2020年5月の労働市場(4)

感染症拡大後の労働市場の特徴を
表現するとすれば、
3月が感染浸透による変化の「兆候」、
4月が感染爆発に対する緊急の「対応」
とすれば、5月は、これまでの対応の継続と
感染の一時収束を踏まえた緩やかな回復が
「混在」した時期だったと言えそうだ。

このうち5月の状況に関する
性別による違いを確認してみる。

まず4月に急速に進んだ非労働力化については
男女にかかわらず歯止めがみられつつある。
人口に占める労働力人口の割合(労働力人口比率)は、
4月には男性よりも女性のほうが全体的に
低下の度合いが大きかった(対前年同月)。

それが5月には労働力人口比率は、
前年同月より男女ともに低下しているが、
その低下幅は男性が0.4%減であるのに対し、
女性が0.3%減と、ほとんど差がなくなっている。

総務省統計局「労働力調査」の
4月と5月の両方の調査対象者に着目した
結果もある。それによると、
4月に非労働力人口だった人々のうち、
5月に労働力人口に移行していたのは
男性が3.2%、女性は2.9%だった。

このように割合で見ると、男性のほうが
労働力化が若干進んでいるようにみえるが、
これを人口でみると、男性が47万人なのに対し、
女性は75万人まで達しているともいえる。

4月には一時的に就業を断念していたものの、
5月になって働き始めているのは、
男性だけでなく女性にも顕著に観察される。

一方で、4月に休業者だった人々の
5月の移行状況を見ると、
実際に仕事をした従業者への移行が
男性で48.1%だったのに対し、
女性は41.1%にとどまり、
7ポイントもの違いがみられる。

ただ、2019年の4月から5月では
休業者だった女性のうち従業者と
なっていたのは、34.7%とより少なかった。
女性のうち、あくまで4月の休業を一時的な
待機として、5月には早速仕事に戻っていた場合も
今回は少なくない。

だが、学校の再開も多くが現在も部分的なものに
とどまっていることなどから、子どもの世話などを
理由として、仕事への本格復帰が進んでいない状況は、
今も継続しているようだ。

雇用者に占める休業者の割合(雇用者休業率)は、
4月には男女ともに15~24歳の若年層と
65歳以上の高齢層で高かった他、
女性では20代、30代、40代などでも高かった。

5月になると、雇用者休業率は、
性別と年齢を問わず、低下していることが
確認できるが、それでも小さな子どもを抱える
母親を多く含む女性では、その割合は相対的に
今も高い。

なかでも有配偶(既婚)の35~44歳の女性では
4月の労働力人口比率は、前年同月に比べて
35~39歳では2.2%減、40~44歳では2.3%減と
抜きん出て大幅に下落していた。

これが5月になると、40~44歳では0.6%減と
やや持ち直しているものの、35~39歳では
3.5%減と、下落幅は拡大している。
こちらもこれまで再三述べているとおり、
これらの就業を断念せざるを得ない状況にある
女性のなかには、就職氷河期世代が含まれている。

https://genda-radio.com/archives/date/2020/06/01

今月発売予定の『中央公論』2020年8月号に
寄稿した内容には、次の文章を含めた。

感染症の拡大前までは、既婚女性の正社員化が進むことで、
性別による固定的な役割分業が、氷河期世代を境に
今度こそ終焉へと向かうのが、期待された。
しかしながら、その期待は現在裏切られつつある。
氷河期世代女性の直面する悲劇は、
たんに就業機会の喪失にとどまらない、
今回の状況が引き起こした日本社会の損失でもある。

このような損失をさらに深刻化させないためにも
感染症の第2波の発生を抑える努力を続けるとともに、
ひきこもり支援だけにとどまらない氷河期世代全体への
支援と適正な評価が、今後とも必要とされている。

 

2020年5月の労働市場(3)

2020年4月に労働市場に
起こった歴史的な変化として
非労働力人口の増加、
休業者の増加とならんで、
短時間就業への一斉シフトを
指摘してきた。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/05/31

このうち
非労働力人口のなかには
徐々に労働力化に向かい始める動きもみられ、
休業者も依然として多いものの
およそ半分弱は仕事に復帰する動きを確認した。

では残った短時間就業の一斉シフトは
その後5月になってどうなっていたのだろうか。

2019年4月には、非農林業従事者者のうち、
月末一週間に1~34時間就業の雇用者(以下、短時間雇用者)は
3月より887万人増と大きく拡大していた。
新年度のパート・アルバイトの採用にも
急ブレーキがかかっていたことを考えると、
短時間雇用者がここまで増えたのは驚異的であった。

このような短時間雇用への一斉シフトをもたらしたのは、
正社員を含む一般時間就業からの移行だった。
非農林業で週35時間以上就業する雇用者の減少幅は、
前月に比べて1289万人、対前年同月でも198万人と、
驚くべき減少を示していた。

それが5月になると、短時間雇用者は前月より823万人減少し、
同時にかつ一般時間就業者は983万人増加している。
まさに短時間就業から一般時間就業への
明確な「より戻し」が生じていたことになる。

4月に生じた短時間シフトの多くは、緊急事態宣言による
休業実施や自粛要請を受けたものと予想されるが
その背景としては、元々大型連休によって就業時間を
短くすることが、事前に組み込まれていたことで
スムーズに実施できた面もあった。

そのため大型連休が終わり、緊急事態宣言も解除されれば、
おのずと通常の労働時間へと戻る人々も多くなったものと
考えられる。

ただし短時間シフトには、一時的な連休の影響だけではなく、
働き方改革の大号令以降続いてきた、短時間で生産性を上げる
ための取り組みの本格実施や加速化も背景として機能していた
可能性がある。だとすれば今回を契機に労働時間の短縮が
定着する動きも一部で広がるかもしれない。

総務省統計局「労働力調査」からは、
月末一週間の就業時間とならんで
一か月の就業日数と就業時間も把握できるが、
就業者全体について、
今年5月の平均月間就業日数は、
昨年同月に比べて1.7日減少し、
4月の0.8日縮減よりも減少幅はさらに拡大している。
同様に平均月間就業時間も
4月の対前年5.8時間減に比べ
5月には16.6時間減と、短縮幅はより大きくなっている。

この労働時間の短縮の継続は
正規の職員・従業員、いわゆる正社員でも顕著にみられる。
正社員では、5月に平均月間就業日数が
対前年同月1.8日減、平均月間就業時間が20.8時間減と、
それぞれ4月の0.6日減、9.1時間減に比べて
削減幅は拡大していることがわかる。

その際問題は、5月以降、就業規則に定められた
通常の就業時間への復帰と並行して、
そのなかでも就業時間を本当に必要な時間だけに
集中することで、結果的に時間あたりの労働生産性が
向上しているかどうかだろう。その状況は今回の
公表結果からは把握することができず、今後の検証に
委ねられることになる。

感染症拡大への対応経験を一つの契機として、
在宅勤務やオンライン利用の業務も
広がりつつあるが、それが生活時間や労働時間の活用見直し
を求めることになって、望むらくは、
働きやすさや働きがいの向上につながることだろう。

一方で、週60時間以上勤務などの長時間労働は、
前年同月よりは少ないものの、こちらも先月よりは
確実に増えつつある。誰かの業務効率化が、
別の誰かへの負担のしわ寄せを前提とする
のであれば、それは本末転倒である。

ただオンラインや在宅勤務などの仕事の個別化は、
それらのしわ寄せの発生を見えにくくすることにも、
同時に注意が必要になる。その調整は、一義的には
管理職である上司と人事担当者の役割であるが、
見えにくい構造があるぶん、働く本人も適宜
必要な声(ボイス)を挙げることも求められる。

新たに望ましい仕事の仕方と
業務の公正かつ適切な配分について
現在はまだその模索の途中過程であり、
過渡期にあるといえるのだろう。

2020年5月の労働市場(2)

感染症拡大第1波による
雇用・就業への影響の
特徴の一つとして
休業者の未曽有の急増を当初より再三指摘してきた。
https://genda-radio.com/archives/date/2020/04/30
https://genda-radio.com/archives/date/2020/05/17
https://genda-radio.com/archives/date/2020/05/30

以下、2020年5月の状況からは、
休業者の増加は、おしなべて4月にピークを迎え、
5月にはかなりの部分が
仕事への復帰を果たしつつあるものの、
同時に今でも多くの就業者が引き続き
休業状態にあることが見て取れる。

https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c23.html

仕事を辞めてはいないが、調査期間中の1週間に
仕事を完全に休んでいた「休業者」は、
2020年4月に、おそらくは過去最多であろう
597万人に達し、就業者全体の9.0%に及んだ
(おそらくというのは、東日本大震災直後には
調査ができなかったため)。

翌5月になると、休業者数は423万人となり、
原数値の比較のため、
季節変動の影響などに注意する必要はあるが、
前月よりは174万人の減少、就業者(=従業者+休業者)
に占める休業者の割合も、6.4%まで低下している。

対前年同月の休業者数の増加幅が、
4月には実に420万人に達していたのに対し、
5月は274万人と、依然として昨年に比べれば
大きく増加はしているものの、その拡大ペースには
一定の歯止めがかかりつつあると見てまちがいないだろう。

産業別にみても、ほとんどすべての業種において
前年同月よりは多いものの、先月よりは減少している
という傾向が見られる(※原数値)。
4月に休業者が急増した
飲食サービス業や生活関連サービス業でも
5月にはその数は縮減している。
唯一例外として、需要の回復が未だ見込めない
ことも反映しているのか、
宿泊業と道路旅客運送業のみ
休業者が先月より減っていない。

医療崩壊が危惧された
医療・福祉業態からの休業者も
4月の50万人から5月には35万人へと減り、
前年同月からの増加も25万人から12万人へと
半減するなど、現場が落ち着きを取り戻しつつある
ことが休業に関するデータからも予想される。

自営と雇用、正規と非正規など、
仕事の形態別にみても、
4月から5月にかけて休業者は
絶対数と就業者に占める割合のいずれでみても
減少傾向は、共通している。

それでは、4月中の休業を終えた人々は、
5月には、一体どこに向かったのだろうか。

総務省統計局「労働力調査」では、調査対象の
約4万世帯のうち、半分は2ヵ月連続で回答する
ことになっている。そのため今年の4月末時点
で休業者となっていた人の5月末時点での就業状況を
把握することができる。

それによると4月の休業者のうち、
44.0%が「従業者」として5月に
仕事をしていたことがわかる。
すなわち半分弱の休業者が、翌月には
元の仕事に復帰するか、新しく仕事をみつけて
働いていたことになる。

これを昨年2019年の4月の休業者と比較すると
5月に従業者となっていた割合は39.5%、
さらに一昨年では34.8%にとどまっていた。
ここからも、今年4月に急増した休業者の多くが、
緊急事態宣言の発出や自粛要請などを受けて、
その後の復帰などを前提に
あくまで一時的に仕事を休んでいたことが示唆される。

一方、今年の4月の休業者のうち、
5月時点も休業状態を続けていた割合が
49.4%と、およそ2人に1人が休業のままであるのも
また事実である。その割合は、
2018年の51.4%、2019年の50.3%と比べても
大差のない水準にある。

そして休業後に仕事への復帰がならず、5月には
完全失業者として職探しをしていた割合が1.7%、
働くことを断念し非労働力人口となった割合が4.9%
であった。特に失業への移行が1.7%にとどまっていることは、
2018年時点ではそれが3.6%、19年時点では2.5%だったことと
あわせても特筆すべき点だろう。
今回の緊急措置としての休業の一斉実施の多くが、
雇用打ち切りまでの時間稼ぎというよりは、
失業の回避に部分的にせよつながっていることを
物語っているように思われる。

5月時点の約200万人の完全失業者のうち、
10万人程度が先月には休業していた計算になる。
また昨日見たように、非労働力人口は5月に入って
労働力人口への移行の兆しが見え始めているが、
背後にはそれと並行して休業からの流入も生じていたことになる。

育児や介護などによる休業と異なり、
経営上の事情による休業は、企業が経営危機を
一時的なものと見込んでいる場合に選択するものだろう。
しかし、その休業状態が長引くことは、それだけ
業績の回復には時間がかかることを同時に意味するため、
雇用契約の打ち切りにつながるリスクも高めることになる。

今後は、引き続き400万人を超える休業者のうち、
どの程度が失業もしくは非労働力の状態へと移行するかが
就業動向全体を大きく左右することになるだろう。

2020年5月の労働市場(1)

今朝8時30分
総務省統計局「労働力調査」2020年5月分
の基本集計の結果が発表。
4月に比べて失業への影響が
現れ始めている。
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c03.html

5月の完全失業者数は197万人(季節調整値)
とギリギリ200万人を下回ったが
4月に比べて19万人増と
3月から4月の6万人増に比べて
増加幅は広がった。
その結果、完全失業率も2.6%から2.9%へと
0.3ポイント上昇している。
一か月で19万人の増加は、
リーマンショック時の2008年11月から12月にかけての
26万人増以来となる。

完全失業者数は、対前年同月では33万人(原数値)増と
こちらもリーマンショックの余波が残っていた
2010年1月の46万人増以来の増加幅となっている。

契約満了や勤め先の都合による非自発的な理由による
失業も、先月より7万人(季節調整値)増えた
(3月から4月は増加せず)。

ただ、今回の結果で最も驚いたのは、
就業者数が6629万人(季節調整値)と、
横ばい、もしくは先月に比べると
ごくわずかだが増えたことだ(4万人増)。
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c01.html#c01-10

対前年同月の減少幅は76万人(原数値)と大きいが
それも4月の減少幅の80万人(同上)と同程度
もしくはいくぶん持ち直している。いずれにせよ、
就業機会の受け皿のさらなる底割れは5月時点でも
回避されているようにみえる。

これらの失業者数の増加や横ばいの就業者数を
もたらしていた考えられる背景の一つとして、
4月には非労働力人口として職探しをしていなかった人々から、
5月になって職探しを新たに始めた人が早くも現れていたこと、
すなわち「非労働力人口」から
就業者と完全失業者からなる「労働力人口」へと
移行した人が出始めていた可能性が示唆される。

具体的にはまず非労働力人口は3月から4月にかけて
全体で94万人(季節調整値)増えたが、
4月から5月には21万人(同上)の減少へと転じている。
自粛要請の緩和などを踏まえて、これまでの言葉でいえば
「働き止め」がやや緩和されつつあるのかもしれない。

あわせて労働力調査に4月と5月の両方に回答した人々から
求めた結果によると、4月に非労働力人口だった人々のうち、
翌5月に労働力人口となった割合は3.0%となり、
19年の2.5%や18年の2.3%よりも、
やや高くなっている。

さらに傍証として、本日、
厚生労働省「職業安定業務統計」2020年5月分も
同じく公表されているが、
3月、4月の新規求職申込件数(季節調整値)がそれぞれ
マイナス6.9%、マイナス5.5%と大きく減少していたのに対し、
5月にはプラス4.8%と増加の傾向を見せ始めている。
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c04.html

そのことは、新規求人数が5月になって季節調整値では
はやくも増加に転じたにもかかわらず、
結果的に有効求人倍率の1.32から1.20への低下にも
寄与するかたちとなっている。

ただし非労働力人口も全体では短期的に
減少へと転じているが、対前年同月でみると
4月の58万人増(原数値)に続き、
5月も37万人増(同上)と、
就業にブレーキは、なおかかり続けている。

特に、罹患をおそれた働き止めの兆しが
当初から表れていた65歳以上の非労働力人口は、
5月には前年同月に比べて20万人増(原数値)と拡大が続いている。
一方で、4月ではその幅が35万人だったことと比べると、
高齢者のあいだでも、罹患のリスクを抱えながら働き始めようと
する人々がすこしずつ出始めているようにも見て取れる。

さらに、学生アルバイトも多い15~24歳や
氷河期世代を含む35~44歳女性などでも
非労働力人口が、4月に引き続き5月も
前年同月に比べて増えている状況は変わらない。

全体として、緊急事態宣言の解除を受け、
就業に進みつつある人々が出始め、
その結果として、失業者も増え始める一方で、
依然として働くことに慎重であったり、まだ
断念している人々も少なからず混在しているのが
5月時点の状況といえそうだ。

5月の状況をさらに詳しく見ていく。

『地域の危機・釜石の対応(7)』

今回の釜石での
調査、イベント、ヒアリングなどを通じ、
実感したことがある。
それは釜石の地では、
危機への向き合い方とでもいうべきものが、
人々に脈々と受け継がれているということだ。

津波被害、艦砲射撃、公害問題、鉄鋼不況、
集団移転、漁業不振、事業閉鎖、病院問題、
山林被害、東日本大震災等など。
釜石には多種多様な危機に重ね重ね直面してきた歴史がある。
それらの歴史からの経験や教訓を踏まえた上で、
どんなことも軽視はせず、
かといって過度に深刻にもならず、
柔軟な姿勢を保持したかたちで
危機に今も対峙し続けている。

そのときの姿勢とは、
多層的に迫り来る危機を
丸ごと束にして受け止めながら、
小刻みにステップを踏むような動きを続けつつ、
時間をかけて押し返していくといったものだ。

一つずつ課題を即座に解決するには、
地域はいかにもコマが足りない。
反対に束にしてじっくり対処することで
相乗効果が見込めたりもする。
危機が多層ならば、対応も総合化させていく。
総合化がただの大風呂敷とならぬよう、
記憶の継承を含めたリアルな小ネタは欠かせない。

そんな一連の動きは、何度も訪れながら、
危機対応をテーマとしたことで、
初めて気づかされたことだった。
それが同時進行の危機への、
静学的なリスク管理とは異なる、
いかにも釜石らしい
ダイナミックな実践知としての対応なのだ。

はたしてその実践が今後どんな実を結ぶのか。
私たちはこれからも見続けていく。

読者には、本書の釜石の実例から、
多くの地域が直面する危機に対応する
ヒントを見出していただけると思う。

東大社研・中村尚史・玄田有史編、東京大学出版会
『地域の危機・釜石の対応 多層化する構造』より
http://www.utp.or.jp/book/b508909.html
2020年6月30日発売