
 おかれている。
 失われた10年といわれた時期も最初は 
 大企業が雇用調整に走り、中小は比較的人手不足感
 が強かった。それが1997年からの金融不況をきっかけに
 中小企業が大きな打撃をうけて不況が深刻化した。当然
 雇用および賃金など、中小企業の就業者の状況は厳しい。
 かつて格差といえば、地域間格差と、大企業と中小企業の
 規模間格差が、労働経済学の大テーマだった。現在、規模間
 格差についての研究が、きわめて少なくなっている。あらためて
 規模間格差に着目する地道な研究が今こそ必要に思う。