つなぎ雇用

これまでの仕事を
当分続けられない状況に
なった人々について、
臨時交付金を活用した
「つなぎ雇用」の可能性を
昨日述べた。

つなぎ雇用は、
もちろん正式な名称ではない。
収入や仕事が一時的に途絶えた人が
それらを緊急的にある程度確保する
ために結ばれる臨時の雇用契約ということ
になる。

交付金は単年度ごとの予算になるため
雇用契約は長くてもせいぜい一年といった
短期的なものにならざるを得ない。
基金の場合には、複数年にわたっての
予算執行が認められることが多いので
事実上もう少し長い期間の雇用が
可能な場合もあるが、交付金ではそれよりも
どうしても短くなってしまうことが前提となる。

そのため、期間の定めのない無期雇用に
再就職することを望む人にとってすれば
つなぎ雇用で働くのと並行して、その後の
仕事を探す活動も必要となる。
飲食店を休業中の自営業者など、
元の仕事に復帰することを希望する人に
とっても、つなぎ雇用への従事と
再開に向けた準備との両立が欠かせない。

同時に、つなぎ雇用で働く人にとって、
それが所詮かりそめの仕事にすぎないという
引いたり冷めた気持ちで働くのならば、
必ずや周囲とのあつれきや不和を生み出すことになる。
同様に雇う側にとっては
「雇ってやっている(あげている)」
といった態度がおくびでも現れることになれば
関係は途端にうまくいかなくなり、
仕事も円滑には進まなくなる。

それだけ
つなぎ雇用は
緊急事態だけに認められる
難しい働き方であるという
認識は必要になる。

少なくともつなぎ雇用で働く人々には
公的資金で緊急的に働く機会を提供してもらっている
ことに感謝の気持ちは欠かせないし、
雇う自治体、民間企業、NPOなども
コロナ対策などで業務に忙殺されている状況を
乗り越えるためにいっしょに苦労を分かち合う
一期一会の貴重な人材や仲間として
敬意をもって処遇できるかどうかに
つなぎ雇用の成否はかかっている。

新型コロナ感染症対応地方創生臨時交付金

来週金曜の
7月31日(金)に
総務省統計局「労働力調査」6月分の
基本集計結果が公表になる。
そこではどれくらい
就業者が減っているか、
そして
失業が増えているかが、
まずはポイントになる。

これまで雇用対策としては
雇用維持を最優先に進められてきたが
感染症収束まで相当の時間がかかるという
見通しが広がると、
休業や時間短縮で耐えてきた事業のなかで、
持ちこたえられない場合も
出てくるだろう。その結果、就業者の一部が
失業者へと転じることも少なからず考えられる。

雇用が維持できず、新たに仕事が必要な人が
増えてきたときのために、
雇用調整助成金などによる雇用維持対策を前提に、
すみやかな就業移動を促すミスマッチ対策に加えて、
失業者や非労働力人口などで収入や仕事を必要としている人々や
長期の休業を強いられた雇用者、自営業者、フリーランスなどを対象に
臨時の「つなぎ雇用」の機会創出など、
リーマンショック時や大震災時に機能した基金事業のような
雇用創出対策の検討の必要性を
ここでもこれまで指摘してきた。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/06/03

現在、その機能が、この基金事業に代わるものとして
実施されているとすれば、それは内閣府地方創生推進室の所管による
「新型コロナ感染症対応地方創生臨時交付金-脱コロナ協生支援金」だろう。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/rinjikoufukin/index.html

全都道府県、全市区町村を対象に
1兆円が確保された第一次補正予算は
今月から交付が開始されている。
支援事業は
Ⅰ.感染拡大の防止
Ⅱ.雇用の維持と事業の継続
Ⅲ.経済活動の回復
Ⅳ.強靭な経済構造の構築
とされ、雇用関連も対象に含まれている。
臨時交付金は、新型コロナウイルス感染症への対応として
必要な事業であれば、原則として使途を制限しない、
きわめて自治体の自由度の高い設計となっている。

細かく臨時交付金の取り組み例をみると
「雇用創出・研修実施支援」なども挙げられており、
そこに自治体や関係機関による「つなぎ雇用」も
事実上想定されている。具体的には、
そこでは以下の説明書きが加えられている。

「解雇や雇止め、内定取り消し、就職氷河期世代等
の就労機会を失った方々などに対して、
地方公共団体が一時的な雇用を自ら実施
又は就職サポートを委託するのに必要な経費に充当。
また、これらの方々が、人手不足が深刻でかつ社会的必要性が
高い農林水産業、運送業、宅配、食品スーパー等に就業するため、
感染症対策のステージも十分踏まえながら、
実地やwebでの研修等を行う事業者に対して
必要な経費の一部を支援。」

事例のなかには、個人事業主やフリーランスを支援する事業も
別途含まれ、所管は上記と同じく内閣府地方創生推進室となっている。
今回就業支援が必要な対象に、雇われて働く雇用者以外を含んで含んでいたり、
仕事を探してハローワークに訪れる失業者だけに限られないことを考えると、
就業対策の構えを広く取り、狭い意味での雇用対策や失業対策に限定していないのは、
十分理解できる。

臨時交付金では第二次補正予算として
一次の倍の2兆円が確保されており、
今月が締切となっており、交付は
9月以降が予定されている。

地方自治体は、今後、緊急的な雇用創出が
必要になる事態を想定し、そのための対策として
この臨時交付金を有効活用していくべきだろう。
いいかえれば、ここで自治体の今後に向けた
手腕が問われる事態ともいえるかもしれない。

そして今回の臨時交付金が、緊急的な就業確保の機会となる他、
今後に向けた有益な就業機会の創出策の発見につながることが
期待される。

『中央公論』2020年8月号(7月10日発売)

http://www.chuko.co.jp/chuokoron/newest_issue/index.html

「戦後最大の休業者数 労働市場に何が起こったか?」
という記事を寄稿しました。

内容のベースは
5月末から6月初めにかけて
ここに書いていたものです
(なんだか懐かしい)。

7月上旬発売だと
締切が6月中旬になるので
このような感じになります。

内容は4月の激動の背景を
説明したもので、その後5月の
状況は、6月末に同じくここで
書いたものをご覧いただければ
と思います。

論壇誌、新聞、週刊誌などに
寄稿した場合、基本的に
見出しや小見出しなどは
自分でつくったものではなく
デスクという方ですとか、記事の担当者とか、
編集部が考えて決められることが多いようです
(もちろん多くではご相談はいただきますが)。

タイトルや見出しの傾向としては
内容全体を俯瞰したものが
選ばれるというよりは
内容のうち、
読者にインパクトの一番ありそうな所を
切り出して関心を誘う
といったことが多いような気がします。

ずいぶん前になりますが
ある大手の新聞と雑誌
(記憶のなかでも最低3回はあります)
に寄稿した内容に付けられた
見出しがあまりにもイヤで
変えてほしいとお願いして
ちょっとした喧嘩になったことがあります。
結果、どうなったかは、あまりおぼえていません。
いずれにせよ、若かったんです。

ちなみに自分で学術雑誌に書いた論文や
自分の著書や編著などの本の場合、
これまでタイトルはすべて自分で
考えたものです。

 

2020年5月の労働市場(5)

これまで
2020年5月の
労働市場の動向を
見てきた。

非労働力人口、
休業者、
短時間就業者など、
かつてない激動を示した
4月の状況から、
すこしずつ元への
軌道修正が見られつつあるのが
5月の動きといえる。

そのとき気を付けるべきは
労働市場の動向の底流には
多くの場合、
双方向の流れが広く共存している
ということを忘れないことだろう。

それはどういうことなのか。

総務省統計局「労働力調査」に
2020年4月と5月の両方に調査協力した
回答者の状況からふたたび考えてみる。

そこでは4月には非労働力人口だったのが
働き止めなどを終え5月になって仕事を開始し
就業者となった人々が、98万人存在していた。
一方、逆方向の動きとして、
4月には就業者として働いていたのが
諸般の事情から仕事を断念し非労働力人口になった人々が
76万人も、5月時点では同時に存在していた。

結果だけみると、非労働力から就業者への
差し引き22(=98-76)万人のシフトが生じたわけだが、
(それだけでも十分に大きいのだが)
その背後には色々な状況が交錯しながら、
実にのべ174(=98+76)万人にも及ぶ人々の働く状況の変化が
あったことになる。

同様のことは5月に増加の兆しが強まった
失業者の動向にもあてはまる。
4月から5月にかけて雇い止めの影響なども受けて
就業者から完全失業者へと
3万人ほど移動した結果となっている。
だが実際には、就業者から完全失業者に移行した
人々は24万人に達しており、
反対に失業者から就業者に移行した人々が
21万人いたため、
結果的に差し引き3万人と比較的小さな変化に
とどまっているようにみえただけなのだ。

同じく非労働力人口から職探しを始めて
失業者になった人が24万人いた一方で、
それまで失業状態だったのが働くのを断念して
非労働力となった人々が、
別のところで21万人も存在している。

労働市場では、多くの場合、
一方通行ではなく、背後には双方向の
動きがあることを、状況を解釈する際には
注意しなければならない。一方的な
動きだけだと、決めつけてはいけないのだ。

それは、非正規から正規への移行についても
あてはまる。しばしば非正社員は正社員に
なることはできない、といったような
強い説明や解釈がなされることがある。

しかし2020年4月に非正規の職員・従業員
だった人のうち、5月に正規の職員・従業員
となっていた人は、実のところ、51万人に達している。
一方で正社員から非正社員に移行していた人も
52万人に及んでいたため、差し引きだけで
みると、正規と非正規の構成はほとんど変わって
いないか、若干非正規が増えたように見えてしまうのだ。

実際には、総じてのべ100万人にも及ぶ正規と非正規の
雇用形態の変化をめぐるダイナミズムが
一か月という短い期間でも生じている
のが、労働市場の実際だ。

このようなダイナミズムは、今回さらに
拡大している。就業者数、失業者数、非労働力人口など
のそれぞれの動き(フロー)をみると、その数は
前年の2019年の4月から5月の動きよりも、
おしなべて拡大している。

その意味でも双方向でも激動の
真っ最中にあるのが、
2020年5月の労働市場の特徴といえるだろう。

 

2020年5月の労働市場(4)

感染症拡大後の労働市場の特徴を
表現するとすれば、
3月が感染浸透による変化の「兆候」、
4月が感染爆発に対する緊急の「対応」
とすれば、5月は、これまでの対応の継続と
感染の一時収束を踏まえた緩やかな回復が
「混在」した時期だったと言えそうだ。

このうち5月の状況に関する
性別による違いを確認してみる。

まず4月に急速に進んだ非労働力化については
男女にかかわらず歯止めがみられつつある。
人口に占める労働力人口の割合(労働力人口比率)は、
4月には男性よりも女性のほうが全体的に
低下の度合いが大きかった(対前年同月)。

それが5月には労働力人口比率は、
前年同月より男女ともに低下しているが、
その低下幅は男性が0.4%減であるのに対し、
女性が0.3%減と、ほとんど差がなくなっている。

総務省統計局「労働力調査」の
4月と5月の両方の調査対象者に着目した
結果もある。それによると、
4月に非労働力人口だった人々のうち、
5月に労働力人口に移行していたのは
男性が3.2%、女性は2.9%だった。

このように割合で見ると、男性のほうが
労働力化が若干進んでいるようにみえるが、
これを人口でみると、男性が47万人なのに対し、
女性は75万人まで達しているともいえる。

4月には一時的に就業を断念していたものの、
5月になって働き始めているのは、
男性だけでなく女性にも顕著に観察される。

一方で、4月に休業者だった人々の
5月の移行状況を見ると、
実際に仕事をした従業者への移行が
男性で48.1%だったのに対し、
女性は41.1%にとどまり、
7ポイントもの違いがみられる。

ただ、2019年の4月から5月では
休業者だった女性のうち従業者と
なっていたのは、34.7%とより少なかった。
女性のうち、あくまで4月の休業を一時的な
待機として、5月には早速仕事に戻っていた場合も
今回は少なくない。

だが、学校の再開も多くが現在も部分的なものに
とどまっていることなどから、子どもの世話などを
理由として、仕事への本格復帰が進んでいない状況は、
今も継続しているようだ。

雇用者に占める休業者の割合(雇用者休業率)は、
4月には男女ともに15~24歳の若年層と
65歳以上の高齢層で高かった他、
女性では20代、30代、40代などでも高かった。

5月になると、雇用者休業率は、
性別と年齢を問わず、低下していることが
確認できるが、それでも小さな子どもを抱える
母親を多く含む女性では、その割合は相対的に
今も高い。

なかでも有配偶(既婚)の35~44歳の女性では
4月の労働力人口比率は、前年同月に比べて
35~39歳では2.2%減、40~44歳では2.3%減と
抜きん出て大幅に下落していた。

これが5月になると、40~44歳では0.6%減と
やや持ち直しているものの、35~39歳では
3.5%減と、下落幅は拡大している。
こちらもこれまで再三述べているとおり、
これらの就業を断念せざるを得ない状況にある
女性のなかには、就職氷河期世代が含まれている。

https://genda-radio.com/archives/date/2020/06/01

今月発売予定の『中央公論』2020年8月号に
寄稿した内容には、次の文章を含めた。

感染症の拡大前までは、既婚女性の正社員化が進むことで、
性別による固定的な役割分業が、氷河期世代を境に
今度こそ終焉へと向かうのが、期待された。
しかしながら、その期待は現在裏切られつつある。
氷河期世代女性の直面する悲劇は、
たんに就業機会の喪失にとどまらない、
今回の状況が引き起こした日本社会の損失でもある。

このような損失をさらに深刻化させないためにも
感染症の第2波の発生を抑える努力を続けるとともに、
ひきこもり支援だけにとどまらない氷河期世代全体への
支援と適正な評価が、今後とも必要とされている。